阿佐野店。
休憩室。
古坂、茂田、高村、細井。
四人が何気なく話をしていた。
すると。
古坂がふと呟いた。
「浜谷くんってさ」
「うん?」
「よく考えたら、結構苦労人だよね」
「浜谷くんが?」
細井が首を傾げる。
「だって大学行きながらファンステで働いてるでしょ?」
「あー」
茂田も頷く。
「一人暮らしもしてるニダ」
高村も続ける。
「原町と阿佐野も行ったり来たりしてるしね」
「メンテもやってるし」
細井が言う。
四人は少し考える。
大学生。
一人暮らし。
原町中央店と阿佐野店を行ったり来たり。
接客。
メンテナンス。
「確かに」
高村が頷く。
「苦労人かも」
その時。
休憩室の扉が開いた。
「お疲れ様です」
浜谷だった。
「お、苦労人」
古坂が言う。
「はい?」
浜谷が止まる。
「何の話してるんですか?」
「浜谷くんが苦労人だって話」
「誰がですか!?」
「浜谷くん」
「俺!?」
浜谷は四人を見る。
「僕、別に苦労人じゃないですよ!」
「でも一人暮らしでしょ?」
高村が言う。
「そうですけど」
「大変じゃない?」
「いや、好きでやってます!」
茂田。
「大学とバイトも両立してるニダ」
「普通ですよ!」
古坂。
「原町と阿佐野を行ったり来たり」
「まあ阿佐野は遠いですけど、好きで来てるので苦じゃないです!」
細井。
「メンテもいっぱいやってるよね」
「やりたくてやってるんです!」
四人が浜谷を見る。
浜谷は胸を張った。
「ほら!苦労人じゃないでしょ!」
「…………」
細井が言う。
「ヘビースモーカー」
「それ苦労があるから吸ってるんじゃないです!」
高村が吹き出す。
「でも実家から遠い地で一人暮らしって」
「最初は苦労しましたけど!」
「今は大学もファンステも楽しいので!!」
古坂が笑う。
「じゃあ浜谷くん、休みの日は何してるの?」
「休みの日ですか?」
「うん」
浜谷は少し考える。
「この前は一人で喫茶店行きました」
「うん」
「巨大なパフェ食べて」
「うん」
「そのあと海見に行きました」
「誰と?」
「一人です」
「…………」
四人が黙る。
浜谷が首を傾げる。
「なんですか?」
古坂が呟く。
「やっぱり苦労してそう」
「なんでやねん!」
「だって一人で巨大パフェ食べて、そのあと一人で海って」
「海見たかっただけですよ!」
高村が聞く。
「何か嫌なことあった?」
「ないです!」
茂田。
「人生について考えてたニダ?」
「考えてないです!」
細井。
「海見ながら泣いた?」
「泣いてません!」
「本当に?」
「なんで僕をそんな悲しい人にしたいんですか!」
四人が笑う。
浜谷は納得がいかない。
「普通に楽しく生きてますよ!」
「ほんとに?」
「ほんとです!」
「無理してない?」
「してないです!」
「悩みは?」
「そりゃ多少ありますけど、それはみんなあるでしょ!」
古坂が頷く。
「それはそうだね」
「でしょ?」
浜谷は椅子に座った。
「大学も自分で行きたくて行ってるし、大学院も自分で行くんです」
「うん」
「ファンステも好きで働いてるし」
「うん」
「メンテも楽しいし」
「うん」
「一人暮らしも別に嫌じゃないです」
「うん」
「だから」
浜谷は四人を見る。
「僕、自分ではそんなに苦労してると思ってないですよ」
「…………」
少しだけ。
空気が変わった。
細井が笑う。
「じゃあ、いいんじゃない?」
「はい?」
「自分で苦労だと思ってないなら」
「まあ……そうですね」
「浜谷くん、楽しそうだし」
「楽しいですよ」
浜谷も笑う。
「なんだかんだ、毎日楽しいです」
茂田が頷く。
「じゃあ琉くんは苦労人じゃないニダ!」
「だから最初から言ってるじゃないですか!」
高村が考える。
「じゃあ、苦労してない人?」
「それもなんか腹立つ!」
古坂。
「苦労知らず?」
「それもっと嫌です!」
細井が笑う。
「じゃあ……」
「はい」
「苦労な男」
「なんですかそれ!」
「なんとなく」
「どんどん意味分からなくなってる!」
茂田が楽しそうに笑う。
「苦労な琉ニダ!」
「何なんですか、それ!」
浜谷は立ち上がった。
「僕は楽しいですよ毎日!」
「浜谷くん」
細井が呼ぶ。
「はい?」
細井は少し考えて。
言った。
「苦労したらブギ踊ろう?」
「なんで!?」
休憩室に。
笑い声が響いた。
苦労しているように見えて。
本人は。
それほど苦労だと思っていない。
大学。
一人暮らし。
ファンステ。
メンテナンス。
そして。
巨大パフェのあとに。
一人で海。
浜谷琉。
今日も本人なりに。
楽しく生きている。