ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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難局物語

阿佐野店。

 

午後。

 

「よし……」

 

古坂はクレーンゲームの前にしゃがみ込んでいた。

 

筐体の扉は開けられ、手元には工具。

 

アームへ繋がるワイヤーが断線してしまったため、新しいワイヤーへ交換していた。

 

「これで大丈夫かな」

 

ワイヤーを通し。

 

先端を固定。

 

しっかり確認する。

 

「よし!」

 

筐体を閉める。

 

テストプレイ。

 

アームが下りる。

 

開く。

 

閉じる。

 

上がる。

 

「オッケー!」

 

無事に復旧。

 

古坂は次の仕事へ戻った。

 

しかし。

 

数分後。

 

「あれ?」

 

再び同じクレーンゲーム。

 

アームがおかしい。

 

古坂が確認する。

 

「また!?」

 

扉を開ける。

 

中を見る。

 

だが、先ほどとは少し違った。

 

「断線じゃない……」

 

ワイヤー自体は切れていない。

 

ただ。

 

アームからワイヤーが抜けてしまっている。

 

「かしめるの甘かったかな……」

 

古坂はもう一度ワイヤーを差し込む。

 

そしてニッパーを使い、しっかりとかしめ直す。

 

ぎゅっ。

 

「今度こそ」

 

テスト。

 

問題なし。

 

「よし!」

 

再び復旧。

 

ところが。

 

さらに数分後。

 

「…………」

 

また。

 

抜けた。

 

古坂は無言でワイヤーを見る。

 

「なんで?」

 

さっきより強くかしめた。

 

それでも抜けている。

 

「もう一回か……」

 

そこへ。

 

「古坂さん、どうしたんですか?」

 

細井がやってきた。

 

「細井ちゃん、ちょうどいいところに!」

 

「はい?」

 

「これ、かしめてもワイヤー抜けちゃうの」

 

「え?」

 

細井も筐体を覗き込む。

 

「ほんとだ」

 

「さっき二回やったんだけど」

 

「私やってみましょうか?」

 

「お願い!」

 

細井が張り切ってニッパーを持つ。

 

「任せてください!」

 

ワイヤーを差し込む。

 

位置を合わせる。

 

「よいしょっ!」

 

ぎゅっ。

 

さらに。

 

ぎゅっ!

 

「結構強くやりました!」

 

古坂が確認する。

 

「これなら大丈夫そう!」

 

二人でテストする。

 

アームが動く。

 

問題なし。

 

細井が笑う。

 

「いけましたね!」

 

「ありがとう!」

 

二人は筐体を閉めた。

 

これで解決。

 

――したはずだった。

 

数分後。

 

「…………」

 

古坂と細井。

 

二人並んで、クレーンゲームを見つめていた。

 

ワイヤー。

 

また抜けている。

 

「なんで?」

 

古坂が呟く。

 

細井も首を傾げる。

 

「めちゃくちゃ強くやったんですけど……」

 

「だよね?」

 

「はい」

 

「私より強くやってたよね?」

 

「やりました」

 

「なのに抜けたよね?」

 

「抜けました」

 

二人で黙る。

 

難局である。

 

その時。

 

「戻りましたー」

 

休憩を終えた浜谷がやってきた。

 

古坂が即座に振り返る。

 

「浜谷くん!」

 

「はい?」

 

「ワイヤーが抜けちゃうの!かしめてほしい!」

 

「あ!了解です!やります!」

 

細井も浜谷を見る。

 

「よろしく!」

 

「はいっ!!」

 

浜谷は筐体の中を軽く確認する。

 

「ちょっと待っててください」

 

そのまま景品倉庫へ。

 

古坂と細井は待つ。

 

しばらくして。

 

浜谷が戻ってきた。

 

「お待たせしました」

 

その手には。

 

何やら見慣れない工具。

 

古坂が首を傾げる。

 

「何それ?」

 

「かしめ機です」

 

「かしめ機?」

 

「はい」

 

古坂が工具を見る。

 

「そんなのあったの?」

 

「ありますよ!」

 

浜谷は何でもないことのように答える。

 

「これ使うと、軽い力でガッチリ圧着できます!」

 

「へぇー!」

 

細井も工具を覗き込む。

 

「ニッパーよりも?」

 

「あ、ニッパーだとすぐ抜けますね!」

 

「え?」

 

浜谷はワイヤーをセットしながら続ける。

 

「ちゃんと圧着できてないので!」

 

「…………」

 

古坂と細井が止まる。

 

浜谷は気にせず作業を続ける。

 

かしめ機にワイヤーをセット。

 

「ここをこうして……」

 

ぎゅっ。

 

「はい」

 

終了。

 

「これで大丈夫です」

 

古坂と細井。

 

「…………」

 

浜谷を見る。

 

工具を見る。

 

そして。

 

二人同時に。

 

「なんだぁ」

 

浜谷が顔を上げる。

 

「え?」

 

古坂が脱力する。

 

「専用の工具あったんだ……」

 

「ありましたよ?」

 

細井も肩を落とす。

 

「私、めちゃくちゃ力入れたのに……」

 

「あれニッパーでやってたんですか?」

 

「うん」

 

「そりゃ抜けますよ」

 

「早く言ってよ!」

 

「僕、休憩行ってましたもん!」

 

「そうだけど!」

 

浜谷は笑いながら筐体を閉める。

 

「とりあえず動かしてみましょう」

 

テスト。

 

アームが下りる。

 

ワイヤーは抜けない。

 

もう一度。

 

問題なし。

 

さらにもう一度。

 

問題なし。

 

古坂がワイヤーを見つめる。

 

「さっきまでの苦労は何だったんだろう」

 

細井も頷く。

 

「力じゃなかったんですね……」

 

浜谷が言う。

 

「工具ですね」

 

「工具かぁ……」

 

しばらくして。

 

三人はそれぞれ別の仕事へ戻った。

 

さらに数分。

 

古坂が例のクレーンゲームを見る。

 

「…………」

 

動いている。

 

ワイヤーも抜けていない。

 

細井も通りかかる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫」

 

「抜けてない?」

 

「抜けてない」

 

二人で筐体を見る。

 

そこへ浜谷が通りかかった。

 

「どうです?」

 

古坂が答える。

 

「絶好調」

 

「よかったです!」

 

細井が浜谷を見る。

 

「浜谷くん」

 

「はい?」

 

「なんで最初からかしめる専用の工具あるって教えてくれなかったの!」

 

「僕、休憩中だったじゃないですか!」

 

「言い訳しないで!殴るよ?」

 

「一発だけなら!」

 

「安心して、一発で仕留めるから!」

 

3人は笑った。

 

何度かしめても。

 

何度挑んでも。

 

抜け続けたワイヤー。

 

古坂と細井を苦しめた難局は。

 

一つの工具によって、あっさり解決した。

 

力でもない。

 

根性でもない。

 

必要だったのは。

 

正しい工具。

 

阿佐野店の難局物語。

 

本日、無事完結。

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