原町中央店。
夜。
閉店時間が少しずつ近づき、昼間の賑やかさも落ち着き始めていた。
浜谷はクレーンゲームコーナーを歩いていた。
景品の位置。
アームの状態。
取り出し口。
いつものように、一台ずつ確認していく。
その途中。
浜谷は、ふと足を止めた。
「…………」
一台のクレーンゲーム。
筐体の中を照らす青いLEDライトが、透明なアクリル板に反射していた。
隣の台は紫。
その向こうは水色。
普段なら気にも留めない。
毎日のように見ている光だった。
けれど。
「……綺麗だな」
浜谷が呟いた。
「何が?」
「うわっ!」
突然後ろから声をかけられ、浜谷が振り返る。
高崎だった。
「なんですか、高崎さん」
「いや、浜谷くんが一人で『綺麗だな』って言ってるから」
「これですよ」
浜谷は筐体を指差した。
「LED」
「LED?」
「クレーンゲームのライトって、結構綺麗じゃないですか?」
高崎も筐体を見る。
青い光の中に、色とりどりのぬいぐるみが並んでいる。
「……確かに」
「でしょ?」
「でも毎日見てるよ?」
「毎日見てるから気づかなかったんですよ」
高崎は少し笑った。
「浜谷くん、たまに変なところ見るよね」
「褒めてます?」
「半分くらい」
「半分かぁ」
二人が話していると、石村がやってきた。
「何してるの?」
「石村さん」
高崎が答える。
「浜谷くんが、クレーンゲームのLEDが綺麗だって」
「へえ」
石村も青い光を見る。
「確かに綺麗だね」
「ですよね!」
仲間が増えたことが嬉しいのか、浜谷の声が少し大きくなる。
そこへ相馬もやってきた。
「三人で何見てるの?」
「ライトです」
「ライト?」
「クレーンゲームのLEDです」
相馬は一瞬、不思議そうな顔をした。
それでも浜谷たちと同じ方向を見る。
「ああ……」
少し間を置いて。
「こうやって見ると綺麗ね」
「ですよね!」
浜谷は満足そうだった。
普段は景品を見る。
アームを見る。
お客さんを見る。
エラーが出れば表示を見る。
仕事としてクレーンゲームに向き合っていると、筐体そのものを眺めることは意外と少ない。
「何してるんですか?」
今度は川原がやってきた。
「川原さん」
「みんな集まって」
浜谷が答える。
「鑑賞会です」
「何の?」
「LED」
「……LED?」
川原も加わった。
五人。
原町中央店で、クレーンゲームに入ることの多いスタッフたち。
全員で。
一台のクレーンゲームを眺めている。
「…………」
「…………」
「…………」
川原が耐えきれなくなった。
「なんですか、この時間」
浜谷が笑う。
「僕も分かりません」
「浜谷さんが始めたんじゃないですか」
「綺麗だなと思っただけですよ」
高崎が周りを見る。
「でもさ、こっちも綺麗じゃない?」
少し離れた台。
白い景品を、水色のLEDが照らしている。
「あ、綺麗ですね」
浜谷が歩いていく。
石村も別の台を指差した。
「こっちはピンクだよ」
「ほんとだ」
相馬も笑う。
いつの間にか。
五人でクレーンゲームコーナーを歩いていた。
赤。
青。
緑。
紫。
白。
ピンク。
色とりどりの光が、景品を照らしている。
「同じクレーンゲームでも結構違いますね」
川原が言う。
「そうですね」
浜谷が答える。
「景品によっても見え方違いますし」
「あ、この台好きかも」
「どれですか?」
「これ」
川原が指差したのは。
青いLEDに照らされた台だった。
「浜谷さんが最初に見てたのと似てますね」
「やっぱ青、綺麗ですよね」
「ですね」
その時。
少し離れたところで。
一人のお客さんがクレーンゲームをプレイしていた。
五人の視線が、自然とそちらへ向く。
アームが降りる。
景品を押す。
少し動く。
もう一度。
青いライトの中で、景品が取り出し口へ落ちた。
「やった!」
お客さんが笑った。
浜谷たちも。
なんとなく笑った。
いつも見ている光。
毎日触っている機械。
何度も並べ直してきた景品。
浜谷にとって。
クレーンゲームは仕事だった。
高崎にとっても。
石村にとっても。
相馬にとっても。
川原にとっても。
きっと同じだった。
それでも。
仕事としてではなく。
ただ眺めてみれば。
「やっぱ綺麗ですね」
浜谷が言った。
「うん」
高崎が頷く。
「綺麗ね」
相馬も言った。
石村は周囲を見渡し。
川原は青く照らされた景品を眺めている。
「なんか」
浜谷が呟いた。
「夜のゲームセンターっていいですね」
川原が笑った。
「毎日のようにいるじゃないですか」
「だからですよ」
昼とは少し違う。
閉店前の原町中央店。
色とりどりの筐体。
その中でも。
浜谷の目には。
青い光が、やけに綺麗に映っていた。
誰かが名付けたわけでもない。
特別な光でもない。
ただの。
クレーンゲームのLED。
それでも今夜は。
いつもの原町中央店を。
少しだけ違う場所に見せていた。