原町中央店。
今日は。
メダルゲームのキャンペーンの日。
朝から。
メダルコーナーは大忙しだった。
「次のお客様どうぞー!」
浜谷が案内する。
その横では大沼が受付。
山神もメダルの準備に追われている。
「山神さん、こっちお願いします!」
「おぅ」
「大沼さん、次いけます?」
「いける!」
開始からしばらく。
三人は。
ほとんど休む暇もなかった。
「しんど……」
浜谷が小さく呟く。
大沼も苦笑する。
「まだまだ来るよ」
「マジですか……」
浜谷は疲れていた。
かなり疲れていた。
そして。
疲れると。
たまに。
昔から馴染みのある関西弁が出る。
「これ、あと何件あんねん……」
「浜谷くん、関西弁出てるよ」
「もう許してください……」
その時。
一人の男性客がやってきた。
「メダルのキャンペーン」
浜谷はすぐに切り替える。
「はい。メダルのキャンペーンのご利用でよろしかったです?」
「それ以外何があるの?」
「…………」
浜谷は一瞬だけ黙った。
(なんコイツ、マジで。)
もちろん。
口には出さない。
「じゃあ、お支払いは現金か、クレ――」
「現金」
食い気味だった。
「……はい。じゃあ、こっちに来ていただけます?」
浜谷は男性をメダル貸し機の前へ案内する。
すると。
「お前さ」
「はい?」
「態度悪いな」
浜谷が振り返った。
「……は?」
「接客業なんだからさ。気をつけろよ」
浜谷は思わず言い返してしまう。
「何に気をつけるんですか?」
男性は浜谷を見る。
「笑顔とかさ」
「…………」
浜谷は思った。
(あ。コイツ。接客業やったことあらへんな。)
忙しい。
疲れている。
それでも。
こちらは必要な案内をしている。
それ以前に。
最初から喧嘩腰だったのは。
どちらなのか。
これ以上言っても無駄である。
浜谷は。
一度だけ息を吐いた。
そして。
笑顔を作り直した。
「はーい」
説明する。
「はーい」
メダルを渡す。
「はーい」
それ以上は。
何も言わなかった。
やがて。
男性はメダルコーナーへ去っていった。
「…………」
浜谷の笑顔が消える。
近くにいた大沼が。
苦笑しながら声をかけた。
「いるよね、ああいうお客さん」
「いますね……」
「私もなんか、よく舐められるんだよね」
浜谷が眉をひそめる。
「理不尽ですよね。まったく」
「でも」
大沼が浜谷を見る。
「よく言い返したね?」
「まあ……」
浜谷は少し考えた。
「理不尽を許しちゃったら、お客さんつけあがるじゃないですか」
「うん」
「他のお客さんとも差別になってしまいますし」
浜谷は。
さっきの男性が去った方向を見る。
「入りたての頃は、謝ることしかできなかったんですけどね」
何を言われても。
とりあえず。
申し訳ありません。
すみません。
それしか言えなかった。
「でも、ああいう態度取られると……」
浜谷は続ける。
「茂田さんとか山神さん、麻美さんみたいに強い人たちなら対応できますけど」
少し間を置く。
「川原さんとか藤屋さん。それこそ大沼さんたちが舐められるのが、僕は許せなくて」
「…………」
大沼が浜谷を見る。
「だから、理不尽なものは理不尽だって言えるようになりたいんですよね」
その時。
後ろから。
「おぅ」
二人が振り返る。
山神が立っていた。
どうやら。
途中から聞いていたらしい。
浜谷が笑う。
「山神さんなら、ああいう時どう思います?」
「気にしない。気にも留めない。店員にしか強く出れない可哀想なお客さんだな。」
「さすが山神さん!強い!」
大沼が笑った。
そして。
浜谷をじっと見る。
「でもさ」
「はい?」
「浜谷くん……」
「はい」
「もしかして昔、ヤンチャしてた?」
「…………」
「仲間を大切にするっていうのが、ヤンキーっぽいと思っちゃった」
浜谷が止まった。
大沼が首を傾げる。
「浜谷くん?」
「…………」
「ねえ」
浜谷は目を逸らした。
「少しだけ?」
「やっぱり!?」
「いや!ヤンキーではないですよ!」
「ヤンキーでは!?」
「気になる!」
山神が。
「おぅ」
と笑う。
理不尽は許すまじ。
それは自分自身のためだけではなく大事な仲間を守るための浜谷のポリシーであった。