原町中央店。
休憩室。
浜谷は一人、机に向かっていた。
目の前には一冊のノート。
何やら真剣な顔で書いている。
「…………」
カリカリ。
「浜谷くん」
「うわっ!」
川原が入ってきた瞬間。
浜谷は勢いよくノートを閉じた。
「何してるんですか?」
「何もしてないです!」
「いや、なんか書いてたじゃないですか」
「書いてないです!」
「書いてましたよ」
「気のせいです!」
浜谷はノートを持って立ち上がる。
「休憩終わるんで戻ります!」
「あ、はい」
そそくさと休憩室を出ていった。
川原。
「……怪しい」
しばらくして。
高崎と大沼が休憩室へやってきた。
「お疲れー」
「お疲れ様です」
川原が二人を見る。
「あれ?」
机の上。
一冊のノート。
浜谷が持っていったはずのノートだった。
どうやら。
別の荷物を持った時に置き忘れたらしい。
「これ……」
川原が手に取る。
表紙には。
大きく。
『ですか?ノート』
「ですか?ノート?」
高崎が覗き込む。
「何それ?」
「浜谷くんがさっき書いてたんですよ」
大沼も近づく。
「見ちゃダメじゃない?」
「そうですよね」
「でも気になるね」
「気になりますね」
三人。
「…………」
開いた。
『なんでクレーンゲーム取れないだけで店員に当たってくるんですか?』
「いきなり不満!」
次。
『メダルゲームのエラー対応をして、お礼がないのはなぜですか?』
「溜まってるなぁ」
次。
『子供を放置して親がメダルゲームに夢中になってるのはなんでですか?』
「うわぁ……」
次。
『閉店時間ギリギリになぜ来るのですか?』
高崎が笑う。
「浜谷くん、結構言いたいことあるんだね」
「普段あんまり言わないですもんね」
川原がページをめくる。
すると。
内容が変わった。
『細井さんはなぜ僕の心が読めるんですか?』
「細井さん?」
川原が首を傾げる。
高崎と大沼が顔を見合わせる。
「阿佐野の人で、川原ちゃんが入ってくる前に原町にいた人!」
「私たちは知ってるよ」
「へぇ」
次。
『樋口さんはなぜそんなに身長高いんですか?羨ましい。』
「樋口さんも阿佐野の人ですね」
川原が言う。
「阿佐野店からのチャットでメッセージ送ってくる人ですよね?」
「そうそう」
「会ったことはないけどね」
大沼が笑う。
「浜谷くん、身長気にしてるの?」
「羨ましいんだって」
「女性相手に?」
「このノートだけ見たら樋口さん、背高いらしいですよ」
「へぇー」
さらに。
次のページ。
三人の動きが止まった。
そこには。
今までとは比べものにならないほど大きな文字で。
一言。
『ニダって何ですか?』
「…………」
川原。
無言でノートを閉じた。
高崎も。
「これは……」
大沼。
「本人に聞けばいいのに」
「聞いても答え出なかったんだよ…」
三人はノートを元の場所へ戻し、カウンターに戻る。
その時。
売り場から。
エラー音。
「はい!今行きます!」
浜谷はメダルゲームへ向かい。
客に頭を下げ。
扉を開ける。
中を確認して。
エラーを解除。
「お待たせしました!」
笑顔。
客は何も言わず。
そのままゲームを再開した。
「…………」
浜谷は一瞬だけ客を見る。
それでも。
「失礼しますねー!」
笑顔のまま離れた。
そしてお客さんに背を向けた瞬間、真顔になった。
誰にも聞こえないくらいの小さな声で。
「なんで大人なのにありがとうを言えないんですか?」