阿佐野店。
カウンター。
浜谷と茂田が並んで立っていた。
「…………」
浜谷は隣にいる茂田を見る。
赤い半被。
いつもの光景。
だが。
改めて見ると、気になる。
「茂田さん」
「ん?」
「なんで茂田さんだけ赤い半被羽織ってるんですか?」
茂田が自分の半被を見る。
「ああ、これ?」
「はい」
茂田は胸を張った。
「これが店長の証ニダ!」
「すごい!」
浜谷の目が輝く。
「店長の証なんですか!?」
「そうニダ!」
「へぇー!」
浜谷はまじまじと赤い半被を見る。
「でも」
「ん?」
「他の店の店長さん、着てないですよね?」
「…………」
茂田が止まった。
「そうなの!」
「やっぱり!」
「本当は着るっていうんだけど、みんな着てなくて私だけ着てるニダ!」
「そうなんですか!?」
「そうニダ!」
浜谷はもう一度半被を見る。
原町中央店でも。
阿佐野店でも。
茂田が勤務している時には、よく目にする赤い半被。
いつの間にか。
浜谷にとっては見慣れた姿だった。
「でも、かっこいい!!」
「ほんと?」
「はい!」
浜谷が笑う。
「なんか一目で『店長!』って分かりますよね」
「でしょ?」
「いいなぁ」
「着てみたい?」
「着てみたいですね」
茂田がニヤッとする。
「着てみる?」
「いやいや!」
浜谷が慌てて手を振る。
「僕、店長じゃないですから!」
「いいじゃん!」
「ダメでしょ!」
「一瞬だけ!」
「店長の証なんですよね!?」
「そうニダ!」
「じゃあ余計ダメじゃないですか!」
茂田が笑う。
浜谷は赤い半被を見る。
「これ着たら店長になれるんですか?」
「なれるニダ!」
「そんな変身ベルトみたいなシステムなんですか!?」
「赤い半被を羽織った瞬間から店長ニダ!」
「責任重すぎる!」
「ボーイ店長・琉!」
「やめてください!」
二人の笑い声がカウンターに響く。
しばらくして。
浜谷がまた半被を見る。
「でも、ちょっと羨ましいですね」
「そんなに?」
「なんか特別感あるじゃないですか」
「じゃあ」
茂田が半被の襟を持つ。
「…………」
「いや、脱がなくていいですから!」
「琉くん」
「はい?」
「店長になる覚悟は?」
「ないです!」
「即答!」
「バイトですよ、僕!」
「店長への道はここから始まるニダ」
「始めないでください!」
茂田は楽しそうに笑う。
浜谷も笑った。
そして。
何気なく尋ねる。
「茂田さん、これいつから着てるんですか?」
「店長になってから」
「じゃあ結構長いんですね」
「そうね」
茂田は赤い半被を見る。
何年も。
これを羽織って店に立ってきた。
忙しい日も。
暇な日も。
トラブルが起きた日も。
笑った日も。
原町中央店でも。
阿佐野店でも。
「もう茂田さんの体の一部みたいなもんですね」
浜谷が言う。
「そうかも」
「僕、茂田さんって言われたらこの赤い半被のイメージありますもん」
「ほんと?」
「はい」
浜谷は少し考える。
「赤い半被羽織ってる人見たら、茂田さんだと思います」
「他の人だったらどうするニダ」
「二度見します」
「失礼ニダ!」
また二人が笑う。
すると。
茂田が浜谷を見る。
「琉くんも、そのうち着るかもしれないよ?」
「え?」
「何年後かに」
「いやいやいや」
浜谷は笑う。
「ないですよ」
「分かんないニダ」
「僕が店長とか絶対無理ですって」
「そう?」
「そうですよ」
浜谷はそう言って。
カウンターを出ていく。
「巡回行ってきます」
「お願いニダ!」
「はーい」
店内へ向かっていく浜谷。
茂田はその背中を見送った。
そして。
自分の赤い半被を見る。
「…………」
少しだけ笑う。
「似合うと思うけどね」
もちろん。
浜谷には聞こえていなかった。
今日も阿佐野店には。
赤い半被を羽織った店長がいる。
それは。
いつの間にか浜谷にとっても。
ファンステの日常を彩る。
見慣れた赤色になっていた。