原町中央店。
「いやぁ〜、よかったニダ!」
朝から茂田のテンションが高かった。
かなり高かった。
「何がですか?」
浜谷が尋ねる。
「大衆演劇!」
「大衆演劇?」
「この近くに一座が来てるニダ!」
どうやら原町中央店の近くで、大衆演劇の公演が行われているらしい。
茂田は昨日、仕事終わりに観に行ったという。
「もうね、すっごいの!お芝居も面白いし、衣装も綺麗だし!」
「へぇー」
「琉くんも行った方がいいニダ!」
「そんなに良かったんですか?」
「めちゃくちゃ良かった!」
茂田は興奮気味に話し続ける。
そして。
ふと浜谷を見る。
「…………」
「なんですか?」
「そういえば」
「はい」
「うちにも大衆演劇の人いたニダ」
「いましたっけ?」
浜谷は首を傾げる。
原町中央店のスタッフを思い浮かべる。
そんな経歴の人がいただろうか。
茂田がニヤッと笑った。
「よっ!」
「はい?」
「はまの助!」
「やめてください!」
浜谷は即座に止めた。
阿佐野店で一日だけ誕生した、謎の男。
浜谷琉改め。
はまの助。
「もう終わったんですよ!」
「はまの助!」
「浜谷です!」
茂田が笑う。
「懐かしいニダ!」
「掘り返さないでください!」
すると。
茂田が突然、店内を見渡した。
「…………」
「今度はなんですか?」
「決めた!」
嫌な予感。
「ファンステ一座作るニダ!」
「何故!?」
「大衆演劇観たから!」
「理由が直結しすぎでしょ!」
茂田はもう止まらない。
「配役決めよう!」
「仕事してください!」
二人で店内を見る。
ちょうど通路を巡回している川原と山神の姿があった。
茂田が指を差す。
「木乃香ちゃん!」
川原が振り返る。
「はい?」
「町娘!」
「……何がですか?」
浜谷が笑う。
「急に言われても分からないですよ!」
茂田は続ける。
「山神さん!」
「おぅ」
「悪代官!」
「おぅ」
浜谷が山神を見る。
「受け入れた!?」
川原も笑う。
「山神さん悪代官なんですか?」
「おぅ」
「絶対意味分かってないでしょ!」
茂田は満足そうに頷く。
「いいねぇ!」
「何がいいんですか」
さらに店内を見渡す。
クレーンゲームコーナー。
石村、高崎、相馬がいた。
「石村さん!」
「ん?」
「越後屋!」
「なんで?」
「悪代官と組んで悪いことする!」
石村が山神を見る。
山神が頷く。
「おぅ」
「俺、悪い人なの?」
高崎が笑う。
「似合いそう!」
「似合わないよ!」
茂田は次に相馬を見る。
「相馬さんは旅館の女将さん!」
相馬が笑う。
「あら、いいじゃない」
「めちゃくちゃ似合います!」
浜谷も思わず同意した。
「着物着て普通に出てきそうです」
「でしょ!」
「なんで私だけちゃんとした配役なの?」
石村が不満そうに言う。
「石村さんは越後屋です」
「そこ確定なの?」
「確定ニダ!」
そして高崎。
「麻美は――」
「私は?」
茂田は少し考える。
「旅芸人!」
「おお!」
高崎はなぜか嬉しそうだった。
「楽しそう!」
浜谷が驚く。
「乗るんですか!?」
「いいじゃん!」
「ファンステですよ、ここ!」
「琉くん」
茂田が浜谷を見る。
「大衆演劇に場所は関係ないニダ」
「関係ありますよ!」
今度はメダルゲームコーナー。
日村が機械の点検をしていた。
「ヒム!」
「ハイ?」
「浪人!」
「浪人?」
「無口でめちゃくちゃ強い浪人!」
日村は少し考える。
「……何の話?」
「そりゃそうですよ!」
イベントスペースでは藤屋と大沼が作業していた。
茂田が向かう。
「ふじ!」
「はい?」
「くノ一!」
「えっ!?」
藤屋が固まった。
「私が?」
「そう!」
「無理無理無理!」
「大丈夫!」
「恥ずかしい!」
その隣。
「奏子!」
大沼が振り返る。
「はい」
「姫!」
「……姫?」
「お姫様!」
大沼は少し黙った。
「私がですか?」
「そう!」
「…………」
こうして。
茂田によって勝手に決められたファンステ一座。
町娘・川原。
悪代官・山神。
越後屋・石村。
旅館の女将・相馬。
旅芸人・高崎。
浪人・日村。
くノ一・藤屋。
姫・大沼。
茂田は満足そうだった。
「完璧!」
浜谷が首を振る。
「何一つ完璧じゃないですよ」
川原が尋ねる。
「茂田さんは何やるんですか?」
「私?」
茂田が考える。
「一座の座長!」
「一番いいところ取った!」
浜谷がツッコむ。
「言い出した本人ですから!」
すると石村が浜谷を見る。
「浜谷くんは?」
「え?」
全員の視線が浜谷へ集まる。
浜谷は一歩下がった。
「いや、俺はいいですよ」
茂田がニヤッとする。
「何言ってるニダ」
「嫌な予感しかしない」
「ファンステ一座の花形役者!」
「…………」
茂田が大きく手を広げた。
「はまの助!」
「だからやめてください!!!」
川原が吹き出す。
「はまの助って何です?」
「知らない方がいいです!」
「浜谷さんってはまの助なんですか?」
「違います!」
大沼も笑う。
「はまの助……」
「大沼さんまで!」
高崎が声を張る。
「はまの助ー!」
「麻美さん!」
石村も続く。
「はまの助!」
「石村さんまで!」
相馬が笑う。
「人気者ね、はまの助」
「相馬さんまでやめてください!」
山神が浜谷を見る。
「はまの助」
「山神さんまで!?」
「おぅ」
「『おぅ』じゃないですよ!」
原町中央店。
仕事中。
もちろん本当に芝居をするわけではない。
衣装もない。
舞台もない。
それでも。
いつの間にかスタッフ全員に役名だけは付いていた。
そして。
その日の夕方。
浜谷がクレーンゲームの景品を補充していると。
川原が通りかかった。
「はまの助」
「浜谷です」
日村も通る。
「よっ、はまの助」
「浜谷です!」
高崎もやってくる。
「はまの助ー!」
「浜谷ですって!」
遠くから茂田。
「はまの助ー!」
ついに浜谷が振り返った。
「もうええわ!」
全員が笑う。
浜谷はため息をついた。
そして。
少しだけ間を置く。
「…………」
スッと姿勢を正した。
茂田が気づく。
「お?」
浜谷は片手を前へ出す。
「お待たせしやした」
川原が笑う。
「これがはまの助!」
「本日限り!」
浜谷は声を張る。
「はまの助一座改め、ファンステ一座原町中央公演の開幕でごぜぇやす!」
「おおー!」
なぜか拍手が起こる。
浜谷も笑ってしまった。
阿佐野店で誕生した。
一日限りの、はまの助。
まさかの原町中央店へ凱旋。
役者だけは揃った。
ファンステ一座。
本日、原町中央店にて旗揚げでごぜぇやす。