原町中央店。
午後。
浜谷がクレーンゲームコーナーを巡回していると、ある台の前で川原が立ち止まっていた。
仕事中なので遊んでいるわけではない。
景品の位置を確認している。
ただ、その表情が妙に嬉しそうだった。
浜谷が近づく。
「川原さん」
「はい?」
「さっきから何見てるんですか?」
「これですよ!」
川原が指さした。
そこに並んでいたのは『プリっとプリンセス初代』の景品。
『プリッとプリンセス(通称プリプリ)』とは、女の子たちが変身して悪と戦う人気アニメシリーズ。
長年にわたって新シリーズが作られており、その記念すべき第1作が『プリプリ初代』である。
そして。
川原が指さしているのは、その初代プリプリの一人。
「カヲリちゃん!」
「またカヲリですか」
「“また”って何ですか!」
川原は不満そうに浜谷を見る。
「カヲリちゃん、可愛いじゃないですか!」
「それは知ってますよ。川原さん、前から言ってるじゃないですか」
「可愛いだけじゃないんですよ!」
川原の声に熱が入った。
浜谷は少しだけ後ずさる。
「始まった……」
「何がですか!」
川原は構わず続ける。
「普段は可愛いんですけど、ちゃんと仲間のこと見てるし、ここぞって時には頼りになるんです!」
「へえ」
「しかも――」
「まだあるんですか?」
「ありますよ!」
浜谷は笑った。
ここまで好きなものについて真剣に話せるのも、ある意味すごい。
川原はしばらくカヲリの魅力を語り続けた。
そして。
「だから、可愛いだけじゃないんです!」
「なるほど」
浜谷が頷く。
その時。
「すみませーん!」
少し離れたところから、お客さんの声が聞こえた。
「あ、はい!」
川原がすぐに振り返る。
クレーンゲームで遊んでいた親子だった。
「これ、どうやったら取れますか?」
「ちょっと見てみますね!」
川原は台の中を確認する。
「ここを狙ってもらって、少しずつ動かす感じですね」
子どもの目線に合わせながら説明する。
一度プレイを見てから、景品の状態を確認。
「もうちょっとです!頑張ってください!」
「うん!」
川原は笑顔でその場を離れた。
そして浜谷のところへ戻ってくる。
「お待たせしました」
「…………」
「何ですか?」
浜谷は少し考えてから言った。
「川原さんも似てますよね」
「誰にですか?」
「カヲリ」
「えっ?」
川原が目を丸くする。
「普段はこんな感じですけど、仕事になるとちゃんとしますし」
「ちょっと待ってください」
「はい」
「“普段はこんな感じ”って何ですか?」
「そこ引っかかります?」
「引っかかりますよ!」
浜谷が笑う。
「でも、可愛いだけじゃないっていうのは川原さんも同じじゃないですか?」
「…………」
今度は川原が黙った。
「仕事してる時は普通に頼りになりますよ。僕が阿佐野行ってる間も原町でやってるわけですし」
「……なんか急に褒めますね」
「事実なんで」
川原は少し照れくさそうに笑った。
しかし、何かに気づく。
「ちょっと待ってください」
「今度は何ですか?」
「今、“可愛いだけじゃない”って言いました?」
「言いましたね」
「それって……」
川原が浜谷を見る。
「私が可愛いっていう前提になってません?」
「…………」
浜谷は少し考えた。
そして。
「まあ、普通に可愛いんじゃないですか?」
「えっ!?」
「なんで驚くんですか」
「いや、浜谷さんが急にそんなこと言うから!」
「川原さんが聞いたんじゃないですか!」
「そうですけど!」
川原の顔が少し赤くなる。
浜谷は訳が分からないという顔をしていた。
「綺麗とか可愛いとか、普通に言えばいいじゃないですか」
「浜谷さん、そういうところありますよね……」
「どういうところですか?」
「知りません!」
川原は再び『プリプリ初代』の台を見る。
そこには大好きなカヲリがいる。
可愛い。
でも。
可愛いだけじゃない。
「……まあ」
川原が小さく笑う。
「カヲリちゃんと一緒なら、悪くないです」
「そこまで好きなんですね」
「そこですか!?」
今日も原町中央店では。
大好きなものを語る時は、ちょっと熱くて。
仕事になれば、ちゃんと頼れる。
そんな川原が働いている。
可愛いだけじゃない。
それが、川原木乃香だった。