阿佐野店。
午後。
クレーンゲームコーナー。
浜谷と細井は、一台の筐体の前に並んで立っていた。
「浜谷くん」
「はい」
「これ、私やるよ」
「いや、僕やります」
「いいよ。浜谷くん、さっきからずっとクレーン見てるじゃん」
「細井さんもずっと接客してたじゃないですか」
「浜谷くんメンテで疲れてるでしょ?」
「細井さんも遅番で閉店までだから体力温存しといたほうがいいです!」
「私は大丈夫」
「僕も大丈夫です」
「…………」
「…………」
始まりは。
ただの景品補充だった。
人気のぬいぐるみが減ってきたため、倉庫から景品を持ってきて補充する。
それだけ。
本当に。
それだけだった。
「私がやる」
「僕がやります」
「いいって」
「いや、僕が」
「浜谷くん」
「はい」
「先輩の言うこと聞こう?」
「僕の方が先に入社してますよ」
「私の方が年上です」
「それ関係あります?」
「あります」
「ないでしょ!」
二人とも。
なぜか譲らない。
「じゃあ半分ずつやります?」
浜谷が提案する。
「それが一番めんどくさくない?」
「確かに」
「だから私がやる」
「いや、僕がやります」
「戻った!」
細井が笑う。
浜谷も笑う。
しかし。
譲らない。
二人は同時に景品の入った衣装ケースへ手を伸ばした。
「僕が」
「私が」
その瞬間。
ゴツン。
「痛っ!」
「いたっ!」
ぶつかった。
肘と肘。
浜谷が右肘を押さえる。
細井も自分の肘を押さえた。
「細井さん!」
「何!?」
「肘!」
「浜谷くんこそ!」
「なんで肘ぶつけてくるんですか!」
「そっちがぶつけてきたんでしょ!」
「俺、普通に取ろうとしただけですよ!」
「私も普通に取ろうとしたの!」
二人で肘を押さえ、笑いながら言い争う。
数秒後。
浜谷が言った。
「……もうこれ、意地じゃないですか」
「何が?」
「どっちが補充するか」
「浜谷くんが意地張るからでしょ」
「細井さんでしょ!」
「私は浜谷くんを休ませてあげようと思ってるの」
「僕だって細井さんずっと接客してたから代わろうと思ってるんですよ!」
「…………」
「…………」
お互い。
相手を気遣っていた。
なのに。
結果。
肘をぶつけ合っている。
「なんなんですか、これ」
浜谷が笑う。
細井も吹き出した。
「知らないよ」
「平和すぎるでしょ」
「仕事しようよ」
「それをずっと言ってるんですよ!」
結局。
二人で一緒に補充することになった。
浜谷が衣装ケースから景品を取り出す。
細井が受け取り、台の中へ入れ。
浜谷が向きを整える。
「最初からこうすればよかったですね」
「だから半分ずつって言ってたじゃん」
「細井さん、めんどくさいって言ったでしょ」
「言ったっけ?」
「言いました!」
作業は。
二人でやればあっという間だった。
「はい、終わり」
細井が筐体の扉を閉める。
「終わりましたね」
浜谷も箱を片付けようとする。
その時。
二人が同時に衣装ケースへ手を伸ばした。
「僕持っていきます」
「私持ってくよ」
「女性に荷物を持たせられません!」
「浜谷くんいない時いつも持ってるから、私持っていく!」
「いや、僕が」
「私が」
「…………」
「…………」
二人は。
お互いの顔を見る。
そして。
ゆっくり。
自分の肘を見る。
そして、互いの肘を見る。
「やめておきましょう」
浜谷が言った。
「うん」
細井も頷く。
浜谷が衣装ケースの右側を持つ。
細井が衣装ケースの左側を持つ。
「一緒に持っていきますか」
「そうしよ」
二人並んで歩き出す。
ところが。
通路へ出ようとした瞬間。
ゴツン。
「痛っ!」
「いたっ!」
今度はお互いの頭がぶつかった。
「なんで!?」
「浜谷くん近い!」
「細井さんが寄ってきたんでしょ!」
「殴るよ?」
「色々痛いんで今日はやめてください!」
「じゃあ一発で仕留める」
「もっとダメです!」
阿佐野店。
今日も。
しょうもないことで意地を張る。
浜谷と細井。
意地と意地がぶつかれば。
時には。
肘と肘までぶつかるらしい。