原町中央店。
午後。
カウンター。
浜谷と川原が並んでいた。
比較的。
店内は落ち着いている。
「今日、平和ですね」
川原が店内を見ながら言う。
「こういう時間も必要ですよ」
「忙しい日との差がすごいですよね」
「この前のメダルキャンペーンなんか地獄でしたからね」
「ああ、忙しかったみたいですね」
「朝からずっとでしたよ」
そんな話をしていた。
その時。
一人の男性客が。
メダルゲームコーナーへ向かって歩いてきた。
浜谷が。
その姿に気づく。
「…………」
さっきまで。
普通に川原と話していた浜谷が。
急に黙った。
「……浜谷さん?」
「…………」
男性客も。
浜谷に気づいた。
目が合う。
「…………」
男性は。
少しだけ気まずそうに。
視線を逸らした。
浜谷は。
笑わない。
怒らない。
何も言わない。
ただ。
スンとした顔で。
男性をじっと見つめている。
男性はそのまま。
メダルゲームコーナーへ向かった。
「…………」
浜谷の視線だけが。
その背中を追っていた。
川原が。
浜谷を見る。
「浜谷さん」
「はい?」
「どうしたんですか?」
「何がです?」
「いや、急に怖いですよ」
「そうですか?」
「めちゃくちゃ見てましたよね?」
浜谷は。
もう一度。
男性が向かった方向を見る。
「あの人ですよ」
「?」
「この前のメダルキャンペーンの時に、理不尽に怒ってきた人」
「ああ……」
川原も話は聞いていた。
「態度が悪いとか言われたっていう?」
「そうです」
浜谷は笑顔で腕を組む。
「最初から向こうが喧嘩腰だったのに、僕に笑顔がどうとか言ってきた人です」
「それであんなに見てたんですか?」
「だって」
浜谷は笑顔で言った。
「店員という立場上、こっちからふっかけるわけにはいかないんですよ」
「まあ……そうですね」
「だから」
浜谷は。
メダルゲームコーナーを見る。
「テメェがやったカルマを、ワシがおる間は背負ってメダルで遊べよって」
「怖っ!」
川原が思わず浜谷を見る。
「なんで急にワシなんですか!」
「あ、つい出ちゃいました」
「怨念じゃないですか」
「怨念じゃないです」
「じゃあ何なんですか?」
「戒めです」
「もっと怖いですよ!」
浜谷は。
少しだけ笑った。
そして。
川原を見る。
「でも、たまたま今回は僕だったから良かったんですよ」
「良かったんですか?」
「僕なら言い返せますから」
浜谷の表情が。
少し真面目になる。
「でも」
「はい」
「川原さんに当たって、あんな態度取りやがったら」
浜谷は言った。
「ワシ、許しませんから」
「…………」
川原が目を瞬く。
「またワシになってる」
「そこですか!?」
川原が笑った。
浜谷も笑う。
「まあ、川原さんだけじゃないですけどね」
「大沼さんとか藤屋さんとか?」
「そうです」
浜谷は頷いた。
「店員なら何言ってもいいと思ってる人、嫌いなんですよ」
「浜谷さん、結構根に持ちますね」
「持ちますよ」
即答だった。
「そこは否定しないんですね」
「理不尽なことされたのに、次の日全部忘れられるほど人間できてないです」
「山神さんなら忘れてそう」
「山神さんは強すぎるんですよ」
二人で笑う。
その向こうでは。
例の男性が。
何事もなかったように。
メダルゲームで遊んでいる。
浜谷が。
ちらりと見る。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
「…………」
川原が気づく。
「また見てる」
「見てません」
「見てます」
「巡回です」
「カウンターから?」
「心の巡回です」
「何ですか、それ」
浜谷は。
もう一度だけ。
男性を見る。
こちらから。
何かをするつもりはない。
遊びに来るのも自由。
普通に遊んでいるなら。
それでいい。
ただし。
忘れてはいない。
忘れてはやらない。
原町中央店。
みんなのことを大事に思う、浜谷がおんねん。