ある日の阿佐野店。
カウンターで細井と浜谷が話していた。
細井は浜谷の顔を見ているうちに、ふとあることに気づく。
「浜谷くん。」
「はい?」
「髪、伸びたね。」
「あー。」
浜谷は自分の前髪をつまむ。
言われてみれば、かなり伸びてきた。
「そろそろ切らないとですね。」
「結構伸びてるよ。」
「でも……。」
浜谷は髪を触りながら少し考える。
「このまま伸ばしてみようかな。」
「伸ばすの?」
「ちょっと長めもいいかなって。」
すると細井が何気なく言った。
「私は男の人、髪短い方が好きかな。」
「じゃあ!切ります!」
「早っ!」
さっきまで伸ばそうとしていた男とは思えない即答。
細井が笑う。
「いつ切るの?」
「来月……?」
「遅っ!」
「すぐとは言ってないじゃないですか!」
「じゃあ私が切るよ。」
細井が浜谷の髪に目を向ける。
浜谷は一歩後ろへ下がった。
「遠慮しておきます。」
「なんでよ!」
「怖いです!」
「ちゃんと切るって!」
「その『ちゃんと』が信用できないんですよ!」
細井が笑う。
「失礼だなぁ。」
「じゃ、巡回行ってきます!」
浜谷はカウンターを離れた。
クレーンゲームコーナーを歩きながら、景品の状態を確認していく。
しかし。
浜谷はふと、近くのガラスに映った自分を見る。
「……。」
前髪を触る。
少し横へ流してみる。
「こうか?」
今度は反対側。
「いや……こっち?」
細井の言葉が頭に残っている。
『私は男の人、髪短い方が好きかな。』
「……。」
浜谷はもう一度髪を整える。
「やっぱ切った方がいいかな。」
少し上げてみる。
「これは……違うな。」
下ろす。
「こっちか?」
上げる。
下ろす。
横へ流す。
戻す。
「あーでもない。」
また触る。
「こーでもない……。」
完全に髪型が気になっている。
その時。
背後から近づいてくる人影。
「……。」
茂田だった。
浜谷が髪を触っている姿をじっと見る。
そして――。
ニヤリ。
「琉くん。」
「うわっ!」
浜谷が振り返る。
「茂田さん!」
茂田は笑顔のまま言った。
「仕事中に髪触りすぎ。」
「……。」
「ちゃんとしなさい!」
「すみません!」
浜谷は慌てて髪から手を離す。
「いや、ちょっと気になって……。」
「気になるのは分かるけど、仕事中ニダ!」
「はい……。」
茂田と浜谷は、そのままカウンターへ戻る。
そこには細井。
「おかえり。」
「ただいまです……。」
なぜか浜谷の元気がない。
細井が首をかしげる。
「どうしたの?」
浜谷は小さく呟いた。
「好感度下がった……。」
「え?」
「茂田さんに怒られました。」
茂田がすぐ訂正する。
「怒ってないニダ!」
「注意されたんです……。」
細井が笑う。
「何したの?」
「仕事中に髪触りすぎって。」
「……。」
細井が浜谷を見る。
「なんでそんなに髪触ってたの?」
「……。」
浜谷は黙る。
細井を見る。
そして視線を逸らす。
「別に……。」
「何?」
「なんでもないです。」
「怪しい。」
茂田がニヤニヤする。
「細井ちゃんが短い髪好きって言ったからじゃないの?」
「茂田さん!」
「え?」
細井が浜谷を見る。
浜谷の顔が赤くなる。
「違います!」
「じゃあなんで?」
「たまたま気になっただけです!」
細井はニヤッと笑う。
「ふーん。」
「私の好感度は上げたかったんだ?」
「そういうことじゃないです!」
「でも茂田さんの好感度は下がっちゃったね。」
「だから好感度って言わないでください!」
茂田が笑う。
「仕事中はちゃんと仕事するニダ!」
「かしこまりこ様……。」
「よろしいニダ!」
浜谷はため息をつく。
髪を伸ばすか。
短く切るか。
それはまだ決まっていない。
ただ一つ分かったことがある。
仕事中に髪型を気にしすぎると、好感度は下がる。
浜谷は髪に手を伸ばしかけ――。
「……。」
茂田を見る。
そして静かに手を下ろした。