ある日の阿佐野店。
浜谷は売り場を巡回しながら、ふと先日の出来事を思い出していた。
それは原町中央店で勤務していた時のこと。
いつものように売り場を歩いていた浜谷。
その背後から――。
「わー!」
「うわぁぁぁ!!」
浜谷は飛び上がった。
振り返ると、そこには高崎。
「高崎さん!びっくりした!」
高崎は楽しそうに笑っている。
「そんなに驚くと思わなかった!」
「めちゃくちゃびっくりしましたよ!」
その時のことを思い出しながら、浜谷はニヤッと笑う。
「……。」
「いいこと思いついた。」
その名も――。
勝手に開催!わー選手権!
まず最初の犠牲者は、細井。
細井が作業している背後から、浜谷が静かに忍び寄る。
そして。
「わー!」
「びっくりした!!」
細井が肩を跳ねさせる。
浜谷は満足そうに笑った。
「わー選手権です!」
「何それ?」
「細井さん、暫定一位おめでとうございます!」
「参加した覚えないんだけど!」
「素晴らしいリアクションでした!」
「もう!びっくりさせないでよ!」
浜谷は笑いながら逃げていく。
続いて――。
古坂。
クレーンゲームの景品を手直ししている。
浜谷はまたしても、そーっと背後へ。
「……。」
そして。
「わー!」
「うわっ!」
古坂が振り返る。
「びっくりした!」
浜谷は嬉しそうに宣言する。
「わー選手権です!」
「何それ!?」
「残念ながら暫定二位です。」
「何の順位!?」
「細井さんには及びませんでした。」
「知らないよ!」
古坂は笑いながら浜谷を見る。
「浜谷くん、今日そんなことやってんの?」
「はい!」
「勝手に開催してます!」
「ほんとしょうもないこと思いつくね!」
「ありがとうございます!」
「褒めてない!」
そして最後。
浜谷が狙ったのは――。
茂田。
クレーンゲームに景品を補充している。
(よし。)
浜谷はゆっくり近づく。
気づかれていない。
今だ。
「わー!」
「……。」
茂田が振り返る。
「なに?」
「……。」
浜谷の笑顔が消える。
「わー選手権です……。」
「わー選手権?」
「はい……。」
「私を驚かすなんて、5億万年早いニダ。」
「全然驚かないじゃないですか。」
「修行が足りないニダ!」
浜谷は肩を落とす。
「暫定三位です……。」
「最下位ニダ?」
「最下位です。」
結果。
暫定一位、細井。
二位、古坂。
三位、茂田。
浜谷は満足そうに仕事へ戻っていった。
しかし。
その後。
カウンター付近では、三人が集まっていた。
細井が口を開く。
「今日の浜谷くん、わー選手権とか言って、みんな驚かしてますよね。」
古坂が笑う。
「私もされた!」
茂田も頷く。
「私もされたニダ。」
「茂田さん驚きました?」
「全然。」
「ですよね。」
三人が笑う。
すると。
先ほど被害に遭った古坂が、悪そうに笑った。
「ねえ。」
「浜谷くんが勝手に始めた選手権なんだからさ。」
細井が古坂を見る。
「うん?」
「浜谷くんも――。」
「わー選手権、参加すべきだよね?」
「確かに!」
細井も笑う。
茂田もニヤリ。
「次は琉くんの番ニダ!」
作戦決行。
一方。
何も知らない浜谷は、上機嫌で店内を巡回していた。
「わー選手権、一位は細井さんかなぁ。」
自分で始めたくだらない企画に満足している。
その時。
物陰から――。
「わー!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
浜谷が飛び上がる。
さらに別方向から。
「わー!!!」
「うわっ!!」
そして。
「わー!!!」
「うわあああああ!!」
浜谷は完全に腰を抜かした。
「ちょっ……!」
「なんなんですか!!」
細井、古坂、茂田が大笑いしている。
細井が拍手する。
「浜谷くん!」
「はい……?」
「わー選手権――。」
「優勝!」
「なんでですか!」
茂田も笑う。
「圧倒的優勝ニダ!」
古坂が頷く。
「あんなに驚いた人いなかったよ!」
「三人がかりは反則でしょ!」
「ルールなんて聞いてないもん。」
「僕も決めてませんけど!」
「じゃあ反則じゃないニダ!」
「そういう問題ですか!?」
三人は大笑い。
浜谷は床に座ったまま、大きくため息をついた。
「もう……。」
「わー選手権こりごりです……。」
こうして。
浜谷が勝手に始めた、わー選手権。
初代王者に輝いたのは――。
発案者、浜谷琉。
ただし本人は。
二度と優勝したくないと思っている。