原町中央店。
休憩時間。
珍しく浜谷、茂田、川原、日村の四人が休憩室に集まっていた。
外はすっかり暗くなっている。
「ねえ」
茂田が突然口を開いた。
「せっかくだから、怖い話しない?」
「なんでですか」
浜谷が即座に聞き返す。
「なんとなく!」
「理由弱いなぁ」
川原が笑う。
日村も椅子に座りながら頷いた。
「イインジャナイ? この店、長いこと働いてると変なこと結構あるし」
「え、日村さんやめてくださいよ」
「琉くん怖いの?」
茂田がニヤニヤする。
「別に怖くないですけど」
「じゃあ決まり!」
四人の奇妙な話が始まった。
最初は茂田。
「これはね……私が原町中央店で閉店作業してた時の話なんだけど」
「いきなり店の話ですか」
「その方が怖いでしょ?」
閉店後。
誰もいないメダルゲームコーナー。
茂田が事務所で作業していると。
突然。
ガラガラガラガラ――。
大量のメダルが払い出される音が聞こえた。
「え……」
誰もいないはず。
茂田が恐る恐るメダルコーナーへ向かう。
「それで?」
川原が身を乗り出す。
「誰もいなかったの」
「うわ……」
「でも、一台だけ動いてた」
浜谷が顔をしかめる。
「故障じゃないんですか?」
「電源切れてた」
「…………」
浜谷が黙った。
茂田が低い声で続ける。
「電源の切れたメダルゲームが、勝手に動いてたの」
「それ普通に怖いやつじゃないですか!」
次は川原。
「じゃあ私も」
ある常連客の話。
いつも決まった時間に現れる男性。
毎回同じクレーンゲームをプレイし、必ず同じ場所に立つ。
そして帰り際。
必ずスタッフに一言だけ言う。
『また明日』
「普通じゃないですか?」
浜谷が言う。
「私もそう思ってたんです」
しかし、ある日。
川原は何気なく昔のスタッフノートを見つけた。
十年以上前の記録。
そこには。
今とまったく同じ特徴の常連客について書かれていた。
服装。
遊ぶゲーム。
立つ場所。
そして帰り際の――。
『また明日』
「…………」
浜谷が川原を見る。
「同じ人?」
「写真も残ってたんですよ」
「それで?」
「今と全然変わってなかったんです」
「怖っ!」
浜谷が椅子を少し後ろへ動かした。
茂田は楽しそうに笑っている。
「次、ヒム!」
「俺?」
日村が腕を組む。
「これはホントにあった話」
「それ一番怖いやつ!」
メンテナンス用の工具棚。
ある日、日村が工具を整理していた。
ドライバー。
ペンチ。
レンチ。
そして。
「千枚通しが一本あったんだよ」
「千枚通し?」
「そう」
だが日村には、その千枚通しを工具棚に入れた記憶がなかった。
誰に聞いても知らない。
しかも。
先端には――。
赤い液体。
「…………」
川原が黙る。
茂田も真顔になる。
浜谷が尋ねた。
「それ……何の液体だったんですか?」
日村は首を横に振った。
「分からない」
「調べてないんですか?」
「気づいた時には、その千枚通し自体なくなってた」
「うわぁ……」
浜谷が腕をさする。
「嫌やな、それ……」
三人の話が終わった。
しばらく沈黙。
そして。
茂田が浜谷を見る。
「じゃあ最後、琉くん!」
「俺ですか?」
「なんか奇妙な話ない?」
「奇妙な話……」
浜谷は少し考えた。
「あ」
何かを思い出した。
「ありますよ」
三人が浜谷を見る。
浜谷は静かに話し始めた。
「僕ね昔から」
「うん」
「女性のブラジャーを一発で取るのが得意なんです」
「…………」
沈黙。
川原が浜谷を見る。
「はい?」
茂田も固まる。
「何の話?」
「とにかく聞いてください」
「怖い話だよね?」
「怖い話です」
浜谷は続ける。
「この間も、そういう機会があってね……」
「どういう機会!?」
川原がツッコむ。
浜谷は無視して続けた。
「女性の背中に手を伸ばして……いつも通りパチンッとしようとしたんです……」
「ちょっと待って!」
「イツモドオリ…」
「ところが……」
浜谷の声が低くなる。
「いくらやっても……パチンッとならない」
「…………」
「おかしいな……おかしいな……」
浜谷は真剣だった。
「おぞましいな……おぞましいな……と思ってたらね……」
三人が浜谷を見る。
「そのブラジャー……」
間。
浜谷がゆっくり顔を上げる。
「なんと……」
さらに間。
「フロントホックでした」
「…………」
静寂。
数秒後。
川原が口を開いた。
「どこが怖いんですか!」
「怖いでしょう!」
「何が!?」
茂田も笑い出す。
「琉くんだけジャンル違うじゃん!」
「奇妙な話ですよ!」
「ピンクな話でしょ!」
日村は顔を赤らめながら、尋ねる。
「しかも誰の話なの?」
「それは言えません」
「そこだけ妙にリアルにするな!」
川原が浜谷を指さす。
「ていうか一発で取るのが得意って何なんですか!」
「特技です」
「そんな特技いらないです!」
三人の怪談によって冷え切っていた休憩室。
浜谷の話によって、その空気は完全に破壊された。
真夜中に動くメダルゲーム。
歳を取らない常連客。
赤い液体の付着した、謎の千枚通し。
そして。
フロントホック。
この中で最も恐ろしいものは何だったのか。
それは誰にも分からない。
ただ一つ分かることがあるとすれば。
「浜谷さんの話が一番怖かったです」
「ほら!」
「別の意味でです!」
世にも奇妙で。
ちょっとだけピンクな物語。
今夜、あなたのブラジャーも――。
一発で外されるかもしれません。