阿佐野店。
午後。
メダルゲームコーナー。
「…………」
浜谷は一台のメダルゲームの前にしゃがみ込んでいた。
扉を開け。
中を覗く。
手元には工具。
そして。
説明書。
「ここが……これか」
説明書を見る。
機械を見る。
また説明書を見る。
「たぶんこれだな」
その時。
「お、やってるね」
後ろから声がした。
「生田さん!」
エリアメンテの生田だった。
「メダル?」
「はい。ちょっと調子悪くて」
生田も隣にしゃがみ込む。
「浜谷くんってさ」
「はい?」
「大学でこういう機械系学んでるの?」
「いえ!土木なんですよ」
「土木!?」
生田が驚く。
「意外!」
「全然関係ないです」
「じゃあ機械いじるのはファンステ入ってから?」
「そうですね。ほぼここで覚えました」
生田は機械の中を見る。
浜谷は再び説明書とにらめっこする。
「でもさ」
生田が言った。
「原町には日村さんや山神さんいるから、メンテに関しては安心できるんだけど」
「はい」
「阿佐野って、大澤さんだけだったじゃん?」
浜谷が頷く。
「だから大澤さんの負担大きいだろうなって、前からちょっと心配してたんだよ」
生田は浜谷を見る。
「浜谷くんがこっち応援に来て、メンテできるようになって助かってると思うよ?」
「そうですかね?」
「うん。実際俺も結構助かってるし」
「阿佐野ってお店小さいし、俺のいる店舗から遠いんだよ」
「大澤さんや浜谷くんがいるから大丈夫か!ってなるから!」
浜谷は少し照れた。
「いやぁ……」
そして。
手に持っていた説明書を見る。
「でも僕、意気地なしですから」
「意気地なし?」
「説明書とにらめっこしながらですよ」
浜谷はページをめくる。
「間違えて壊したらどうしようって思うと、怖くて。分からないところは何回も確認してます」
「それでいいんだよ」
「え?」
「説明書見てもできない人はできないから!」
生田が笑う。
「大丈夫!」
浜谷は少し驚いた。
「そんなもんですか?」
「そんなもん。説明書読んで、構造見て、考えて触れるなら十分だよ」
「でも生田さん、説明書なくても大体できますよね?」
「俺と比べなくていいの!」
「親方って呼ばれてますもんね」
「誰が親方だよ」
「茂田さんから聞きましたよ?」
「茂田さんが勝手に言ってるだけ」
生田が笑う。
浜谷も笑った。
「じゃあ、続きやってみます」
「よろしく!俺ここにいるから、分からなかったら聞いて」
「ありがとうございます」
浜谷は再び機械を見る。
説明書を確認しながら。
部品を外す。
中を確認する。
「あ」
「どうした?」
「これですね」
浜谷が原因を見つけた。
生田が覗き込む。
「正解」
「よかったぁ……」
「ほら、できてるじゃん」
「生田さんがいるからですよ」
「いなくてもできるって」
修正して。
機械を元に戻す。
動作確認。
メダルが正常に流れ始めた。
「よし!」
浜谷が笑う。
生田も頷いた。
「十分十分」
「ありがとうございます!」
浜谷は工具を片付けながら。
ふと思った。
「でも僕、まだまだ意気地なしですよ」
「そんなことないですぞ〜」
「え?」
「浜谷くんは意気地なしじゃないから!」
「ありがとうございます!」
「でも生田さんがそんなこと言ってくれるの本当に嬉しいです」
「僕にとっての大師匠なんですから!」
「照れるじゃん、やめてよ」
「でも、本当にそうですぞ〜」
メダルゲームコーナーに。
二人の笑い声が響いた。
説明書を見ながら。
何度も確認しながら。
少しずつ覚えていく。
それでも。
誰かの負担を減らせているのなら。
浜谷はもう。
立派なメンテ要員の一人なのかもしれない。