阿佐野店。
土曜日。
店内には、いつものようにメダルゲームの音や、お客さんたちの声が響いていた。
メダルが落ちる音。
クレーンゲームの電子音。
子どもたちの声。
「おつかれさまぁ〜ず!」
事務所から茂田が出てくる。
「今日も賑やかニダ!」
「土曜日だからね」
古坂が答える。
高村はカウンター。
樋口はクレーンゲーム。
矢水と大澤はメダルコーナー。
細井も売り場を歩いている。
いつもの阿佐野店。
ただ今日は彼がいない。
浜谷は今日、原町中央店への出勤だった。
「…………」
細井がメダルコーナーを見る。
大澤がメダルゲームの扉を開けていた。
「エラーですか?」
「うん」
「頑張ってください!」
それだけ言って。
細井は歩き出す。
しばらくして。
「ねえ」
高村が言った。
「今日、なんか静かじゃない?」
古坂が店内を見る。
「静か?」
「うん」
店内には。
ゲーム機の音が響いている。
子どもも走っている。
「めちゃくちゃ騒がしいけど」
「そうなんだけどさぁ」
高村も首を傾げる。
「なんか静か」
樋口が戻ってきた。
「分かるかもです!」
「でしょ?」
矢水も少し考える。
「いつもと違う感じはするね」
「なんでだろ」
すると大澤が、メンテから戻ってくる。
「浜谷くんがいないから?」
全員。
「…………」
細井が笑った。
「それだ」
「琉くん、そんなうるさいニダ?」
茂田が聞く。
古坂が笑う。
「うるさいっていうより、よく喋ってるよね」
「確かに」
樋口も頷く。
「何かあるたびに反応するし」
高村。
「メダルでエラー鳴ったら?」
「『またですか!?』」
細井が浜谷の真似をする。
矢水が笑う。
「工具見つからなかったら?」
樋口。
「『ドライバー知りません!?』」
「言いそう!」
「言ってたニダ!」
茂田まで笑う。
大澤が静かに付け加える。
「直った時も報告しに来る」
「『復旧しました!稼働させまーす!』ってね」
細井が言う。
古坂が腕を組む。
「なるほどね」
浜谷がいない。
ただそれだけ。
なのに。
いつもの阿佐野店から。
一つ。
音が消えている。
「存在感あったんだねぇ」
高村が笑った。
「本人に言ったら喜びそう」
細井が言う。
「『僕そんなに阿佐野に馴染んでます?』とか」
「絶対言う」
その時。
茂田のスマートフォンが鳴った。
「あ!」
「どうしました?」
「スマイルタイム!」
毎週土曜、日曜の十三時。
各店舗で笑顔の写真を撮り。
事業部のグループへ送るスマイルタイム。
原町中央店から。
一枚の写真が送られてきた。
茂田が開く。
「来たニダ!」
みんなが集まる。
画面には。
笑顔の日村。
その隣で。
同じく笑って、ピースではなくなぜか4本指を立てている浜谷。
高村が吹き出す。
「いた!」
「そりゃ原町にはいるでしょ」
古坂が笑う。
「なんで4?」
「気を衒ってますね」
細井も笑う。
樋口が画面を見る。
「めっちゃ笑ってる」
「楽しそうだね」
細井も笑った。
矢水が言う。
「今日は向こうを騒がしくしてるんじゃない?」
「なるほど」
高村が納得する。
「原町がうるさい日だ!」
「浜谷くんを何だと思ってるの」
古坂が笑う。
茂田は写真を見ながら。
「琉くんはいつも元気ニダ」
「よかったですね」
細井が答える。
そして。
阿佐野店もスマイルタイム。
七人で集まる。
「撮るニダよー!」
「はーい!」
「もうちょっと詰めて!」
「大澤さん笑って!」
「笑ってる」
「分かりづらい!」
パシャ。
写真を確認する。
七人。
全員笑顔。
いつもの阿佐野店。
浜谷が来る前から。
ずっとここにいた人たち。
浜谷がいなくても。
もちろん。
店は回る。
会話もある。
笑い声もある。
ゲーム機は。
相変わらず騒がしい。
それなのに。
「やっぱ今日、静かだね」
細井が呟いた。
古坂が笑う。
「明日来るんでしょ?」
「うん」
「じゃあ明日は騒がしくなるね」
「本人に言ったら怒るかな?」
「多分喜ぶニダ!」
「なんで?」
みんなが笑った。
今日の阿佐野店も。
いつも通り。
とても騒がしい。
そして。
少しだけ静かだった。