原町中央店。
石村は、クレーンゲームを担当している。
その仕事ぶりは。
慎重。
とにかく慎重。
景品を展開する時も。
位置を見る。
角度を見る。
アームとの距離を見る。
一度離れて見る。
また近づいて見る。
そして。
もう一度見る。
まさに。
石橋を叩いて渡る男。
石村和久である。
「……じゃあもう少し仕事できてほしい……」
茂田がボソッと呟いた。
「何か言いました?」
近くにいた浜谷が振り返る。
「何もないニダ!!」
「めちゃくちゃ何か言ってた気がするんですけど」
「気のせいニダ!」
その頃。
石村はまだ景品を見ていた。
「石村さん」
川原が声をかける。
「はい」
「それ、さっきからずっと見てません?」
「見てる」
「何か問題あるんですか?」
「いや」
石村は腕を組んだ。
「これでいいのかなと思って」
「何分考えてるんですか?」
「まだ十分くらい」
「長いですよ!」
そこへ高崎がやってきた。
「何やってるの?」
「この景品なんですけど」
石村が台を指差す。
新しく展開する、大きめのぬいぐるみ。
「ここに置こうと思ってるんです」
「うん」
「でも、こっちの方がいいかなと思って」
「うん」
「ただ、こっちにするとアームが――」
「もう最初のでいいんじゃない?」
高崎が即答した。
石村が黙る。
「…………」
「何?」
「いや」
石村はもう一度景品を見る。
「もう少し考えたいんです」
「まだ考えるの!?」
高崎の声が大きくなった。
少し離れたところで。
浜谷が反応する。
「あっ」
茂田も見る。
「始まったニダ」
「何がですか?」
「石村さんと麻美」
「いつもの組み合わせですね」
浜谷と茂田が様子を見ていると。
高崎が景品を持ち上げた。
「だから、ここでいいって!」
「いや、高崎さん。待ってください」
「何?」
「こっちの方が取りやすいかもしれないです」
「でもこっちだと見栄え悪いじゃん」
「見栄えより取りやすさじゃないですか?」
「取れればいいってわけじゃないでしょ」
「でも取れなかったら意味ないですよ」
「だから調整すればいいじゃん!」
「その調整を今考えてるんです!」
一悶着。
川原が少しずつ後ろへ下がる。
浜谷がその隣に来た。
「どうしました?」
「意見が割れてます」
「なるほど」
高崎は。
まず展開して。
客の動きを見ながら調整したい。
石村は。
展開する前に。
できる限り問題を潰しておきたい。
どちらも。
間違っているわけではない。
ただ。
考え方が。
真逆だった。
「一回置いてみようよ」
「いや、だから待って」
「置かないと分かんないでしょ!」
「置く前に考えられることもあるでしょ!」
「石村さん慎重すぎるって!」
「高崎さんが早すぎるんですよ!」
浜谷が呟いた。
「石橋を叩いてますね」
川原が見る。
「何ですか?」
「石村さん。石橋を叩いて渡るタイプじゃないですか」
「確かに」
「でも」
浜谷は石村を見る。
「叩きすぎて、まだ渡ってないです」
川原が吹き出した。
「確かに!」
「そこ笑うところじゃないよ!」
石村に聞こえていた。
「すみません!」
高崎が景品を持ったまま言う。
「もういいから一回やってみるよ!」
「だから待って!」
「まだ何かあるの!?」
「ここ」
石村がアームの先を見る。
「この位置だと、景品置いた時に引っかかるかもしれない」
「え?」
高崎が確認する。
浜谷も近づいた。
「……あ」
確かに。
わずかではあるが。
景品の形状によっては。
狙った動きにならない可能性がある。
「じゃあ、少し位置変えます?」
浜谷が言う。
「そうだね」
石村が頷く。
高崎も確認して。
「……確かにこれは変えた方がいいか」
「でしょ?」
石村が少し得意げになる。
「でも!」
高崎が指を差す。
「これ見つけるのに何分かかってんの!」
「慎重に見た結果ですから」
「遅い!」
「早すぎるよりいいでしょ!」
「仕事には時間もあるの!」
再び始まった。
「結局揉めるんですね」
川原が言った。
「どっちも言ってること分かるんですけどね」
浜谷が苦笑する。
そこへ。
山神がやってきた。
「おぅ」
「山神さん」
浜谷が聞く。
「石村さんと麻美さん、どっちが正しいと思います?」
山神は。
クレーンゲームを見る。
石村を見る。
高崎を見る。
そして。
「おぅ」
「どっち!?」
結局。
石村の指摘した部分を修正し。
高崎の考えた展開方法をベースに。
二人で景品を完成させた。
しばらくして。
客がプレイする。
アームが降りる。
景品を掴む。
動く。
落ちる。
もう一度。
客が挑戦する。
今度は。
景品が出口へ落ちた。
「取れた!」
高崎が言う。
「うん」
石村も頷いた。
「いい感じだね」
「最初から一回やれば早かったのに」
「でも俺が気づかなかったら引っかかってたでしょ?」
「だからって慎重すぎ!」
「高崎さんが急ぎすぎ!」
「また始まった」
川原が呟く。
浜谷は二人を見ながら笑った。
石橋を叩いて渡る。
慎重に。
慎重に。
安全を確かめて。
確実に渡る。
ただし。
石村の場合。
叩きすぎて。
渡り始めるまでに。
ちょっと時間がかかる。
「石村さん!」
浜谷が呼んだ。
「何?」
「石橋を叩かず渡ってみましょうよ!石村さん!」
「ここゲームセンターだけど」
「そういう意味じゃないです!!」
その横で。
茂田がボソッと呟いた。
「もうちょっと早く渡ってほしいニダ……」
「茂田さん、今度は聞こえましたよ!」
今日も。
原町中央店では。
石橋を叩いて。
叩いて。
もう一回叩いて。
ようやく渡る男が。
クレーンゲームを担当している。