ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

165 / 174
世にもピンクな物語

原町中央店。

 

休憩時間。

 

珍しく浜谷、茂田、川原、日村の四人が休憩室に集まっていた。

 

外はすっかり暗くなっている。

 

「ねえ」

 

茂田が突然口を開いた。

 

「せっかくだから、怖い話しない?」

 

「なんでですか」

 

浜谷が即座に聞き返す。

 

「なんとなく!」

 

「理由弱いなぁ」

 

川原が笑う。

 

日村も椅子に座りながら頷いた。

 

「イインジャナイ? この店、長いこと働いてると変なこと結構あるし」

 

「え、日村さんやめてくださいよ」

 

「琉くん怖いの?」

 

茂田がニヤニヤする。

 

「別に怖くないですけど」

 

「じゃあ決まり!」

 

四人の奇妙な話が始まった。

 

最初は茂田。

 

「これはね……私が原町中央店で閉店作業してた時の話なんだけど」

 

「いきなり店の話ですか」

 

「その方が怖いでしょ?」

 

閉店後。

 

誰もいないメダルゲームコーナー。

 

茂田が事務所で作業していると。

 

突然。

 

ガラガラガラガラ――。

 

大量のメダルが払い出される音が聞こえた。

 

「え……」

 

誰もいないはず。

 

茂田が恐る恐るメダルコーナーへ向かう。

 

「それで?」

 

川原が身を乗り出す。

 

「誰もいなかったの」

 

「うわ……」

 

「でも、一台だけ動いてた」

 

浜谷が顔をしかめる。

 

「故障じゃないんですか?」

 

「電源切れてた」

 

「…………」

 

浜谷が黙った。

 

茂田が低い声で続ける。

 

「電源の切れたメダルゲームが、勝手に動いてたの」

 

「それ普通に怖いやつじゃないですか!」

 

次は川原。

 

「じゃあ私も」

 

ある常連客の話。

 

いつも決まった時間に現れる男性。

 

毎回同じクレーンゲームをプレイし、必ず同じ場所に立つ。

 

そして帰り際。

 

必ずスタッフに一言だけ言う。

 

『また明日』

 

「普通じゃないですか?」

 

浜谷が言う。

 

「私もそう思ってたんです」

 

しかし、ある日。

 

川原は何気なく昔のスタッフノートを見つけた。

 

十年以上前の記録。

 

そこには。

 

今とまったく同じ特徴の常連客について書かれていた。

 

服装。

 

遊ぶゲーム。

 

立つ場所。

 

そして帰り際の――。

 

『また明日』

 

「…………」

 

浜谷が川原を見る。

 

「同じ人?」

 

「写真も残ってたんですよ」

 

「それで?」

 

「今と全然変わってなかったんです」

 

「怖っ!」

 

浜谷が椅子を少し後ろへ動かした。

 

茂田は楽しそうに笑っている。

 

「次、ヒム!」

 

「俺?」

 

日村が腕を組む。

 

「これはホントにあった話」

 

「それ一番怖いやつ!」

 

メンテナンス用の工具棚。

 

ある日、日村が工具を整理していた。

 

ドライバー。

 

ペンチ。

 

レンチ。

 

そして。

 

「千枚通しが一本あったんだよ」

 

「千枚通し?」

 

「そう」

 

だが日村には、その千枚通しを工具棚に入れた記憶がなかった。

 

誰に聞いても知らない。

 

しかも。

 

先端には――。

 

赤い液体。

 

「…………」

 

川原が黙る。

 

茂田も真顔になる。

 

浜谷が尋ねた。

 

「それ……何の液体だったんですか?」

 

日村は首を横に振った。

 

「分からない」

 

「調べてないんですか?」

 

「気づいた時には、その千枚通し自体なくなってた」

 

「うわぁ……」

 

浜谷が腕をさする。

 

「嫌やな、それ……」

 

三人の話が終わった。

 

しばらく沈黙。

 

そして。

 

茂田が浜谷を見る。

 

「じゃあ最後、琉くん!」

 

「俺ですか?」

 

「なんか奇妙な話ない?」

 

「奇妙な話……」

 

浜谷は少し考えた。

 

「あ」

 

何かを思い出した。

 

「ありますよ」

 

三人が浜谷を見る。

 

浜谷は静かに話し始めた。

 

「僕ね昔から」

 

「うん」

 

「女性のブラジャーを一発で取るのが得意なんです」

 

「…………」

 

沈黙。

 

川原が浜谷を見る。

 

「はい?」

 

茂田も固まる。

 

「何の話?」

 

「とにかく聞いてください」

 

「怖い話だよね?」

 

「怖い話です」

 

浜谷は続ける。

 

「この間も、そういう機会があってね……」

 

「どういう機会!?」

 

川原がツッコむ。

 

浜谷は無視して続けた。

 

「女性の背中に手を伸ばして……いつも通りパチンッとしようとしたんです……」

 

「ちょっと待って!」

 

「イツモドオリ…」

 

「ところが……」

 

浜谷の声が低くなる。

 

「いくらやっても……パチンッとならない」

 

「…………」

 

「おかしいな……おかしいな……」

 

浜谷は真剣だった。

 

「おぞましいな……おぞましいな……と思ってたらね……」

 

三人が浜谷を見る。

 

「そのブラジャー……」

 

間。

 

浜谷がゆっくり顔を上げる。

 

「なんと……」

 

さらに間。

 

「フロントホックでした」

 

「…………」

 

静寂。

 

数秒後。

 

川原が口を開いた。

 

「どこが怖いんですか!」

 

「怖いでしょう!」

 

「何が!?」

 

茂田も笑い出す。

 

「琉くんだけジャンル違うじゃん!」

 

「奇妙な話ですよ!」

 

「ピンクな話でしょ!」

 

日村は顔を赤らめながら、尋ねる。

 

「しかも誰の話なの?」

 

「それは言えません」

 

「そこだけ妙にリアルにするな!」

 

川原が浜谷を指さす。

 

「ていうか一発で取るのが得意って何なんですか!」

 

「特技です」

 

「そんな特技いらないです!」

 

三人の怪談によって冷え切っていた休憩室。

 

浜谷の話によって、その空気は完全に破壊された。

 

真夜中に動くメダルゲーム。

 

歳を取らない常連客。

 

赤い液体の付着した、謎の千枚通し。

 

そして。

 

フロントホック。

 

この中で最も恐ろしいものは何だったのか。

 

それは誰にも分からない。

 

ただ一つ分かることがあるとすれば。

 

「浜谷さんの話が一番怖かったです」

 

「ほら!」

 

「別の意味でです!」

 

世にも奇妙で。

 

ちょっとだけピンクな物語。

 

今夜、あなたのブラジャーも――。

 

一発で外されるかもしれません。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。