原町中央店。
午後。
川原は店内を巡回していた。
クレーンゲームコーナーを抜け、メダルコーナーへ向かおうとした時だった。
ふと、一台のクレーンゲームの前で足が止まった。
取り出し口の近く。
床に何かが落ちている。
「……ん?」
拾い上げる。
100円玉だった。
川原は周囲を見る。
誰もいない。
「落とし物か……」
たった100円。
されど100円。
ゲームセンターにおいて、100円玉には特別な意味がある。
あと一回。
その一回で取れたかもしれない。
その一回で諦めがついたかもしれない。
あるいは。
子どもがお小遣いとして大切に持ってきた100円かもしれない。
「……誰のだろ」
川原は100円玉を握った。
そこへ茂田が通りかかった。
「木乃香ちゃん、どうしたニダ?」
「100円落ちてたんですよ」
「100円?」
川原が手のひらを見せる。
茂田も少し考えた。
「落とした人、もう帰っちゃったかな」
「ですかね……」
「でも落とし物だから預かっておくニダ」
「はい」
その時。
高崎がやってきた。
「何してんの?」
「100円落ちてたんです」
「100円かぁ」
高崎がクレーンゲームを見る。
「もしかしたら、これやろうとして落としたのかもね」
「私もそう思って」
相馬もやってきた。
「どうしたの?」
「100円の落とし物です」
「100円?」
いつの間にか。
100円玉一枚を囲んで、スタッフが集まり始めていた。
日村までやってくる。
「……100円?」
「日村さんまで来た」
川原が笑う。
さらに石村。
「みんな集まってどうしたの?」
「100円落ちてたんですよ」
石村は川原の手のひらを見る。
「100円か」
川原は改めて硬貨を見る。
どこにでもある100円玉。
だけど。
これを落とした誰かにとっては、大切な一枚だったのかもしれない。
「ゲームセンターの100円って、なんか普通の100円と違う感じしますよね」
川原が言った。
高崎が頷く。
「分かる。最後の一回とかね」
「子どもだったら大きいよね」
相馬も言う。
茂田が100円玉を見る。
「この一枚で取れる景品もあるニダ」
「取れなかったとしても」
川原は目の前のクレーンゲームを見る。
「この100円に、いろんな思い込めてたかもしれないですよね」
少しだけ静かになる。
日村が小さく頷いた。
「……うん」
川原は100円玉を握る。
「もし落とした人が戻ってきたら、ちゃんと返してあげたいですね」
「そうだね」
高崎が笑う。
「その100円で、もう一回挑戦したかったかもしれないし」
川原は目の前のクレーンゲームを見る。
大きなぬいぐるみ。
景品はまだ残っている。
もしかしたら。
この景品を狙っていたのかもしれない。
川原は筐体に近づいた。
「この100円に思いを込めてたのかも……」
そして。
料金表示を見た。
『1PLAY 200円』
「…………」
川原が止まった。
茂田も見る。
高崎も見る。
相馬も見る。
石村も見る。
日村も見る。
沈黙。
「……200円じゃん」
高崎が言った。
川原は手のひらの100円玉を見た。
もう一度、料金表示を見る。
100円玉。
料金表示。
100円玉。
料金表示。
「足りない……」
石村が静かに言った。
「もう一枚いるな」
「今までの話なんだったんですか!!」
川原の声が原町中央店に響いた。
茂田が笑う。
「思いだけじゃプレイできなかったニダ!」
この100円に思いを込めて。
そして。
もう100円も忘れずに。