ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

159 / 160
はまの助一座〜景品とって紅夢芝居〜

阿佐野店。

 

朝。

 

「おはようございまーす」

 

浜谷が出勤してきた。

 

いつも通りの浜谷。

 

――に、見えた。

 

「おはよう、浜谷くん」

 

古坂が声をかける。

 

すると浜谷は立ち止まった。

 

「…………」

 

「?」

 

古坂を見る。

 

そして、なぜか深々と頭を下げた。

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「…………は?」

 

古坂が固まった。

 

「何?」

 

「ですから」

 

浜谷は胸に手を当てる。

 

「浜谷琉改め、はまの助でごぜぇやす!」

 

「朝から何言ってんの?」

 

「へい!」

 

「返事だけいいな」

 

そこへ細井がやってきた。

 

「浜谷くん、おはよ」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「え?」

 

「本日、あっしの名は、はまの助でごぜぇやす!」

 

細井は古坂を見る。

 

「……どうしたの?」

 

「知らない。出勤した時からこれ」

 

「なんで?」

 

「知らないって」

 

浜谷――いや、はまの助は制服に着替えると、いつも通りクレーンゲームコーナーへ向かった。

 

ただし。

 

「へい! 巡回行ってまいりやす!」

 

「普通に行ってきて」

 

「かしこまりやした!」

 

「なんなの今日」

 

細井は笑っていた。

 

しばらくして。

 

クレーンゲームコーナー。

 

「すみません」

 

お客さんに呼ばれた。

 

「へい!」

 

はまの助が駆けつける。

 

「この景品、どうやったら取れますか?」

 

「なるほど」

 

浜谷は筐体を見る。

 

そして腕を組んだ。

 

「こいつぁ、なかなか手強い景品でごぜぇやすねぇ」

 

「……はい?」

 

「ですが、ご安心くだせぇ!」

 

浜谷は景品を指さす。

 

「この辺りを狙っていただきやすと、動きやすいかと!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「へい! ご武運を!」

 

お客さんは若干困惑しながらプレイを再開した。

 

そこへ樋口が通りかかる。

 

「浜谷くん」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「何それ?」

 

「本日のあっしの名でごぜぇやす!」

 

「本日限定なんだ」

 

さらに高村。

 

「浜谷くーん、ちょっとこれ運ぶの手伝って!」

 

「へい! はまの助にお任せくだせぇ!」

 

「はまの助?」

 

大澤までやってくる。

 

「浜谷くん、これ」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「……浜谷くん」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「浜谷くん」

 

「…………」

 

浜谷が大澤を見る。

 

大澤も浜谷を見る。

 

「……へい」

 

「浜谷くん」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「頑固」

 

その頃には、阿佐野店スタッフの間で情報が共有されていた。

 

――今日の浜谷は、はまの助。

 

理由は不明。

 

昼過ぎ。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

茂田がやってきた。

 

「お疲れ様です!」

 

古坂たちが挨拶する。

 

浜谷も振り返る。

 

「おぉ!」

 

茂田が手を振った。

 

「琉くん、お疲れー!」

 

「…………」

 

浜谷が茂田を見る。

 

「?」

 

「店長さん」

 

「はい?」

 

浜谷は姿勢を正した。

 

「琉くんなんて男は、ここにはいやせん」

 

「え?」

 

「ここにいるのは――」

 

胸を張る。

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「…………」

 

茂田が古坂を見る。

 

古坂は首を横に振った。

 

「朝からずっとこれ」

 

「なんで?」

 

「誰も知らない」

 

茂田は浜谷を見る。

 

「はまの助?」

 

「へい!」

 

「琉くん?」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「浜谷くん?」

 

「はまの助でごぜぇやす!」

 

「はまの助?」

 

「へい!」

 

「面白い!」

 

「受け入れた!」

 

古坂がツッコんだ。

 

そして午後。

 

一人のお客さんがクレーンゲームに苦戦していた。

 

狙っているのは、赤い衣装を着た大きなぬいぐるみ。

 

何度挑戦しても取れない。

 

「はまの助ー!」

 

細井が呼ぶ。

 

「へい!」

 

「お客様、アドバイスお願い!」

 

「かしこまりやした!」

 

浜谷は筐体へ向かう。

 

景品の位置を見る。

 

「ふむ……」

 

赤いぬいぐるみ。

 

浜谷の目が鋭くなる。

 

「こいつぁ……」

 

「取れますか?」

 

お客さんが尋ねる。

 

浜谷は静かに頷いた。

 

「取れやす」

 

「本当ですか?」

 

「へい」

 

アームの位置を確認する。

 

「次は右側を狙ってくだせぇ。少しずつ寄せていきやしょう」

 

お客さんが挑戦する。

 

動いた。

 

「おっ!」

 

もう一度。

 

さらに動く。

 

「いい感じでごぜぇやす!」

 

そして――。

 

ゴトン!

 

「取れた!」

 

「お見事!」

 

浜谷が拍手する。

 

周囲にいた細井たちも拍手した。

 

「よかったですね!」

 

お客さんは嬉しそうに赤いぬいぐるみを抱える。

 

「ありがとうございます、はまの助さん!」

 

「へい!」

 

浜谷は満足そうに頷いた。

 

「景品とって――」

 

赤いぬいぐるみを見る。

 

「紅でごぜぇやす!」

 

「何それ?」

 

細井が笑った。

 

古坂も呆れながら笑う。

 

「一日中そのキャラ続けるつもり?」

 

「へい!」

 

「疲れないの?」

 

「…………」

 

浜谷が一瞬黙る。

 

「ちょっと疲れてきやした」

 

「やっぱり!」

 

夕方。

 

休憩室。

 

浜谷は椅子に座っていた。

 

細井がやってくる。

 

「はまの助、お疲れ」

 

「…………」

 

浜谷が顔を上げる。

 

「浜谷です」

 

「戻った!」

 

「もう限界です」

 

「何だったの、今日?」

 

「分かりません」

 

「自分で始めたんでしょ?」

 

「朝起きた時、なんとなく今日は『はまの助』やなって」

 

「どういう目覚め方したの?」

 

浜谷は机に突っ伏した。

 

「もう二度とやりません……」

 

そこへ茂田が顔を出す。

 

「はまの助ー!」

 

浜谷は顔を上げた。

 

「浜谷です!」

 

「はまの助!」

 

「浜谷!」

 

「はまの助!」

 

「浜谷ですって!」

 

古坂まで顔を出す。

 

「はまの助、これお願い」

 

「古坂さんまで!?」

 

樋口もやってくる。

 

「はまの助ー」

 

「やめてください!」

 

高村。

 

「はまの助!」

 

「もう浜谷に戻ったんです!」

 

大澤。

 

「はまの助」

 

「大澤さんまで!?」

 

完全に定着してしまった。

 

たった一日。

 

理由もなく突然現れ、阿佐野店をかき回した謎の男。

 

その名は――。

 

はまの助。

 

「だから浜谷ですって!!!」

 

はまの助一座。

 

本日、こけら落としが千秋楽でごぜぇやす。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。