阿佐野店。
朝。
「おはようございまーす」
浜谷が出勤してきた。
着替えを済ませ、店内へ出る。
すると。
ピピピピッ。
「…………」
どこかから聞き慣れたエラー音。
浜谷が足を止めた。
「出勤早々か……」
音のする方へ向かう。
メダルゲーム。
一台のメダルゲームのサテライトがエラーを起こしていた。
画面を確認する。
「メダル詰まりか」
扉を開ける。
中を確認すると、メダルが通るレールの途中で数枚が引っかかっていた。
「これか」
詰まったメダルを取り除く。
扉を閉める。
エラー解除。
「よし」
動かす。
ガチャガチャ。
メダルが流れていく。
「オッケー」
――と、思った瞬間。
ガッ。
ピピピピッ。
「…………」
またエラー。
浜谷がゆっくり扉を開ける。
「また詰まった?」
同じ場所。
「なんでやねん」
もう一度、メダルを取り除く。
今度は周辺も確認。
レールを固定しているネジに目をやる。
「ちょっとズレてんのかな……」
ネジを緩める。
位置を確認。
締め直す。
「これでどうや」
動かす。
ガチャガチャガチャ。
「…………」
ガッ。
ピピピピッ。
「またか!」
浜谷がしゃがみ込む。
もう一度開ける。
やはり同じところで詰まっている。
「何が気に入らんねん……」
今度はメダルが通るレールそのものを少しだけ位置調整。
メダルが引っかからないよう慎重に合わせる。
ネジを締める。
「これなら」
動かす。
ガチャガチャ。
ガッ。
ピピピピッ。
「…………」
浜谷は無言で天井を見た。
「なんでや……」
そこへ。
「それ、何回やっても詰まるのよ」
後ろから声。
振り返ると大澤が立っていた。
「ですよね」
浜谷は困った顔でレールを見る。
「なんなんでしょう」
大澤も中を覗く。
「分かんない」
「ですよねぇ……」
浜谷は再びしゃがみ込む。
すると大澤が思い出したように言った。
「そういえば」
「はい?」
「生田さんが、もうそろそろ来るって電話あったよ」
浜谷が顔を上げる。
「おー!」
一気に表情が明るくなった。
「なら安心ですね!」
「うん」
生田が来る。
それなら、この機械も見てもらえる。
浜谷はホッとした。
しかし。
再び機械を見る。
「…………」
内心。
(生田さんが来る前になんとかしたる!!)
せっかくここまでやったのだ。
できれば自分で原因を見つけたい。
浜谷は再び工具を手にした。
「一回全部見直そ」
ネジ。
レール。
メダルの流れ。
詰まっている位置。
一から確認していく。
「ここなんかな……」
少し調整。
メダルを流す。
ガッ。
「違う」
もう一度。
「じゃあこっち……」
調整。
動かす。
ガッ。
「くっそ……!」
直らない。
その時。
「なんだ、浜谷くん今日いたんだ」
聞き覚えのある声。
「ん?」
誰だろう。
浜谷が振り返る。
「あ!」
生田だった。
「お疲れ様です!」
「お疲れー」
生田はエラー中のメダルゲームを見る。
「メダル、よく詰まるんだってね」
「そうなんですよ」
「荷物置いたらすぐ見るよ」
「ありがとうございます!」
生田は事務所へ向かっていった。
浜谷は機械を見る。
「…………」
間に合わなかった。
数分後。
生田が戻ってくる。
「どこが詰まるの?」
「このレールなんですけど」
浜谷が該当箇所を指す。
「何回取っても、ここでまた詰まるんです」
「なるほどね」
生田が少し中を確認する。
そして。
「よし!」
「はい」
「じゃあ、別のサテライトとレールを入れ替えてみよう!」
「え?」
浜谷が生田を見る。
「レールを?」
「そう。入れ替えて同じ症状が出るか見れば、レール側が悪いのか別のところが悪いのか分かるから」
「なるほど……」
「浜谷くん、こっち外して」
生田が別のサテライトを指す。
「僕、あっちのレール外すから」
「はい!」
二人で作業開始。
浜谷は工具を手に、問題のレールを外していく。
ネジを外す。
レールを持ち上げる。
その間にも、生田は反対側を手際よく分解していた。
浜谷は横目で見る。
(その発想はなかったなぁ……)
壊れている場所を、その場で直すことばかり考えていた。
別の正常な部品と入れ替えて、原因を切り分ける。
(やっぱ生田さんすげぇや)
「浜谷くーん」
「はい!」
「外せたー?」
「外しました!」
「じゃあ入れ替えよう」
二本のレールを交換する。
取り付け。
ネジを締める。
確認。
「よし」
浜谷が機械を動かす。
ガチャガチャガチャ。
メダルが流れる。
一枚。
二枚。
三枚。
そのまま通過。
「おっ!」
詰まらない。
さらに流す。
問題なし。
「これでオッケーですね!」
浜谷が笑った。
しかし。
生田は機械を見たまま。
「ちょっと待って」
「え?」
生田が手を伸ばす。
メダルが通った先。
小さなセンサー部分を触る。
「…………」
少し確認。
「あ」
「なんですか?」
「このセンサー、ズレてるじゃん」
「え?」
浜谷も覗き込む。
「だからうまくメダルが押し出されなかったんだ」
「あ、ほんとだ」
ほんのわずかなズレ。
浜谷はまったく気づいていなかった。
「ここ直せば大丈夫だね」
生田が工具を使う。
ちょちょっ。
位置を調整。
「これでよし!」
もう一度動かす。
ガチャガチャガチャ。
メダルが綺麗に流れていく。
エラー。
なし。
浜谷は機械を見る。
生田を見る。
もう一度機械を見る。
「…………」
そして一言。
「すげぇ」
生田が笑う。
「こういうのは一個ずつ原因潰していけばいいんだよ」
「いやぁ……」
浜谷はさっきまで自分が触っていた場所を見る。
ネジを緩め。
締め直し。
レールを調整。
何度もメダルを取り除いた。
それでも直らなかった。
生田は別のサテライトとの部品交換で原因を切り分け。
最後にはセンサーの小さなズレまで見つけた。
「勉強になります」
「浜谷くんもちゃんと色々試してたじゃん」
「でもセンサー全然見てなかったです」
「次から見ればいいよ」
「はい!」
そこへ大澤がやってくる。
「直った?」
浜谷が頷く。
「直りました!」
「原因は?」
「センサーのズレでした」
大澤が生田を見る。
「やっぱり生田さん」
浜谷も大きく頷く。
「やっぱり生田さんです」
「何それ」
生田が笑った。
浜谷は正常に動き始めたメダルゲームを見る。
自分で直せなかったのは、少し悔しい。
でも。
今日また一つ、見る場所が増えた。
次に同じ症状が出た時は。
きっと今日より早く、原因へ近づける。
浜谷は工具を片付けながら呟いた。
「次は俺が直したる!
浜谷のメンテナンス修行は、まだまだ続く。