原町中央店。
午後。
浜谷はクレーンゲームコーナーを巡回していた。
「…………」
ある筐体の前で立ち止まる。
小さな男の子が、一生懸命クレーンゲームをプレイしていた。
隣には母親。
狙っているのは、大きなぬいぐるみ。
「惜しい!」
アームが景品を持ち上げる。
しかし。
ポトッ。
「あー……」
男の子が残念そうな声を出した。
もう一度。
今度は少し動く。
「おっ!」
だが取れない。
浜谷は少し離れたところから様子を見ていた。
「頑張れ……」
思わず小さく呟く。
すると。
男の子が母親を見る。
「もう一回やっていい?」
「これで最後ね」
「うん!」
最後の一回。
アームが下りる。
景品を掴む。
持ち上がる。
「あっ!」
男の子の目が輝いた。
しかし。
ポトッ。
「あぁ……」
景品は途中で落ちた。
男の子はしばらく筐体を見つめていた。
母親が声をかける。
「また今度やろう?」
「……うん」
二人が離れていく。
浜谷は景品を見る。
「…………」
少し悩んだ。
そして。
筐体の扉を開ける。
景品の位置を確認。
少しだけ整える。
「次お客さん来た時、取れたらええな」
扉を閉めた。
その時。
「浜谷さん」
「うわっ!」
後ろから声。
振り返ると川原が立っていた。
「何してるんですか?」
「いや、ちょっと景品直してただけです」
「さっきの子?」
「見てたんですか?」
「見てました」
浜谷は少し恥ずかしそうに頭をかく。
「頑張ってたから」
「優しいですね」
「別にそんなんじゃないです!」
「足長おじさんみたい」
「誰がおじさんですか!」
浜谷が即座にツッコんだ。
「僕まだ二十代ですよ!」
「ていうか同い年でしょ!」
「じゃあ足長お兄さん?」
「なんか嫌だな」
「足長おじさんお兄さん」
「どっちですか!」
川原が笑う。
その日の夕方。
浜谷がカウンターへ戻る。
そこには茂田、石村、相馬がいた。
「お疲れ様です」
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田が笑顔で振り返る。
すると川原がやってきた。
「足長おじさんお兄さん、お疲れ様です」
「その呼び方やめて!」
三人が浜谷を見る。
「何それ?」
茂田が食いついた。
「何でもないです」
「浜谷くん、足長おじさんなの?」
石村まで尋ねる。
「違います!」
相馬が浜谷の足を見る。
「確かに浜谷くん、足長いかも」
「そっちの足長じゃないです!」
「じゃあ何?」
「いや……」
浜谷が川原を見る。
川原はニヤニヤしている。
「さっき、男の子がクレーンゲームやってたんですよ」
「ちょっと!」
「全然取れなくて帰っちゃったんですけど」
「言わなくていいって!」
「浜谷さん、そのあと景品の位置を直してあげてました」
茂田が浜谷を見る。
「へぇ〜!」
「いや、別に大したことじゃないです!」
石村も頷く。
「優しいじゃん」
「次来た時に取れたらいいなと思っただけですって」
相馬が微笑む。
「いいお兄さんだね」
「ほら」
川原が言う。
「足長おじさんお兄さん」
「だからおじさん要らないでしょ!」
茂田が笑う。
「足長お兄さんでいいじゃん!」
「それも恥ずかしいです!」
「じゃあ足長琉くん」
「もっと嫌です!」
「足長浜谷」
「もう普通に浜谷でいいじゃないですか!」
その時。
店内から声が聞こえた。
「すみませーん!」
「あ、はい!」
浜谷がすぐに向かう。
先ほどの筐体だった。
そこにいたのは――。
「あ」
さっきの男の子。
母親と一緒に戻ってきていた。
「もう一回だけやりたいって言うので」
母親が笑う。
「そうだったんですね」
浜谷は男の子を見る。
「頑張って!」
「うん!」
男の子が百円を入れる。
アームを動かす。
浜谷は少し離れたところから見守る。
「そこ……」
アームが下りる。
景品を掴む。
ゆっくり持ち上がる。
そして。
ゴトン!
「あっ!」
景品が取り出し口へ落ちた。
「取れたー!」
男の子が大喜びする。
「やった!」
浜谷も思わず笑った。
男の子は大きなぬいぐるみを抱える。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「僕何もしてないよ。自分で取ったんだよ」
「うん!」
男の子は嬉しそうに母親と帰っていった。
浜谷はその後ろ姿を見送る。
「よかったな」
すると。
背後から。
「足長おじさんお兄さん」
「…………」
浜谷が振り返る。
川原。
その後ろには茂田、石村、相馬。
全員見ていた。
「……いつからいたんですか」
「『頑張って!』くらいから」
「ほぼ最初からじゃないですか!」
茂田が笑う。
「琉くん、いい仕事したね!」
「俺は位置直しただけですよ」
石村が頷く。
「それで十分だよ」
相馬も笑う。
「男の子、嬉しそうだったね」
「まあ……」
浜谷は少し照れながら頭をかいた。
川原が笑う。
「やっぱり足長おじさんお兄さんですね」
「だから!」
浜谷が川原を見る。
「おじさんなのかお兄さんなのか、どっちかにしてください!」
「じゃあ、おじさん」
「なんでそっちなんだよ!」
原町中央店に現れた、謎の足長おじさんお兄さん。
その正体は。
ちょっとだけ景品の位置を直した、二十代の店員だった。
「せめてお兄さんにしてくれ!」
今日も原町中央店は足長おじさんお兄さんのおかげで平和である。