原町中央店。
メダルゲームコーナー。
一台の筐体の前に生田がしゃがみ込んでいた。
「…………」
手にはドライバー。
機械の扉を開け。
内部を確認している。
その少し後ろ。
「…………」
浜谷が立っていた。
じーっ。
「…………」
生田がネジを外す。
浜谷が見る。
部品を取り外す。
浜谷が見る。
配線を確認する。
浜谷が見る。
「…………」
生田が振り返った。
「浜谷くん」
「はい!」
「さっきからずっと見てるね」
「あ、すみません!」
「いや、別にいいけど」
生田は再び機械を見る。
「せっかくだから説明しようか?」
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあ、こっちね」
「はい!」
浜谷は生田の隣へ移動した。
生田が機械の内部を指差す。
「今回おかしいのはここ」
「はい」
「動作させても、この部分が反応しない」
「なるほど」
「だから、まず――」
生田がドライバーを持つ。
ネジを一本ずつ外していく。
「いきなり全部バラすんじゃなくて、原因になりそうなところから見る」
「はい!」
「なるべく分解しないで直せるなら、その方がいいから」
浜谷が頷く。
「日村さんから聞きました!」
「そうなんだ」
「手に負えなくなったら生田さんにお願いすべきって」
生田が苦笑する。
「まあ、間違ってないけど」
浜谷が笑う。
生田は部品を外した。
「今回はここ見て」
「はい」
「このパーツ」
浜谷が覗き込む。
「……ちょっとズレてます?」
「そう」
「おお!」
生田が調整する。
「こういう小さいズレでも、機械は正常に動かなくなる」
「へぇー……」
浜谷は真剣だった。
普段。
お客さんが遊んでいるゲーム機。
ボタンを押せば動く。
メダルを入れれば遊べる。
だが。
その中には。
いくつもの部品があり。
配線があり。
センサーがあり。
それらが正しく動いて。
初めて。
一台のゲーム機になる。
「すげぇなぁ……」
浜谷が呟く。
「でしょ?」
「はい!」
生田は笑いながら、再びドライバーを回した。
「ここ締めすぎないでね」
「はい」
「逆に緩いとまたズレる」
「加減があるんですね」
「ある」
「難しいなぁ」
「やってる内に分かるようになる」
浜谷は生田の手元を見る。
迷いがない。
外すネジ。
触る部品。
確認する場所。
一つ一つ。
ちゃんと理由がある。
「生田さん」
「ん?」
「やっぱすごいですね」
「何が?」
「いや、なんか……」
浜谷は少し考える。
「機械の中見ただけで、どこ触ればいいか分かるじゃないですか」
「経験だよ」
生田はあっさり答えた。
「最初から分かってたわけじゃない」
「そうなんですか?」
生田が笑う。
「失敗して覚えたこともあるし、人に教えてもらったこともある」
浜谷は黙って聞く。
「浜谷くんも今そうじゃないかな?」
「…………」
「分からないなら見ればいい。聞けばいい。触って覚えればいい」
「はい」
「そのうち、教える側になるかもしれないしね」
浜谷が少し笑う。
「まだまだですよ」
「まだ、だよ」
生田は再び作業に戻った。
部品を元に戻す。
ネジを締める。
配線を確認。
そして。
「よし」
扉を閉めた。
電源を入れる。
機械が動き出す。
二人で確認する。
「…………」
正常。
エラーも出ない。
「直った!」
浜谷が嬉しそうに言う。
「よし、直ったな」
「すげぇ……」
「そんな大した修理じゃないよ」
「いや、すごいですよ!」
生田が工具を片付ける。
「じゃあ次、似た症状出たら浜谷くんやってみてね」
「はい!」
「分からなかったら日村さんに聞いて」
「ありがとうございます!」
生田は工具を持って、その場を離れていった。
浜谷は動き出した機械を見る。
「…………」
少し嬉しそうに笑った。
その後。
クレーンゲームコーナー。
川原が景品を整えていた。
そこへ。
浜谷がやってくる。
「川原さん!」
「はい?」
「今、生田さんの修理見てたんですけど」
「はい」
浜谷の目が輝いていた。
「やっぱすごいですよ!」
「生田さん?」
「はい!」
「めちゃくちゃ興奮してますね」
「いや、ほんとすごいんですよ!」
浜谷は手振りまで加えて説明する。
「ドライバー一本持って、ネジ外して、中見て、原因探して、調整して!」
「はい」
「それで最後、普通に動くんですよ!」
川原が笑う。
「修理ですからね」
「いやいや!」
浜谷は首を振る。
「違うんですよ!」
「何がですか?」
浜谷は少し考えた。
そして。
何かを悟ったような顔になる。
「川原さん」
「はい?」
浜谷は真剣な表情で言った。
「ドライバーは剣より強し、です!」
「…………」
川原が止まる。
「何ですか、それ」
「今思いつきました」
「でしょうね」
「いい言葉じゃないですか?」
「元の言葉がありますよね?」
「ペンは剣よりも強し」
「それです」
浜谷が頷く。
「でもここでは」
少し間を置く。
「ドライバーは剣より強し、です!」
「なんで剣と戦うんですか?」
「…………」
浜谷が止まった。
「確かに」
「そこ考えてなかったんですか?」
「勢いで言いました」
川原が笑う。
浜谷も笑った。
ゲームセンターに。
剣はいらない。
だが。
ドライバーはよく使う。
今日も一本のドライバーが一台のゲーム機を救った。
浜谷にとってその小さな工具はどんな剣よりもかっこよく見えたのだった。