ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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アメリカザリガニに愛を込めて

阿佐野店。

 

浜谷は届いたばかりの景品が入った段ボールを開けていた。

 

「今日は何が来たんだろ」

 

袋に入った景品を取り出す。

 

「…………」

 

赤い。

 

そして、妙にリアル。

 

ハサミ。

 

脚。

 

長い触角。

 

「アメリカザリガニ……?」

 

それは、アメリカザリガニをリアルに再現したキーホルダーだった。

 

そこへ細井がやってくる。

 

「何それ?」

 

浜谷が見せる。

 

「アメリカザリガニのキーホルダーです」

 

「うわ!」

 

細井が少し身を引いた。

 

「リアル!」

 

さらに古坂も覗き込む。

 

「なになに?」

 

「これです」

 

「うわぁ……」

 

古坂は顔をしかめた。

 

「ちょっと気持ち悪いかも」

 

「え?」

 

浜谷が古坂を見る。

 

その顔は――。

 

なぜか輝いていた。

 

「めっちゃいいじゃないですか!」

 

「え?」

 

今度は古坂が驚く。

 

浜谷はアメリカザリガニのキーホルダーを手に取り、まじまじと眺める。

 

「懐かしいなぁ……」

 

「懐かしい?」

 

細井が聞く。

 

「俺、保育園の頃よく実家の近くの田んぼで捕まえてました!!」

 

「ザリガニを?」

 

「はい!」

 

浜谷の声が明らかに弾んでいる。

 

「田んぼとか用水路とかにいたんですよ。アメリカザリガニ!」

 

「へえー」

 

「こういう赤いやつ!」

 

浜谷はキーホルダーを掲げる。

 

「ハサミがカッコいいんですよ!」

 

細井と古坂が顔を見合わせた。

 

「琉くん、ザリガニ好きなの?」

 

「好きっていうか……」

 

浜谷はキーホルダーを見る。

 

「……好きですね」

 

「今決めたでしょ」

 

細井が笑った。

 

しかし、浜谷のアメリカザリガニ愛は止まらない。

 

「でもすごいな、これ。ちゃんと脚も作ってある」

 

「細かいね」

 

「触角もある!」

 

「あるね」

 

「ハサミも左右ちゃんと――」

 

古坂が遮る。

 

「浜谷くん、そんなにザリガニに詳しかったっけ?」

 

「今日、俺も初めて知りました」

 

「自分のことなのに?」

 

そこへ樋口がやってきた。

 

「それ、今日展開するやつ?」

 

「そうみたいです」

 

古坂が答える。

 

樋口はキーホルダーを確認する。

 

「ああ、これね。じゃあ私、設定してきます!」

 

「お願いします!」

 

なぜか浜谷が元気よく返事をした。

 

「浜谷くんの景品じゃないからね?」

 

「分かってますよ!」

 

樋口は空いているクレーンゲームへ向かい、設定作業を始める。

 

アームの強さ。

 

景品の置き方。

 

取り口までの動線。

 

何度かテストプレイを繰り返して調整していく。

 

しばらくして。

 

「こんな感じかな」

 

樋口が設定を完成させた。

 

「浜谷くん、景品並べてもらっていい?」

 

「はい!」

 

浜谷は待ってましたと言わんばかりに、アメリカザリガニのキーホルダーが入った箱を持ってきた。

 

一個。

 

二個。

 

三個。

 

並べていく。

 

しかし――。

 

「…………」

 

浜谷の手が止まった。

 

細井が横から覗き込む。

 

「どうしたの?」

 

「いや……」

 

浜谷は並んだザリガニを見る。

 

一匹の向きを変えた。

 

「こっちの方がいいな」

 

さらに一匹。

 

「これは少し斜めで……」

 

また一匹。

 

「こいつはハサミが見えるようにしよう」

 

細井が笑う。

 

「こいつって言い始めた」

 

古坂もやってくる。

 

「まだ並べてるの?」

 

「もうちょっとです」

 

浜谷は真剣だった。

 

「せっかくアメリカザリガニなんだから、ちゃんとカッコよく見せたいんですよ」

 

「キーホルダーだよ?」

 

「キーホルダーだからですよ!」

 

「どういうこと?」

 

浜谷は答えない。

 

右を向いているザリガニ。

 

左を向いているザリガニ。

 

正面からハサミが見えるザリガニ。

 

それぞれが綺麗に見えるよう、微妙に角度を変えていく。

 

樋口まで戻ってきた。

 

「……何してるの?」

 

「並べてます」

 

「それは見れば分かるけど」

 

「この子、こっち向きの方がいいと思いません?」

 

「この子?」

 

樋口が笑った。

 

「愛着湧きすぎじゃない?」

 

浜谷は真剣な顔で最後の一匹を置いた。

 

そして一歩下がる。

 

じっと全体を見る。

 

「…………」

 

細井。

 

古坂。

 

樋口。

 

三人もなぜか黙って見守る。

 

浜谷が一匹だけ数センチ動かした。

 

「よし!」

 

満足そうに頷く。

 

「完成です!」

 

古坂がクレーンゲームを見る。

 

「……何が変わったの?」

 

「全然違いますよ!」

 

「そう?」

 

「見てください。このハサミの見え方!」

 

「分かんない」

 

「なんで!?」

 

細井が笑いながら浜谷を見る。

 

「琉くん、今日一番楽しそうだね」

 

「だってアメリカザリガニですよ?」

 

「その理由が分からないんだよ」

 

浜谷は改めて、自分が並べた景品を眺めた。

 

幼い頃、実家の近くで何度も捕まえたアメリカザリガニ。

 

まさか大人になって、ゲームセンターでそのキーホルダーを一匹ずつ真剣に並べることになるとは思わなかった。

 

「いっぱい取ってもらえよ」

 

浜谷が小さく呟く。

 

古坂が振り返った。

 

「今、ザリガニに話しかけた?」

 

「話しかけてません」

 

「絶対話しかけたよね?」

 

「気のせいです」

 

その日の阿佐野店。

 

クレーンゲームの一角には、誰にも頼まれていないのに異様なほど綺麗に並べられたアメリカザリガニたちがいた。

 

そこには確かに――。

 

浜谷の愛が込められていた。

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