原町中央店。
浜谷は景品倉庫へ入った。
「失礼しまーす」
倉庫の中では、石村、高崎、相馬の三人が景品の準備をしていた。
段ボールを開け、これから店頭へ出す景品を仕分けている。
「お、浜谷くん」
石村が振り返った。
「何か取りに来た?」
「はい。クレーンゲームの補充用の景品を――」
そう言いながら、浜谷が三人の横を通り過ぎた。
その瞬間。
ボトッ。
「ん?」
棚に置かれていたぬいぐるみが一つ、床へ落ちた。
浜谷が立ち止まる。
「落ちましたよ」
「あ、本当だ」
高崎が拾い上げる。
「置き方悪かったかな?」
「かもしれませんね」
浜谷は特に気にすることもなく、目的の景品を持って倉庫を出ていった。
「失礼しましたー」
数分後。
再び倉庫の扉が開いた。
「すみません、もう一個ありました」
浜谷だった。
「また来た」
相馬が笑う。
「さっき一緒に持っていけばよかったのに」
「完全に忘れてました」
浜谷が棚の前を通る。
その瞬間。
ボトッ。
「…………」
また景品が落ちた。
浜谷が止まる。
石村も止まる。
高崎も止まる。
相馬も止まる。
四人が床の景品を見る。
「……また?」
浜谷が呟いた。
高崎が景品を拾う。
「また浜谷くんが通った瞬間だったね」
「偶然ですよ」
「まあ、偶然だよね」
浜谷は目的の景品を手に取る。
「じゃあ、戻ります」
そして倉庫を出ていった。
さらに数分後。
ガチャ。
「すみません」
「また来た!」
高崎が笑った。
浜谷が顔を出す。
「今度は何?」
石村が尋ねる。
「ハサミ探してて」
「そこにあるよ」
相馬が棚を指さす。
「あ、ありがとうございます」
浜谷が歩き出す。
石村。
高崎。
相馬。
三人の視線が浜谷へ集まる。
「……なんですか?」
「いや」
「別に」
「気にしないで」
「めちゃくちゃ気になるんですけど」
浜谷が一歩。
二歩。
三歩。
そして三人の前を通過した瞬間。
ボトッ。
「ほらぁ!!!」
高崎が叫んだ。
「なんで!?」
浜谷も叫ぶ。
また景品が落ちた。
しかも今度は、さっきまで誰も触っていなかった棚からである。
石村が浜谷を見る。
「浜谷くん……」
「俺じゃないですよ!」
「まだ何も言ってないよ」
「絶対俺のせいにしようとしてたじゃないですか!」
相馬が落ちた景品を拾う。
「でも三回とも、浜谷くんが通った瞬間よね」
「偶然ですって!」
浜谷はハサミを持って倉庫を出た。
「もう来ませんから!」
「はいはい」
ところが。
しばらくして。
浜谷は再び景品倉庫の前にいた。
「…………」
中に入ろうとして、止まる。
嫌な予感がする。
そっと扉を開けた。
石村、高崎、相馬が一斉に浜谷を見る。
「…………」
「…………」
「…………」
浜谷も三人を見る。
「……入っていいですか?」
高崎が頷く。
「どうぞ」
「なんでそんな警戒してるんですか」
「してないよ」
「してますやん」
浜谷が倉庫へ入る。
一歩。
二歩。
三歩。
高崎が棚を見る。
石村も棚を見る。
相馬も棚を見る。
浜谷が三人の横を通る。
ボトッ。
「また落ちた!!!」
「なんでやねん!!!」
浜谷が頭を抱えた。
「俺、何も触ってないですよ!?」
石村が腕を組む。
「これはもう偶然じゃないんじゃない?」
「じゃあ何なんですか!」
高崎が考える。
「浜谷くんが通ると景品が落ちる」
「嫌な能力みたいに言わないでください!」
相馬が笑う。
「でも本当に毎回ね」
浜谷は落ちた景品を見る。
「景品が……」
三人を見る。
「突然……」
もう一度、床を見る。
「落ちた……」
「うん」
浜谷が固まる。
「…………」
何かに気づいた。
「景品」
石村たちが浜谷を見る。
「突然」
「?」
「落ちた」
浜谷が指を三本立てる。
「景品・突然・落ちた」
高崎が首を傾げる。
「だから?」
浜谷は真顔で言った。
「つまり……TKOです」
「…………」
沈黙。
相馬が口を開く。
「Kは?」
「景品」
「景品はKなの?」
「KEIHINです」
「そこローマ字なんだ」
石村が笑う。
高崎も吹き出した。
「じゃあTは突然?」
「TOTSUZEN」
「Oは落ちた?」
「OCHITA」
「全部ローマ字!」
「TKOです!」
浜谷はなぜか自信満々だった。
その瞬間。
ボトッ。
また景品が落ちた。
四人が床を見る。
「…………」
浜谷はゆっくり顔を上げた。
「今、俺動いてないですよね?」
石村が頷く。
「動いてないね」
「じゃあ俺関係ないじゃないですか!」
高崎が笑う。
「よかったね、疑い晴れて」
「何の疑いやったんですか!」
相馬は落ちた景品を拾いながら呟いた。
「置き方が悪かっただけね」
「最初からそれですよ!」
結局。
浜谷が謎の能力に目覚めたわけでもなく。
景品倉庫に怪奇現象が起きたわけでもなく。
ただ単に、景品の積み方が少し不安定だっただけだった。
それでも、この日。
浜谷が倉庫を通るたびに起きた現象は――。
景品。
突然。
落ちた。
つまり。
「TKO!」
「もういいよ!」
原町中央店に、見事なTKOが決まった。