阿佐野店。
午後。
メダルコーナー。
一台のメダルゲームの前に、生田がしゃがみ込んでいた。
扉を開け。
内部を覗き込み。
ドライバーを回す。
そこへ。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田がやってきた。
「お疲れ様です」
「生田さん、何してるニダ?」
「この台、最近ちょっと調子悪いって聞いたから見てる」
「ほぉ〜」
茂田は生田の隣にしゃがんだ。
「見学するニダ」
「どうぞ」
生田は笑いながら作業を続ける。
「これ、どこが悪いニダ?」
「まだ分かんない」
「分かんないの!?」
「だから調べてる」
「なるほどニダ」
生田は配線を確認する。
センサーを見る。
汚れを落とす。
その手は止まらない。
「メンテって難しいニダ?」
「難しいね、でも、一個ずつ原因を潰していけばいいから」
「ほぉ〜」
「しかも、経験が物を言うからね」
「さすが生田さん」
そこへ古坂が通りかかった。
「何してるの?」
「冨美子!」
茂田が手招きする。
「生田さんのメンテ見学会ニダ!」
「いつから見学会になったの?」
生田が笑う。
古坂も覗き込んだ。
「これ何見てるんですか?」
「今はセンサー」
「へぇ」
生田が指を差す。
「例えばエラーが出た時、いきなり全部バラすんじゃなくて、まず何のエラーなのかを見る」
「なるほど」
「そこから怪しい場所を絞っていく」
茂田が頷く。
「勉強になるニダ」
そこへ。
「何してるんですか?」
細井までやってきた。
古坂が答える。
「メンテ教室」
「面白そうですね!」
「仕事だからね」
生田が笑う。
細井も加わった。
三人になった。
さらに。
「なんで集まってるんですか?」
樋口まで来た。
茂田が手招きする。
「樋口ちゃんもおいで!」
「何ですか?」
「生田さんのメンテ教室」
「だから教室じゃないって」
生田の周囲を。
茂田。
古坂。
細井。
樋口。
四人が囲む。
「なんかやりづらいなぁ」
「気にしないでください!」
細井が笑う。
「めちゃくちゃ見られてるんだけど」
生田は苦笑しながら作業を続けた。
やがて。
「じゃあ、せっかくだから」
「?」
生田が少し横へずれる。
「これ、見てみます?」
「いいんですか?」
樋口がしゃがむ。
生田が内部を指す。
「ここ。メダルが通るところ」
「あ、汚れてますね」
「そう。こういうのもエラーの原因になるから」
古坂も覗く。
「掃除だけでも違うんですね」
「結構違うね、汚れてるとセンサーが誤反応しちゃうから」
細井。
「私もなんかやりたいです!」
「じゃあ、これでここ拭いてみて」
「はい!」
細井が慎重に作業する。
「こうですか?」
「そうそう」
「できた!」
茂田。
「私もやるニダ!」
「じゃあ茂田さんは……」
生田が少し考える。
「見るだけ」
「なんでニダ!!」
全員が笑った。
「冗談だよ」
簡単な確認方法を。
一つ。
また一つ。
生田は四人に教えていく。
難しい分解はしない。
無理に触らない。
まず状態を見る。
何が起きているのか考える。
そして。
分からなければ、分かる人に聞く。
「メンテって、何でも直せなきゃダメってわけじゃないんです」
古坂が頷く。
「どこまで自分でできるか分かってるのも大事ってことですか?」
「そう。最近だと浜谷くんはかなり頼れるようになってきた」
「浜谷くん、ずっと説明書と睨めっこしてますもん」
細井が笑いながら言っていると、
「親方!」
突然。
茂田が言った。
生田。
「……誰が?」
「親方ニダ!」
「なんで親方?」
「メンテを教えてくれるからニダ!」
細井が笑う。
「親方!」
樋口まで。
「親方、次どうするんですか?」
「やめてくださいよ」
古坂。
「親方、困ってるじゃん」
「古坂さんまで親方って言ってる!」
いつの間にか。
生田は親方になっていた。
その後。
調整を終え。
扉を閉める。
生田が電源を入れた。
メダルゲームが正常に動き始める。
「おぉ!」
細井が拍手する。
茂田も拍手する。
「さすが親方ニダ!」
「だから親方じゃないって」
樋口が笑う。
「でも、ちょっと分かるようになりました」
古坂も頷く。
「エラー出たら見るところ増えたかも」
「それならよかったです」
生田が工具を片付ける。
茂田は四人を見回した。
そして。
なぜか得意げに言った。
「ウチら」
「?」
「親方にメンテ教えてもらったニダ」
「はい」
「ガチでヤバくね?」
「急にどうしたんですか!?」
古坂が吹き出す。
細井も笑う。
「茂田さん、言い方!」
「ウチらと親方、ガチでヤバくね?」
生田。
「俺まで入れないでよ!」
その日。
阿佐野店に。
新たなメンテナンス集団が誕生した。
親方、生田。
弟子、四人。
もっとも。
親方本人だけは。
最後まで。
その呼び方を認めていなかった。