阿佐野店。
午後。
浜谷はクレーンゲームコーナーを巡回していた。
景品の位置を確認し、景品が乱れている台を軽く整える。
その途中。
ふと、浜谷の視線が止まった。
少し離れたところで、細井が接客をしている。
「ここ狙ってみてください!」
お客さんと同じ目線になるように少ししゃがみ、笑顔で説明している。
お客さんがボタンを押す。
アームが動く。
景品が少しだけ動いた。
「おっ!いい感じです!」
細井が笑う。
浜谷はその様子を眺めていた。
「…………」
接客が上手い。
明るい。
声もよく通る。
何より、楽しそうに接客する。
お客さんも笑っていた。
(やっぱ細井さん、接客上手いなぁ)
浜谷はそのまま見ていた。
細井が景品の位置を直す。
立ち上がり、髪を耳にかける。
再び笑顔でお客さんに声をかける。
「…………」
浜谷は思った。
(絵になるわぁ)
さらに。
別のお客さんから声がかかった。
「すみませーん!」
「はーい!」
細井が振り返る。
そして、そのまま笑顔で歩いていく。
「…………」
浜谷は目で追った。
(まるで女神やん)
「浜谷くん」
「はい」
突然、横から声がした。
浜谷が振り向く。
樋口だった。
「さっきから何見てるの?」
「え?」
「細井ちゃん見てるよね?」
「…………」
浜谷は一瞬黙った。
「細井さんの接客を見て勉強してました」
「ほんとに?」
「本当ですよ!」
そこへ大澤までやってくる。
「どうしたの?」
「浜谷くんが、ずっと細井ちゃん見てる」
「ずっと!?」
「違いますって!」
浜谷は慌てて否定する。
「細井さんの接客を見てたんですよ!勉強です!」
樋口がニヤッとする。
「へえー?」
大澤も浜谷を見る。
「勉強ね」
「なんですか、その反応!」
「だって、ずっと見てたから」
「接客上手いんですよ、細井さん!」
浜谷は力説する。
「お客さんへの声のかけ方とか、距離感とか。見てて勉強になるんですよ!」
「それだけ?」
樋口が聞く。
「…………」
浜谷が少し考える。
そして。
「まあ、絵になるなとは思いましたけど」
「ほら!」
「何がほらなんですか!」
大澤が笑う。
「絵になるんだ?」
「なりますよ!」
浜谷は開き直った。
「綺麗なものを綺麗と言って何が悪いんですか!」
「そこまで言ってないよ!」
樋口が笑う。
その時。
「何の話?」
接客を終えた細井が戻ってきた。
「…………」
三人が細井を見る。
「何?」
細井が首を傾げる。
樋口が浜谷を見る。
「浜谷くん」
「僕ですか!?」
「本人に説明してあげれば?」
「なんで僕が……」
浜谷は少し困った顔をしたあと、細井を見る。
「細井さん」
「はい」
「細井さんは絵になるねって話です」
「…………」
細井が止まった。
樋口が吹き出す。
大澤も笑っている。
「何それ?」
「いや、接客してるところ見てたんですけど」
「見てたの?」
「はい。細井さん接客上手いですし、笑顔で接客してるところとか普通に絵になるなって」
「…………」
細井が浜谷を見る。
浜谷も普通に見返す。
数秒。
そして。
「殴るよ?」
「なんでですか!?」
浜谷が即座に反応した。
「褒めたじゃないですか!」
「なんか恥ずかしいから!」
「理不尽!」
樋口と大澤が笑う。
浜谷は納得できない顔をしながらも、再び細井を見る。
「でも、本当に接客上手いと思いますよ」
「……はいはい」
細井は少し照れくさそうに手を振った。
そして、また別のお客さんに呼ばれる。
「すみませーん!」
「はーい!」
細井はすぐに笑顔へ戻り、お客さんのもとへ向かった。
浜谷はその後ろ姿を見る。
「ほら」
「何が?」
樋口が聞く。
浜谷は少し笑った。
「やっぱり絵になる」
「また見てる!」
「接客の勉強ですって!」
今日も阿佐野店では。
細井の明るい声が響いていた。
そして。
それを眺める浜谷の視線も。
樋口と大澤には、しっかり見られていた。