ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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大野さん、結婚する

十一月。

 

いつものように朝礼が始まる。

 

スタッフが事務所に集まる中、茂田が少し嬉しそうな表情で口を開いた。

 

「みんなに報告があるニダ。」

 

全員の視線が集まる。

 

「冨美子が結婚しました〜!」

 

「おぉー!」

 

事務所は拍手に包まれた。

 

当の本人、大野は少し照れくさそうに笑っている。

 

「ありがとうございます。」

 

茂田は続ける。

 

「今日から名字が変わって、古坂になります!」

 

「よろしくお願いします。」

 

再び拍手が起こった。

 

浜谷も笑顔で拍手を送る。

 

(結婚かぁ……。)

 

身近な人が結婚する。

 

そんな経験は初めてだった。

 

なんだか不思議な気持ちになる。

 

⸻

 

朝礼が終わり、それぞれ持ち場へ向かう。

 

「大野……。」

 

石村が言いかけて止まる。

 

「……古坂さん。」

 

「はい?」

 

「いや、まだ慣れないなぁ。」

 

その様子を見て全員が笑った。

 

⸻

 

少し離れた場所では山神も、

 

「おぅ……。」

 

「大……。」

 

と言いかけ、

 

「古坂。」

 

と小さく言い直す。

 

「難しいな。」

 

珍しく山神が苦笑いを浮かべた。

 

「何年も大野だったもんなぁ。」

 

相馬も笑う。

 

「私も絶対間違えそう。」

 

高崎もうなずく。

 

「しばらくは仕方ないよね〜。」

 

古坂本人は笑いながら言う。

 

「全然大丈夫ですよ。」

 

「私もまだ慣れてないので。」

 

⸻

 

浜谷も景品補充を終え、声を掛けようとする。

 

「あの……。」

 

「大野さん……。」

 

思わず口を押さえる。

 

「古坂さん。」

 

「はい。」

 

「まだ慣れません。」

 

浜谷が照れ笑いすると、古坂も優しく笑った。

 

「私も。」

 

「まだ旧姓で呼ばれると反応しちゃう。」

 

その言葉に二人とも笑ってしまう。

 

⸻

 

昼休み。

 

浜谷はふと考えていた。

 

昨日まで大野さんだった人が、

 

今日から古坂さんになる。

 

名前は変わっても、

 

優しくて穏やかな人柄は何も変わらない。

 

それでも名字一つ変わるだけで、こんなにも新しい人生が始まるものなのか。

 

浜谷にはまだ想像もつかなかった。

 

しかし、ふと実家の母親のことを思い出して笑った。

 

「母さん、元気かな。」

⸻

 

閉店後。

 

帰り支度をしていると、石村が笑いながら言った。

 

「古……。」

 

「大野……。」

 

「いや、古坂さん!」

 

「もうダメだ!」

 

事務所は大笑い。

 

山神も静かに笑う。

 

「おぅ。」

 

「そのうち慣れる。」

 

古坂も笑顔でうなずく。

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ。」

 

浜谷も笑いながら言った。

 

「僕も頑張って慣れます。」

 

その日から、名札やワークスケジュールには「古坂」の二文字が並ぶようになった。

 

少し寂しくて、

 

でも、とてもおめでたい変化。

 

スタッフみんなが少しずつ新しい名前に慣れていく。

 

それもまた、ファンステージの日常だった。

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