今日は原町中央店。
最近の浜谷は、原町中央店と阿佐野店を行ったり来たりする日々が続いていた。
阿佐野店で何日か働いたと思えば、次は原町中央店。
どちらの店にもすっかり慣れたとはいえ、出勤する店舗を間違えないようにするのだけは気をつけなければならない。
「おはようございまーす」
浜谷が出勤すると、カウンターには山神がいた。
山神が浜谷に気づく。
「琉くん、久しぶり」
「お久しぶりです」
確かに山神と一緒になるのは久々だった。
「元気か?」
「おかげさまで」
浜谷が笑う。
「最近、阿佐野行ったりこっち戻ってきたりなんで」
「忙しいな」
「でも楽しいですよ」
そこへ茂田もやってきた。
「おはよー!」
「おはようございます」
浜谷は準備を済ませると、クレーンゲームコーナーの巡回へ向かった。
カウンターには茂田と山神が残り、何やら雑談を始めている。
それから数分後。
茂田と山神が話していると、クレーンゲームコーナーの方から浜谷が戻ってきた。
「あれ?」
茂田が浜谷を見る。
正確には――。
浜谷と、その隣を歩く小さな女の子を見る。
三歳くらいだろうか。
少女は当然のように浜谷の横を歩いている。
茂田が目を丸くした。
「琉くん、子供いたの?」
「そんなわけないでしょう!」
浜谷が即座に否定した。
山神が笑う。
「じゃあ、その子は?」
「それがですね……」
浜谷が説明しようとしたところで、少女がカウンターを見上げた。
「どうぶつのカードください」
「どうぶつのカード?」
山神が首を傾げる。
「それがわからなくて……」
浜谷も困った顔をしていた。
巡回中、突然この少女に声をかけられたらしい。
茂田も考える。
「今配布してるカードに動物なんてあったかな?」
「ないですよね?」
「たぶん」
浜谷はカウンターの引き出しを開けた。
現在、原町中央店で配布しているカード類を取り出す。
「ちょっと待ってね」
少女の前に並べていく。
「この中に、どうぶつのカードあるのか?」
少女はじーっとカードを見る。
浜谷、茂田、山神もその様子を見守った。
やがて少女が一枚を指さした。
「これね」
「これ?」
浜谷がカードを手に取る。
「これがどうぶつのカード?」
「あのね」
「うん」
「ちがう」
「違うんかい!」
浜谷が思わずツッコんだ。
茂田が吹き出す。
山神も静かに笑っている。
「じゃあ、こっちは?」
「ちがう」
「これは?」
「ちがう」
「これ?」
「ちがう」
全滅。
「一個も違う……」
浜谷は頭を抱えた。
しかし、ここで諦めるわけにもいかない。
「そのどうぶつって、何の動物?」
「どうぶつ!」
「うん、どうぶつなのは分かってるんだけどね」
「かわいいの」
「かわいい動物……」
範囲が広すぎる。
「犬?」
「ちがう」
「猫?」
「ちがう」
「うさぎ?」
「ちがう」
「熊?」
「ちがう」
「……マンボウ?」
「ちがう」
茂田が浜谷を見る。
「なんで最後マンボウ?」
「好きなんで」
「琉くんの好みは聞いてないよ」
浜谷は再び少女に向き直った。
「そのカード、どこでもらえるの?」
「ここ!」
「ここ?」
「うん!」
「じゃあ、あるはずなんだけどなぁ……」
茂田も引き出しを確認する。
「本当にないね」
山神が少女に優しく尋ねる。
「前にもらったことあるの?」
「ある!」
「このお店で?」
「うん!」
浜谷たちは顔を見合わせた。
ますます分からない。
「どんなカード?」
「どうぶつがいるの」
「それは聞いた」
「かわいいの」
「それも聞いた」
「キラキラしてる」
「新情報!」
浜谷は食いついた。
だが、それ以上の情報は出てこない。
浜谷は店内にあるカード類を思い浮かべる。
キャンペーン。
ゲーム。
配布物。
どれを考えても、少女の言う「どうぶつのカード」に辿り着かない。
「なんだ……? どうぶつのカードって……」
完全に迷宮入りしかけた、その時。
「すみませーん!」
女性が慌ててカウンターへやってきた。
「あっ、ママ!」
少女が振り返る。
母親はホッとした表情を浮かべた。
「勝手に行っちゃダメでしょ! すみません、この子が……」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
浜谷が答える。
そして思い出したように尋ねる。
「あの、すみません。どうぶつのカードってご存じですか?」
「どうぶつのカード?」
母親が少女を見る。
「ああ!」
何かに気づいた。
「あれ、ここのじゃないよ」
「え?」
少女が母親を見上げる。
「この前行った、別のゲームセンターでもらったやつでしょ?」
「…………」
浜谷。
茂田。
山神。
三人が固まる。
浜谷がゆっくり聞く。
「別の……ゲームセンター?」
「はい。すみません、この子、ゲームセンターなら同じものがあると思ってるみたいで」
「あぁ〜……!」
全部つながった。
そりゃ見つからない。
ファンステージには存在しないカードだったのだから。
少女は母親と手をつなぐ。
「お兄ちゃん、ばいばい」
「あ、ばいばい」
浜谷も手を振る。
二人が去っていく。
しばしの沈黙。
山神が口を開いた。
「解決したな」
「しましたね……」
浜谷はカウンターいっぱいに広げたカードを見る。
茂田がニヤニヤしている。
「でも琉くん、すっかり子連れ店員だったね」
「だから俺の子じゃないですって!」
「三歳くらい?」
「逆算しないでください!」
山神が笑う。
浜谷はカードを片付けながらため息をついた。
「めちゃくちゃ探したのに……」
結局、どうぶつのカードはファンステージにはなかった。
それでも少女のため、店中のカードを探し続けた浜谷。
その姿、まさしく――。
こづれ店員熱血派。