ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

211 / 215
ここに浜谷が怨念?

原町中央店。

 

午後。

 

カウンター。

 

浜谷と川原が並んでいた。

 

比較的。

 

店内は落ち着いている。

 

「今日、平和ですね」

 

川原が店内を見ながら言う。

 

「こういう時間も必要ですよ」

 

「忙しい日との差がすごいですよね」

 

「この前のメダルキャンペーンなんか地獄でしたからね」

 

「ああ、忙しかったみたいですね」

 

「朝からずっとでしたよ」

 

そんな話をしていた。

 

その時。

 

一人の男性客が。

 

メダルゲームコーナーへ向かって歩いてきた。

 

浜谷が。

 

その姿に気づく。

 

「…………」

 

さっきまで。

 

普通に川原と話していた浜谷が。

 

急に黙った。

 

「……浜谷さん?」

 

「…………」

 

男性客も。

 

浜谷に気づいた。

 

目が合う。

 

「…………」

 

男性は。

 

少しだけ気まずそうに。

 

視線を逸らした。

 

浜谷は。

 

笑わない。

 

怒らない。

 

何も言わない。

 

ただ。

 

スンとした顔で。

 

男性をじっと見つめている。

 

男性はそのまま。

 

メダルゲームコーナーへ向かった。

 

「…………」

 

浜谷の視線だけが。

 

その背中を追っていた。

 

川原が。

 

浜谷を見る。

 

「浜谷さん」

 

「はい?」

 

「どうしたんですか?」

 

「何がです?」

 

「いや、急に怖いですよ」

 

「そうですか?」

 

「めちゃくちゃ見てましたよね?」

 

浜谷は。

 

もう一度。

 

男性が向かった方向を見る。

 

「あの人ですよ」

 

「?」

 

「この前のメダルキャンペーンの時に、理不尽に怒ってきた人」

 

「ああ……」

 

川原も話は聞いていた。

 

「態度が悪いとか言われたっていう?」

 

「そうです」

 

浜谷は笑顔で腕を組む。

 

「最初から向こうが喧嘩腰だったのに、僕に笑顔がどうとか言ってきた人です」

 

「それであんなに見てたんですか?」

 

「だって」

 

浜谷は笑顔で言った。

 

「店員という立場上、こっちからふっかけるわけにはいかないんですよ」

 

「まあ……そうですね」

 

「だから」

 

浜谷は。

 

メダルゲームコーナーを見る。

 

「テメェがやったカルマを、ワシがおる間は背負ってメダルで遊べよって」

 

「怖っ!」

 

川原が思わず浜谷を見る。

 

「なんで急にワシなんですか!」

 

「あ、つい出ちゃいました」

 

「怨念じゃないですか」

 

「怨念じゃないです」

 

「じゃあ何なんですか?」

 

「戒めです」

 

「もっと怖いですよ!」

 

浜谷は。

 

少しだけ笑った。

 

そして。

 

川原を見る。

 

「でも、たまたま今回は僕だったから良かったんですよ」

 

「良かったんですか?」

 

「僕なら言い返せますから」

 

浜谷の表情が。

 

少し真面目になる。

 

「でも」

 

「はい」

 

「川原さんに当たって、あんな態度取りやがったら」

 

浜谷は言った。

 

「ワシ、許しませんから」

 

「…………」

 

川原が目を瞬く。

 

「またワシになってる」

 

「そこですか!?」

 

川原が笑った。

 

浜谷も笑う。

 

「まあ、川原さんだけじゃないですけどね」

 

「大沼さんとか藤屋さんとか?」

 

「そうです」

 

浜谷は頷いた。

 

「店員なら何言ってもいいと思ってる人、嫌いなんですよ」

 

「浜谷さん、結構根に持ちますね」

 

「持ちますよ」

 

即答だった。

 

「そこは否定しないんですね」

 

「理不尽なことされたのに、次の日全部忘れられるほど人間できてないです」

 

「山神さんなら忘れてそう」

 

「山神さんは強すぎるんですよ」

 

二人で笑う。

 

その向こうでは。

 

例の男性が。

 

何事もなかったように。

 

メダルゲームで遊んでいる。

 

浜谷が。

 

ちらりと見る。

 

そして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

川原が気づく。

 

「また見てる」

 

「見てません」

 

「見てます」

 

「巡回です」

 

「カウンターから?」

 

「心の巡回です」

 

「何ですか、それ」

 

浜谷は。

 

もう一度だけ。

 

男性を見る。

 

こちらから。

 

何かをするつもりはない。

 

遊びに来るのも自由。

 

普通に遊んでいるなら。

 

それでいい。

 

ただし。

 

忘れてはいない。

 

忘れてはやらない。

 

原町中央店。

 

みんなのことを大事に思う、浜谷がおんねん。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。