阿佐野店。
午後。
浜谷はクレーンゲームコーナーを歩いていた。
「…………」
一度通り過ぎる。
少しして。
また通る。
「…………」
そして。
また見る。
少し離れたところから、その様子を見ていた細井。
「浜谷くん」
「はい?」
「どうしたの?」
「何がですか?」
「なんか落ち着かなくない?」
「いやぁ、別に」
「そう?」
「はい」
浜谷はそう答えると。
またクレーンゲームコーナーを見る。
「…………」
細井もそちらを見る。
何台ものクレーンゲーム。
その中の一台で。
若い女性客が遊んでいた。
「…………」
浜谷。
また見る。
「絶対なんかある」
細井が呟いた。
その時。
女性客が浜谷に気づく。
「あ、すみません」
「はい!!」
返事が早い。
「これ、ちょっと手直しお願いできますか?」
「もちろんです!」
「ありがとうございます」
浜谷はすぐにクレーンゲームへ向かった。
細井。
「…………」
そこへ。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田がやってきた。
「茂田さん!」
「どうしたニダ?」
「浜谷くん、なんかおかしいです」
「琉くん?」
「さっきから落ち着かないんですよ」
「ほぉ」
「なんか匂います」
二人でクレーンゲームコーナーを見る。
浜谷は女性客と話しながら。
景品の位置を確認していた。
茂田。
数秒。
「分かったニダ」
「え?」
「あの女性」
「はい」
「多分、琉くんのタイプニダ」
「…………」
細井がもう一度見る。
「えぇ?」
「間違いないニダ」
一方、浜谷は。
「この位置で大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます!」
「いえいえ!」
景品を整え。
笑顔でその場を離れる。
そして戻ってくる。
「お待たせしました」
細井と茂田。
じーっ。
「……なんですか?」
「浜谷くん」
「はい」
「あの人、タイプなの?」
「…………は?」
一瞬。
浜谷が止まった。
「なんで!?」
「当たりニダ!」
「茂田さん!」
細井が笑う。
「やっぱりそうなんだ」
「いや!別に!」
「じゃあなんでずっとクレーンコーナー気にしてたの?」
「それは……」
「それは?」
「…………」
浜谷は小声で。
「ちょっと綺麗な人だなと思ってただけです」
「タイプじゃん!」
「認めたニダ!」
「違いますって!」
浜谷は顔を逸らした。
細井がニヤニヤする。
「だから手直し呼ばれた時、あんな返事早かったんだ」
「それは普通の接客です!」
「『はい!!』」
細井が再現する。
「そんな言い方してないです!」
「してたニダ!」
「店長まで!」
茂田が笑う。
「私情最大ニダ!」
「史上最大?」
「違う!個人的な感情の方ニダ!」
「違いますって!!」
三人が笑う。
その時。
「あのー」
先ほどの女性客だった。
浜谷。
「はい!!」
細井と茂田。
「…………」
「取れました!」
女性客の手には、先ほどの景品。
「あ!おめでとうございます!」
「ありがとうございました」
「いえいえ!よかったです!」
女性客は笑顔で去っていった。
浜谷も笑顔で見送る。
そして。
振り返る。
細井と茂田が。
ものすごい顔で見ていた。
「……何?」
細井が笑う。
「嬉しそう」
「景品取れたからですよ!」
「誰が?」
「お客さんが!」
「ほんとに?」
「ほんとです!」
「ただ…」
「ただ、何ニダ?」
「少し可愛いなと思いました…」
茂田がニヤニヤする。
「琉くん」
「なんですか」
「連絡先渡さなくていいニダ?」
「店員がお客さんにそんなことするわけないでしょ!」
即答。
そこだけは。
浜谷も一切迷わなかった。
綺麗だなと思う。
タイプだなと思う。
取ってほしいなと思う。
それくらいの私情は。
人間だから。
当然ある。
けれど。
接客は接客。
特別扱いはしない。
余計なこともしない。
ただ。
少しだけ。
返事が早くなるくらい。
「浜谷くん」
「はい?」
「またあのお客さん来たら教えてあげよっか?」
「やめてください!」
「なんで?」
「恥ずかしいからです!」
茂田が笑った。
「私情最大ニダ!」
「だから最大じゃないって!」
基本的に浜谷は誰に対しても平等に接客する。
ただし。
可愛い女性のお客さんに対しては少し私情が入るようだ。