ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

156 / 159
初めの一敗!あ、最後も。

今日は久しぶりの原町中央店勤務。

 

最近は阿佐野店で働くことが多い浜谷だが、所属はあくまで原町中央店。慣れ親しんだ店内に入ると、どこか安心するものがある。

 

「おはようございまーす!」

 

出勤して着替えを済ませ、売り場へ出た浜谷。

 

しかし、その直後だった。

 

「浜谷くーん!」

 

高崎が手招きしている。

 

「はい!」

 

「このメダルゲーム、センサーのエラー出てるんだけど見てくれない?」

 

「分かりました!」

 

出勤早々のメンテナンス。

 

浜谷は工具を持って筐体の前へ向かった。

 

エラー内容を確認し、問題がありそうなセンサーを取り外してみる。

 

「……あ。」

 

配線を見る。

 

「断線してますね。」

 

「交換できそう?」

 

「ちょっと在庫見てきます!」

 

浜谷は交換部品を探しに向かう。

 

棚を確認。

 

工具箱の周辺も確認。

 

別の部品置き場も探す。

 

しかし――。

 

「ないなぁ……。」

 

交換できるセンサーが見つからない。

 

浜谷は高崎のところへ戻った。

 

「高崎さん、在庫なかったです。」

 

「あらー。」

 

「在庫がないので、僕じゃどうしようもないですね。次、生田さん来る時にお願いします。」

 

「そうしよっか。」

 

浜谷は筐体を見る。

 

「……一敗目。」

 

「何が?」

 

「いや、こっちの話です。」

 

今日最初のメンテナンス。

 

敗北。

 

とはいえ、まだ一日は始まったばかり。

 

すると今度は、別のメダルゲームで通信エラーが発生した。

 

「次はこっちか。」

 

エラー内容を見る。

 

「あ、これはやったことある。」

 

浜谷は迷わず再起動をかける。

 

しばらく待つ。

 

そして――。

 

正常画面。

 

「よし!」

 

無事復旧。

 

「一勝目!」

 

先ほどの一敗を、早くも取り返した。

 

その後。

 

今度はクレーンゲーム。

 

「アーム動かないな……。」

 

操作しても、アームが正常に動かない。

 

浜谷は内部を確認する。

 

「なんだこれ……。」

 

一つずつ原因を探る。

 

配線。

 

モーター。

 

各部品。

 

しばらく苦戦していると。

 

「ん?」

 

浜谷が顔を近づける。

 

「これか?」

 

歯車を見る。

 

うまく噛み合っていない。

 

位置を調整し、慎重に噛み合わせる。

 

「これでどうだ。」

 

動作確認。

 

アームが動く。

 

「よっしゃ!」

 

二勝目。

 

さらにその後。

 

またメダルゲーム。

 

今度はメダルが内部で詰まっていた。

 

「これは初めてだな……。」

 

浜谷は少し考える。

 

経験したことのないエラー。

 

しかし、すぐに諦めることはしない。

 

内部を確認しながら、メダルがどこを通っているのかを追っていく。

 

「ここじゃない。」

 

さらに奥。

 

「……あ。」

 

詰まっている場所を発見。

 

慎重に取り除く。

 

動作確認。

 

正常。

 

「直った!」

 

初見のエラーにも、自力で対応できた。

 

三勝目。

 

しばらくして。

 

イベントコーナーの近くで川原と顔を合わせる。

 

「浜谷さん、お疲れ様です。」

 

「お疲れ様です!」

 

浜谷はどこか満足そうだった。

 

川原が首をかしげる。

 

「なんか嬉しそうですね。」

 

「いやぁ。」

 

浜谷は得意げに言う。

 

「今日は三勝一敗ですね。」

 

「何の成績ですか?」

 

「メンテです。」

 

川原が笑う。

 

「数えてるんですか?」

 

「今日は数えてます!」

 

朝一番こそ負けた。

 

しかし、そこから三連勝。

 

通信エラー。

 

クレーンゲーム。

 

メダル詰まり。

 

しかも最後の一つは、初めて遭遇した症状を自力で直した。

 

「今日は勝ち越しですよ。」

 

「よかったですね!」

 

「このまま気持ちよく帰ります!」

 

そして時間は流れ――。

 

退勤まで、あと十分。

 

浜谷は時計を見る。

 

「よし。」

 

「あと十分!」

 

今日はいい一日だった。

 

最初の一敗こそあったものの、その後は三連勝。

 

このまま何事もなく終われば――。

 

その時。

 

メダルゲームからエラー音が響いた。

 

「……。」

 

浜谷が止まる。

 

ゆっくり振り返る。

 

「……マジ?」

 

筐体へ向かい、エラーを確認する。

 

内部を見る。

 

少し触ってみる。

 

「……。」

 

時計を見る。

 

退勤まで、あと十分。

 

もう一度筐体を見る。

 

「これ。」

 

「十分じゃ無理だな。」

 

しばらく考えた浜谷だったが、無理に手を出すことはしなかった。

 

「……諦めよう。」

 

次の日には生田が来る。

 

中途半端に分解して時間切れになるより、任せた方がいい。

 

浜谷は静かに工具を片付けた。

 

そこへ川原が通りかかる。

 

「あれ?」

 

「浜谷さん、さっき三勝一敗って言ってませんでした?」

 

浜谷は遠い目で答える。

 

「三勝二敗になりました。」

 

「最後に負けたんですね。」

 

「はい……。」

 

今日の浜谷。

 

最初のエラーで、一敗。

 

そこから怒涛の三連勝。

 

そして――。

 

最後の最後で、もう一敗。

 

浜谷は退勤しながら呟いた。

 

「初めの一敗……。」

 

少し間を置く。

 

「あ、最後も。」

 

本日の戦績――三勝二敗。

 

それでも。

 

しっかり勝ち越しである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。