阿佐野店。
朝。
開店前の店内で、浜谷はパソコンの前に座っていた。
近くには古坂と高村。
「そういえば、新しい朝礼動画見た?」
高村が言った。
「まだ見てないです。」
浜谷が返す。
最近ファンステでは、朝礼時間の簡略化のために動画を使った朝礼が導入されていた。
動画を見ながら、基本的な確認事項を全員で確認する。
各エリアの事業部長が担当することが多い。
「じゃあ今日見てみて」
2人はなぜかニヤニヤしている。
「わかりました!」
浜谷はパソコンを操作する。
朝礼動画。
開く。
すると。
画面に大きく文字が表示された。
『栃木事業部長の朝礼とはこういうものだ!』
「…………」
浜谷は開いた口が塞がらなかった。
「なんか始まりましたけど」
古坂が笑う。
「見れば分かるって」
動画が始まる。
画面に一人の男性が映った。
「……あ」
浜谷はすぐに気づいた。
「この人が栃木さんですか?」
「そうそう」
高村が頷く。
以前。
あれだけ阿佐野店のみんなで警戒して。
到着時間まで予想して。
浜谷自身はクレーンゲームを修理している間に来店され。
工具を片付けている間に帰られた。
結局、一度も姿を見ることができなかった事業部長。
浜谷は今日。
朝礼動画で初めてその姿を見た。
「…………」
じっと見る。
そして。
「叔父さんに似てる……」
「誰の?」
古坂が聞く。
「僕の叔父さんです」
「知らないよ!」
高村が笑った。
しかし。
浜谷が本当に耐えられなくなったのは。
その直後だった。
画面が少し引く。
栃木の隣に。
もう一人。
見覚えのある男性が立っていた。
大倉だった。
「…………」
浜谷が止まる。
大倉は栃木の隣で立っている。
いつもの阿佐野店で見る大倉とは少し違う。
妙に真面目な表情。
そして。
どことなく。
恥ずかしそう。
「…………っ」
浜谷が俯く。
「どうしたの?」
古坂が聞く。
「大倉さん……」
「いるね」
「なんで大倉さんいるんですか……!」
「朝礼動画だからじゃない?」
「ダメだ……!」
浜谷が吹き出した。
「ハハハハハ!!」
「何がそんなに面白いの!」
「だって大倉さん、ちょっと恥ずかしそうじゃないですか!」
「ちゃんと見なさいよ!」
高村に言われ。
浜谷は笑いを堪えながら画面を見る。
動画の中で。
栃木が口を開いた。
『おはようございます』
そして。
大倉と共に手に持っていた景品を。
スッ。
持ち上げる。
「…………」
『これより朝礼を始めます』
スッ。
また景品を持ち上げる。
「…………っ」
浜谷の肩が震える。
『まず初めに、服装は大丈夫ですか?』
スッ。
また持ち上げる。
「なんで毎回上げるんですか!!」
浜谷が大爆笑する。
「ハハハハハ!! ちょっと待って!!」
「浜谷くん、朝礼だよ!」
「分かってます!分かってるんですけど!」
栃木が喋る。
景品を持ち上げる。
喋る。
持ち上げる。
確認する。
持ち上げる。
その横では。
大倉が真面目な顔で同じように景品を持ち上げる。
だが浜谷には、どうしても少し恥ずかしそうに見える。
「もう無理ですって!」
浜谷は机に突っ伏した。
古坂までつられて笑い始める。
「浜谷くんが笑うから、こっちまで面白くなってくるじゃん!」
「だって見てくださいよ大倉さん!」
「大倉さんは何もしてないでしょ!」
高村は呆れながらも笑っていた。
画面の中では。
朝礼が粛々と進んでいる。
画面の前では。
朝礼どころではなかった。
浜谷はなんとか顔を上げる。
「ちゃんと見ます……」
『続いて――』
スッ。
景品が上がる。
「ハハハハハ!!」
「全然ダメじゃん!」
結局。
動画が終わる頃には。
浜谷は笑い疲れていた。
「つれぇ……」
「何が?」
「朝礼が……」
「笑いすぎなんだよ」
高村が言う。
古坂も笑う。
以前。
あれほど恐れていた栃木事業部長。
浜谷はついに。
その姿を見ることができた。
ただし。
直接ではない。
パソコンの画面越し。
そして初対面の感想は。
叔父さんに似ている。
その横にいる大倉が面白い。
そして。
なぜか景品を何度も持ち上げる。
浜谷にとって。
栃木事業部長との初対面は。
想像していたものとは。
だいぶ違うものになった。