平日の阿佐野店。
店内は静かだった。
休日とは違い。
お客さんの姿もまばら。
そして。
スタッフも少ない。
「平和ですね」
カウンターで浜谷が呟く。
「そうですね」
隣には矢水。
今日の午前中。
阿佐野店にいるスタッフは。
矢水と浜谷。
二人だけだった。
「平日ってこんなに静かなんですね」
「そうね、平日はこんな感じです」
「原町とは全然違います」
浜谷は店内を見渡す。
クレーンゲーム。
メダルゲーム。
誰もいない通路。
たまに聞こえるお客さんの声。
穏やかな時間が流れていた。
そして。
正午。
「じゃあ浜谷くん、私上がりますね」
矢水が言った。
「はい!お疲れ様でした!」
「お疲れ様です」
「…………」
浜谷が笑顔で見送ろうとする。
しかし。
「…………」
何かに気づいた。
「矢水さん」
「ん?」
「細井さんって何時からでしたっけ?」
「一時」
「…………」
時計を見る。
十二時。
もう一度、矢水を見る。
「ということは」
「うん」
「一時間……僕一人ですか?」
「そうなりますね」
「…………」
浜谷は店内を見る。
誰もいない。
事務所を見る。
誰もいない。
倉庫を見る。
もちろん誰もいない。
「完全に一人?」
「完全に一人」
「マジか」
浜谷は呟いた。
原町中央店でも。
ワンオペになることはあった。
だが。
その時も。
事務所には誰かがいたり。
倉庫で作業しているスタッフがいたり。
表に立っているのが浜谷一人というだけだった。
つまり。
何かあれば誰かを呼べた。
しかし。
今日は違う。
阿佐野店。
スタッフ。
浜谷琉。
一名。
「初めてだ……」
矢水が笑う。
「大丈夫ですよ」
「いやぁ……」
「一時間だけですよ」
「一時間って結構長いですよ!」
「何もなければすぐ」
「こういう時に限って何か起こるんですよ!」
矢水は笑った。
「じゃあ、お願いしますね」
「はい!」
矢水がロッカーへ向かう。
浜谷はその背中を見る。
「…………」
少しして。
着替えを終えた矢水が出てきた。
「じゃあお疲れ様です」
「お疲れ様でした!」
矢水が店を出る。
「…………」
自動ドアが閉まった。
浜谷は一人。
店内を見渡す。
「…………」
静かだった。
ものすごく静かだった。
「よし」
浜谷は小さく頷く。
「ワンオペできるもん!」
自分に言い聞かせた。
五分後。
「すみませーん!」
「はい!」
浜谷が走る。
クレーンゲーム。
「これ、どうやったら取れますか?」
「こちらですね!」
接客開始。
数分後。
「ありがとうございました!」
お客さんを見送る。
その瞬間。
別の方向から。
「店員さーん!」
「はい!」
今度はメダルゲーム。
「メダル詰まっちゃったみたいで」
「確認します!」
機械を開ける。
詰まりを取り除く。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます」
「いえ!」
浜谷がカウンターへ戻る。
「ふぅ」
その瞬間。
「すみません!」
「はい!」
浜谷は再び走った。
二十分後。
「…………」
浜谷はカウンターに戻ってきた。
「全然平和じゃない」
さっきまで。
矢水と二人だった時は静かだった。
なのに。
一人になった瞬間。
接客。
メダル詰まり。
接客。
「なんで?」
店内に問いかける。
当然。
誰も答えない。
「まあええわ!」
時計を見る。
十二時二十五分。
「あと三十五分」
まだ半分以上ある。
浜谷は気合いを入れ直した。
「いける」
巡回へ向かう。
その後。
意外にも。
何も起こらなかった。
「…………」
浜谷は歩く。
クレーンゲーム。
異常なし。
メダルゲーム。
異常なし。
カウンター。
異常なし。
「平和だ」
さっきの忙しさが嘘のようだった。
時計を見る。
十二時四十五分。
「あと十五分!」
ゴールが見えてきた。
浜谷の表情が明るくなる。
「いけるぞ!」
その時。
クレーンゲームコーナーから。
「すいませーん…」
浜谷が止まる。
ゆっくり振り返る。
クレーンゲームへ向かう。
一台の機械。
お客さんが困っていた。
「急にエラー出ちゃいました…」
「確認します!」
浜谷が機械を見る。
エラー表示。
「…………」
よりによって。
今。
「少々お待ちください!」
鍵を取り出す。
扉を開ける。
確認。
「…………」
いつもなら。
誰かに聞く。
しかし。
今ここにいるスタッフは自分だけ。
「…………」
浜谷は機械を見る。
「このエラーは…よし!」
原因は景品のタグが内部に引っかかり、センサーが反応していた。
取り除く。
リセット。
機械が動き出す。
「よし!」
お客さんに頭を下げる。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます!」
「いえ!」
浜谷は少し笑った。
自分一人でちゃんと対応できた。
「…………」
なんだ。
できるじゃん。
その時。
自動ドアが開いた。
浜谷が振り返る。
「おはよー!」
細井だった。
「…………!」
浜谷の顔が一気に明るくなる。
「細井さん!」
「なに?」
「待ってました!」
「そんなに?」
「めちゃくちゃ待ってました!」
細井が笑う。
「大変だった?」
「いやぁ……」
浜谷は少し考える。
「意外といけました」
「おお!」
「僕、ワンオペできました!」
「一時間でしょ?」
「一時間でもワンオペです!」
「はいはい」
「もっと褒めてください!」
細井が笑う。
「えらいえらい」
「軽いなぁ!」
細井はスタッフルームへ向かう。
浜谷はその背中を見る。
そして。
もう一度店内を見る。
一時間。
初めての。
完全な一人。
少し忙しくて。
少し焦って。
でも。
ちゃんと乗り切った。
浜谷は小さく頷く。
「ワンオペできるもん」
スタッフルームの方から。
細井の声。
「浜谷くーん!」
「はい!」
「ちょっと来てー!」
「今行きます!」
浜谷は走り出す。
一人でも。
なんとかなる。
でもやっぱり。
二人の方がいい。
ワンオペできるもん!
だけどなるべくなら。
したくないもん!