原町中央店。
午後。
浜谷がメダルコーナーを歩いていると、インカムから声が聞こえた。
『浜谷くん、クレーンゲームコーナーまで来れる?』
高崎だった。
浜谷はインカムを押す。
「はい、向かいます!」
クレーンゲームコーナーへ行くと、高崎が一台の筐体の前に立っていた。
その中には。
新しく入荷した大きなぬいぐるみ。
「どうしました?」
「設定したから、テストプレイやってちょうだい!」
「僕が?」
「よろしく頼む〜!」
「かしこまりこ様!」
浜谷は筐体の前に立つ。
「じゃあ、やりますね」
ボタンを押す。
アームが動く。
狙いを定め。
下降。
景品を掴む。
そして。
上昇。
「…………」
景品は。
動かなかった。
アームだけがスルッと抜けていく。
浜谷。
「持ち上がりませんね」
「おかしいな」
高崎が設定を確認する。
「ちょっとパワー上げてみる」
調整。
「もう一回お願い!」
「はい」
再び浜谷がプレイ。
アームが景品を掴む。
上昇。
「…………」
動かない。
「全然ですね」
「なんで?」
さらに調整。
三回目。
「行きます」
掴む。
上がる。
はずだった。
景品。
微動だにせず。
浜谷は筐体の中を見つめる。
「動かざること……」
「?」
「景品のごとし」
高崎が笑う。
「何それ」
そこへ川原がやってきた。
「何してるんですか?」
浜谷が景品を指差す。
「こいつが動きません」
「景品なんだから普通じゃないですか?」
「そういう意味じゃないです!」
高崎が説明する。
「パワー上げても持ち上がらないんだよね」
「重いんですか?」
「そこまで重くないはずなんだけど」
浜谷がもう一度プレイする。
今度は横から高崎と川原が観察する。
アームが閉じる。
「……あれ?」
浜谷が首を傾げた。
「なんか変じゃないですか?」
「何が?」
「パワーっていうより……」
浜谷はアームをじっと見る。
「ちゃんと力が伝わってないような」
そこへ石村と相馬も通りかかった。
「何してるの?」
相馬が聞く。
川原。
「景品が動かないんです」
石村。
「景品だからね」
浜谷。
「川原さんと同じこと言わないでください!」
「違うの?」
「違います!」
高崎が再び設定を確認する。
「パワーは上げてるんだけどなぁ」
浜谷は筐体の外からアームを見る。
「これ……」
「ん?」
「アームの方がイカれてるんじゃないですか?」
その時。
「ナニしてるの?」
日村が通りかかった。
「日村さん!」
浜谷が即座に呼び止める。
「ちょっとこれ見てもらえます?」
「ドレ?」
「パワー上げても景品が全然持ち上がらなくて」
日村が一度アームを動かす。
そして。
内部を確認。
「あー」
浜谷。
「分かりました?」
「多分コレだね」
日村が工具を取り出す。
少し調整し。
確認。
また少し触る。
「これでやってみて」
「もう!?」
浜谷が再びテストプレイ。
アームが下降する。
景品を掴む。
そして。
グッ。
「あっ!」
今度は。
景品が持ち上がった。
高崎。
「上がった!」
川原。
「すごっ」
相馬も覗き込む。
「何が悪かったの?」
日村が原因を説明する。
浜谷はアームを見ながら頷いた。
「なるほど……そうやって直すんだ!」
「設定じゃなかったネ」
高崎が苦笑する。
「ずっとパワー上げてた」
浜谷。
「危なかったですね。さらに上げ続けなくて」
「ほんとだよ!」
日村が笑う。
「変だと思ったら設定以外も疑わないとネ」
「勉強になります!」
浜谷はもう一度アームを見る。
高崎が聞く。
「じゃあ浜谷くん、もう一回テストお願い!」
「はい!」
再びプレイ。
今度は正常に景品が動く。
「大丈夫そうですね!」
「よし!」
設定完了。
浜谷は筐体を見ながら呟いた。
「動いた……」
川原が笑う。
「もう『動かざること景品のごとし』じゃないですね」
「じゃあ……」
浜谷は少し考える。
「動くこと、景品らしからず」
「景品は動いていいんですよ!」
原因は設定なのか。
それとも機械なのか。
見た目だけでは分からない。
今日も浜谷は。
先輩の技を一つ。
自分の引き出しへと加えたのだった。