ある日の阿佐野店。
メダルゲームコーナー。
「よいしょっと。」
浜谷は、メダルゲーム機へのメダル補充を行っていた。
中を確認しながらメダルを入れていき――。
「よし、補充完了!」
あとは扉を閉めるだけ。
浜谷は扉を持ち上げる。
ガチャ。
「……ん?」
閉まらない。
もう一度。
ガチャ。
「……あれ?」
少し位置を変えて。
ガチャガチャ。
「なんで閉まらんの?」
浜谷はしゃがみ込み、扉の金具を確認する。
何かが挟まっているわけでもない。
鍵の位置もおかしくない。
「こうか?」
ガチャ。
「違う。」
「じゃあ、こう?」
ガチャガチャ。
「……。」
浜谷は扉を見つめる。
「お前。」
「さっきまで普通に閉まってたやん。」
当然、扉から返事はない。
そこへ茂田がやってくる。
「琉くん、何してるニダ?」
「茂田さん。」
浜谷は真顔で答える。
「扉が反抗期です。」
「そんなわけないニダ。」
「閉まらないんですよ。」
「貸してみるニダ。」
茂田が挑戦する。
ガチャ。
「……。」
もう一度。
ガチャガチャ。
「閉まらない…」
「でしょ?」
二人で扉を観察する。
そこへ矢水もやってくる。
「どうしたんですか?」
浜谷が振り返る。
「矢水さん。」
「この扉、閉められる?」
「扉ですか?」
「僕と茂田さんでは無理でした。」
「そんなに難しいんですか?」
矢水も挑戦。
ガチャ。
「……あれ?」
ガチャガチャ。
「本当ですね。」
三人がメダルゲーム機の前に並ぶ。
浜谷。
茂田。
矢水。
そして中央には――。
閉まらない扉。
「何なんですかね、これ。」
「機嫌悪いニダ?」
「さっき反抗期否定したじゃないですか!」
その時。
「どうかした?」
後ろから声がする。
三人が振り返る。
そこにいたのは――生田。
今日は生田の阿佐野店巡回の日だった。
茂田が助けを求める。
「生田さん!」
「このメダルゲームの扉が閉まらないニダ!」
「扉?」
生田が近づく。
浜谷が説明する。
「メダル補充して、閉めようとしたんですけど。」
「僕も茂田さんも矢水さんもダメでした。」
「ちょっと見せて。」
生田は扉の前にしゃがむ。
金具を見る。
扉を見る。
少しだけ位置を調整する。
そして。
ガチャン。
「はい。」
「……。」
閉まった。
あまりにもあっさり。
三人は固まる。
浜谷が目を見開く。
「え?」
茂田も驚く。
「え?」
矢水も扉を見る。
「……閉まりましたね。」
浜谷は慌てて聞く。
「生田さん!」
「今何したんですか!?」
「普通に閉めただけだけど。」
「普通に!?」
浜谷はもう一度扉を見る。
先ほどまで三人が悪戦苦闘していたのが嘘のように、完璧に閉まっている。
茂田が感心する。
「さすが生田さんニダ……。」
矢水も頷く。
「すごいですね。」
生田は首をかしげる。
「そんな大げさなこと?」
浜谷だけは納得できない。
「僕、何分これと戦ってたと思ってるんですか……。」
生田は笑う。
「経験の差じゃない?」
「大丈夫、経験積めば難なくいけるよ!」
その言葉を残して、生田はその場を離れていった。
残された三人。
浜谷は静かに扉へ手を置く。
「……。」
茂田が聞く。
「琉くん?」
浜谷は真剣な顔で呟く。
「この扉。」
「僕らには心を開いてくれなかったのに。」
「生田さんには一瞬で心の扉まで開きましたね。」
矢水が笑う。
「扉自体は閉めたんですけどね。」
「確かに!」
茂田も吹き出す。
「うまいこと言ったつもりが逆ニダ!」
浜谷は苦笑いしながら立ち上がる。
メダルゲームには。
今日もいろんな扉がある。
簡単に開く扉。
なかなか閉まらない扉。
そして――。
経験を積んだ人にしか扱えない扉。
浜谷は閉じられた扉を見つめる。
「いつか僕も一発で閉めてやるからな。」
こうして、阿佐野店で繰り広げられた、
三人対一枚の扉の戦いは――。
生田の圧勝で幕を閉じた。