ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

18 / 92
浜谷のいない一日

一月。

 

大学の試験期間。

 

浜谷は大学の試験があるため、この日は休みだった。

 

珍しく、ファンステージ原町中央店に浜谷の姿はない。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

朝礼が始まり、茂田がいつもの調子で声を張る。

 

「あれ、今日は琉くんいないニダ。」

 

「大学の試験だろ。」

 

石村が落ち着いた声で答える。

 

「学生は大変だな。」

 

「ちゃんと頑張ってほしいね。」

 

 

営業が始まる。

 

いつもなら、

 

「浜谷くん、景品お願い!」

 

「琉くん、メダルお願い!」

 

そんな声が飛び交い、すぐに「はい!」と元気な返事が返ってくる。

 

しかし今日は、その返事がない。

 

高崎が少し寂しそうに言う。

 

「なんかさ、静かじゃない?」

 

藤屋も柔らかく笑いながらうなずく。

 

「確かに。いつもインカムで返事してくれるもんね。」

 

 

昼休み。

 

自然と昔話になった。

 

高崎が懐かしそうに口を開く。

 

「そういえばさ、私としげちゃんと山神さんって、ほぼ同期なんだよね。」

 

「そうニダ〜。」

 

茂田が得意げにうなずく。

 

「もうだいぶ長いニダ。」

 

山神は腕を組んだまま、短く答える。

 

「おぅ。」

 

そしてぽつりと付け加える。

 

「昔は千歌も若かった。」

 

「今の琉くんくらいだな。」

 

「ちょっと山神さん!」

 

茂田が笑いながらツッコむ。

 

事務所に笑いが広がった。

 

 

石村も穏やかに話し始める。

 

「俺と藤屋さんも、入った時期ほとんど同じだったよな。」

 

藤屋は少し照れながら微笑む。

 

「そうですね。もうそんなに経つんだなって思います。」

 

「ほんと、早いよな。」

 

 

古坂も楽しそうに会話に加わる。

 

「私と大沼ちゃんも、ほぼ同期みたいなものだよね。」

 

「はい!」

 

大沼が明るくうなずく。

 

「一緒に覚えたこと、たくさんありましたよね。」

 

「懐かしいですね。」

 

 

その様子を見ていた相馬が、少し感心したように言う。

 

「こうして見ると、この店って同期多いのね。」

 

石村が軽く笑う。

 

「だから仲がいいのかもな。」

 

 

話題は自然と浜谷へ。

 

高崎がくすっと笑う。

 

「でもさ、琉くん最初ほんと緊張してたよね。」

 

「あー、してたニダ!」

 

茂田がすぐに乗る。

 

「インカムもめちゃくちゃ小さい声だったニダ。」

 

石村も思い出して笑う。

 

「景品補充行くだけでもガチガチだったな。」

 

山神が短く評価する。

 

「今は違う。」

 

「よく動く。」

 

「おぅ。」

 

 

大沼が優しく微笑む。

 

「優しい子ですよね。」

 

「困ってると、すぐ来てくれますし。」

 

藤屋も同意する。

 

「ちゃんと周り見てますよね。」

 

そのとき、日村が珍しく口を開く。

 

「……。」

 

一瞬の沈黙のあと、

 

「メンテ……。」

 

「センス……アル。」

 

ぼそりとつぶやく。

 

その言葉に全員が驚く。

 

石村が笑いながら言う。

 

「日村さんがそこまで言うなら、本物だな。」

 

日村は少しだけ照れたように視線を逸らした。

 

 

夕方。

 

営業が落ち着く頃。

 

茂田がぽつりとつぶやく。

 

「やっぱり、一人いないだけで違うニダ。」

 

高崎も同じ気持ちで笑う。

 

「うん、なんか物足りないよね。」

 

山神が短く締める。

 

「おぅ。」

 

 

その頃。

 

大学では試験を終えた浜谷が、大きく伸びをしていた。

 

「終わった……。」

 

ほっとした表情で空を見上げる。

 

明日はまたファンステージ。

 

そんなことを考えながら帰路につく。

 

そして翌日。

 

「おはようございます!」

 

いつもの元気な声が事務所に響く。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

茂田がすぐに返す。

 

「おぅ。」

 

山神が短くうなずく。

 

「おはよう、浜谷くん。」

 

石村が穏やかに迎える。

 

「浜谷くん、おかえりなさい。」

 

藤屋が優しく微笑む。

 

たった一日。

 

それでもその一日で、浜谷は改めて感じる。

 

ここが、自分の帰ってくる場所だと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。