原町中央店。
午前。
事務所でパソコンを見ていた茂田が、不意に声を上げた。
「うーん……」
「どうしました?」
近くにいた浜谷が振り返る。
「ホームページに、お客さんからご意見が来てるニダ」
「クレームですか?」
「クレームっていうほどではないけど……これ」
浜谷が画面を覗き込む。
そこには。
『メダルゲームの機械は、きちんとメンテナンスされていますか? 遊んでいるとよくエラーになるので、一度確認してほしいです』
という内容が書かれていた。
「…………」
浜谷は黙った。
メンテナンス。
その言葉が。
メンテ担当の浜谷に突き刺さる。
「琉くん?」
「いや……」
浜谷は腕を組んだ。
「メンテはしてるんですよ?」
「うん」
「してますよね!?」
「してるニダ」
「僕も日村さんも!出勤した時は毎回直してるのに…」
ちょうど事務所に入ってきた日村が反応した。
「ナニ?」
「お客さんから、メダルゲームちゃんとメンテしてますかって」
「あー」
日村が画面を見る。
「まあ、そう思う時もあるだろうね」
「いや、分かりますよ!」
浜谷も。
客側の気持ちが分からないわけではない。
遊んでいる途中でエラーが出れば、不満に思うのは当然だ。
当然なのだが。
「でも!」
浜谷が力を込める。
「お客さんたちもメダル、ガンガン入れるじゃないですか!」
「まあね」
「一気に何十枚も入れたり!」
「いるね」
「エラー出たら台ガンガン揺らしたり!」
「いるねぇ」
「メダル落とすために筐体バンバン叩いたり!」
茂田が笑い始める。
「琉くん、溜まってるニダ?」
「若干!言われっぱなしだと!」
「めっちゃ溜まってるニダ」
「だって!」
浜谷は画面を指差す。
「こっちだって壊したくて壊してるわけじゃないですからね!?」
日村が笑う。
「そりゃそうだ」
「エラー出たら飛んでいって!直して!戻った瞬間また別の台呼ばれて!」
「まだ時間かかるのか!って怒られて!」
そこへ。
山神が入ってきた。
「おぅ」
「山神さん!」
「おぅ?」
浜谷は勢いのまま山神にも訴える。
「メダルゲームって、ちゃんとメンテしててもエラー出ますよね!?」
「おぅ」
「ですよね!」
強力な援軍を得た。
「もちろんエラーを減らすのは僕らの仕事ですよ!このご意見だってわかりますけど!」
「うん」
「エラーの原因はメンテが行き届いてないだけじゃないんです!」
浜谷は一度、息を吸った。
そして。
絶対に客の前では言えない言葉を。
事務所の中だけで吐き出した。
「そんなに簡単に言うなら……」
三人が浜谷を見る。
「じゃあ、あんたが直してみろよ!」
「って思いますね!!」
一瞬。
静まり返る事務所。
日村が吹き出した。
茂田も笑う。
「言っちゃったニダ!」
「お客さんの前では言いませんよ!?」
「当たり前だよ」
「分かってます!」
山神だけは静かに。
「おぅ」
「山神さんだけ肯定してくれた!」
「肯定したとは限らないニダ!」
その後。
浜谷と日村は、ご意見に書かれていたメダルゲームを確認した。
汚れを取り。
センサーを確認し。
メダルのレールも再確認する。
「ここ、ちょっと詰まりやすくなってるね」
日村が言った。
「ほんとですね」
浜谷は真剣に機械へ向き直る。
文句を言っていても。
直す時は直す。
それが仕事である。
作業を終え。
浜谷は立ち上がった。
「よし!」
「どう?」
「これで様子見ですね」
少し離れた場所から茂田が笑う。
「ちゃんと直すニダね」
「当たり前ですよ!」
「じゃあ、あんたが直してみろよ!って言ってたのに?」
「それとこれとは別です!」
山神が通りすがりに。
「おぅ」
浜谷は機械を見た。
客の言い分も。
分かる。
店員の言い分も。
ある。
それでも。
エラーが出れば。
今日も工具を持って駆けつける。
なぜなら。
「じゃあ、あんたが直してみろよ!」
なんてお客さんには。
絶対に言えないからである。