原町中央店勤務の日。
浜谷は自転車で職場へ向かっていた。
阿佐野店へ行く日は距離があるため別だが、原町中央店なら自転車通勤。
いつもの道。
いつもの景色。
浜谷はのんびりとペダルを漕いでいた。
その時。
「ん?」
道端に、一羽の鳩がいた。
浜谷は自転車で通り過ぎる。
「…………」
少し進む。
そして。
止まった。
「なんやあの鳩……」
振り返る。
鳩はまだいる。
よく街中で見かける普通の鳩。
なのだが。
「丸っ!」
なんというか。
絶妙な体型だった。
ぽてっ。
ころん。
まん丸。
首を縮めているせいなのか、いつもの鳩よりさらに丸く見える。
「かわいいなぁ……」
浜谷は自転車に跨ったまま眺める。
鳩は地面を歩いている。
ぽて。
ぽて。
「…………」
浜谷は完全に気に入った。
「ポッポちゃんやな」
勝手に命名。
「おはよう、ポッポちゃん」
当然、返事はない。
「仕事行ってくるわ」
鳩に挨拶して、浜谷は再び自転車を走らせた。
数十分後。
原町中央店。
「おはようございまーす」
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田の声。
「おはよう、浜谷さん」
川原もいた。
大沼は景品の準備中。
山神もカウンター付近にいる。
「おぅ」
「おはようございます」
浜谷は荷物を置いた。
そして。
「聞いてくださいよ」
「何?」
茂田が浜谷を見る。
「今日、来る途中に鳩いたんですよ」
「うん」
「めちゃくちゃかわいかったんです」
川原が笑う。
「鳩?」
「そう。鳩」
浜谷は両手で丸い形を作る。
「もう、こんなん」
「分かんないです」
「めっちゃ丸いんですよ!」
大沼も話を聞き始める。
「太ってたってこと?」
「太ってるっていうか、ぽてっとしてるんですよ」
「鳩って結構丸くない?」
「違うんです!」
浜谷が力説する。
「今日の鳩は絶妙なんですよ!」
「絶妙な鳩?」
「そう!」
川原が首を傾げる。
「何が絶妙なんですか?」
「体型」
「知らないですよ」
「ほんまにかわいかったんですって!」
茂田が笑う。
「琉くん、鳩好きだったっけ?」
「別に今までそんな意識したことなかったですけど」
「じゃあなんでそんな興奮してるの?」
「ポッポちゃんがかわいかったからですよ!」
「もう名前ついてる!」
大沼が笑った。
「ポッポちゃん?」
「はい」
「そのまんまじゃん」
「分かりやすくていいでしょう!」
山神が静かに聞いている。
「山神さん」
「おぅ」
「絶妙に丸い鳩ってかわいいですよね?」
「おぅ」
「ですよね!」
川原がすぐに言う。
「絶対何も考えずに返事してますよ」
「山神さんは分かってくれてます!」
「おぅ」
「ほら!」
「『おぅ』しか言ってないじゃないですか!」
浜谷のポッポちゃん談義はしばらく続いた。
色。
歩き方。
丸さ。
首の縮まり具合。
大沼が呆れる。
「一羽の鳩についてよくそんなに喋れるね」
「見たら分かりますって」
「もういないでしょ?」
「まあ、さすがに」
浜谷はそう言いながら、何気なく窓の外を見る。
「…………」
止まった。
「浜谷さん?」
川原が浜谷を見る。
浜谷は窓を凝視している。
「…………」
外。
店の近く。
そこに。
一羽の鳩。
ぽてっ。
丸い。
浜谷の目が見開かれた。
「ポッポや!!」
全員が驚く。
「何!?」
浜谷が窓へ駆け寄る。
「ポッポちゃんですよ!!」
「え!?」
茂田たちも窓を見る。
一羽の鳩が、地面を歩いている。
ぽて。
ぽて。
浜谷が指をさす。
「あの子です! 朝いた子!」
川原が鳩を見る。
「本当に?」
「絶対そうです!」
「鳩の見分けつくんですか?」
「つきますよ!」
「どこで?」
「あの丸さ!」
「他にもいそうですけど」
「違いますって!」
大沼も窓の外を見る。
「あー、確かに丸い」
「でしょう!?」
「かわいいかも」
「でしょう!?」
浜谷が嬉しそうに振り返る。
「だから言ったじゃないですか!」
茂田も笑う。
「ほんとだ。ぽてっとしてる!」
「ポッポちゃんですよ!」
「でも琉くん」
「はい?」
「朝見た鳩と同じって証拠は?」
「…………」
浜谷が止まる。
もう一度、窓の外を見る。
鳩を見る。
「…………」
少し考える。
「俺には分かります」
「何その絆!」
川原が笑った。
その時。
山神もゆっくり窓の外を見る。
「おぅ」
浜谷が振り返る。
「山神さんもポッポちゃんだと思います!?」
「おぅ」
「ほらぁ!」
「だから何に対しての『おぅ』なんですか!」
その瞬間。
ポッポちゃんが羽を広げた。
「あっ!」
飛ぶ。
浜谷たちの目の前から、空へ。
「ああ……」
浜谷が窓越しに見送る。
「ポッポちゃん……」
川原が隣に立つ。
「行っちゃいましたね」
「行っちゃいましたね……」
少しだけ寂しそうな浜谷。
大沼が笑う。
「また会えるんじゃない?」
「会えますかね」
茂田が言う。
「その辺に住んでるなら、また来るかもよ」
「そっか」
浜谷は少し笑った。
「また会えたらいいな」
山神が一言。
「おぅ」
「ですよね!」
川原が笑う。
「山神さん、今日ずっとそれだけですね」
「おぅ」
「また言った!」
結局。
朝の鳩と、原町中央店の外に現れた鳩が同じだったのか。
それは誰にも分からない。
ただ浜谷にとっては。
間違いなく、あの鳩だった。
翌日。
浜谷は阿佐野店勤務。
「…………」
自転車には乗らない。
「ポッポちゃん、今日も原町におるんかな……」
一羽の鳩との、ほんの小さな出会い。
今日もどこかで。
ぽて。
ぽて。
ポッポちゃんは歩いている。
たぶん。
「また会おうな、ポッポちゃん」