阿佐野店。
昼前。
浜谷がメダルコーナーから事務所へ戻ると、細井が椅子に座りながらスマホを眺めていた。
「浜谷くん」
「はい?」
「中華食べたーい!」
「急ですね」
細井はスマホを置いた。
「チンジャオロースに」
「はい」
「かに玉、春巻き」
「もう二品増えた」
「チャーシュー、八宝菜」
「ちょっと待ってください」
「卵スープに、餃子、ザーサイ」
「細井さん?」
「麻婆茄子は茄子を多めで」
「具材の指定まで入った」
細井は止まらない。
「酢豚にチャーハン、唐揚げにシューマイ」
「まだいくんですか?」
「中華そば、塩焼きそば、台湾まぜそば」
「まだ!?」
「エビチリ、棒棒鶏、ニラ玉」
「多い多い!」
「あんかけチャーハン、あんかけを多めで」
「注文が具体的すぎる!」
「あんまん、ゴマ団子、杏仁豆腐」
そして最後に。
「マンゴープリン!」
「そんなに頼んで食べられますか!?」
ようやく細井が止まった。
「今ならいける!」
「天真爛漫すぎます!」
近くで景品の資料を確認していた古坂が吹き出した。
「何その量」
「今食べたいものです!」
「全部?」
「全部!」
浜谷が呆れたように細井を見る。
「胃袋どうなってるんですか」
「食べたいって言ってるだけで、食べられるとは言ってないよ?」
「開き直った!」
そこへ事務所の扉が開いた。
「お疲れ様ニダ!」
茂田が戻ってきた。
「何の話してるの?」
浜谷が振り返る。
「細井さんが中華食べたいらしいですよ」
「いいじゃん。何食べたいニダ?」
「いっぱいあります!」
細井が答えるより先に、浜谷が口を開いた。
「チンジャオロースに、かに玉、春巻き、チャーシュー、八宝菜、卵スープ、餃子、ザーサイ」
細井が浜谷を見る。
古坂も顔を上げる。
しかし、浜谷は止まらない。
「麻婆茄子は茄子多め、酢豚、チャーハン、唐揚げ、シューマイ、中華そば、塩焼きそば、台湾まぜそば」
「…………」
「エビチリ、棒棒鶏、ニラ玉、あんかけチャーハンはあんかけ多め、あんまん、ゴマ団子、杏仁豆腐」
浜谷は一拍置いた。
「最後にマンゴープリンです」
沈黙。
茂田が目を丸くする。
「……琉くん」
「はい」
「なんで全部覚えてるニダ?」
浜谷自身も固まった。
「……僕も今びっくりしてます」
細井が笑い出した。
「すごっ! 私が言った順番までほぼ一緒じゃん!」
「聞かされた側の身にもなってくださいよ!」
古坂が感心したように浜谷を見る。
「記憶力の使い道、絶対そこじゃないよね」
「僕もそう思います」
茂田が笑う。
「でも中華いいね」
「ですよね!」
細井が身を乗り出す。
「今度みんなで行きません?」
「行くニダ!」
古坂も頷いた。
「私も行きたい」
そして、三人の視線が浜谷へ向いた。
「……僕もですか?」
「全部覚えた責任があるでしょ」
細井が言う。
「何の責任ですか!」
「注文係」
「嫌ですよ!」
「浜谷くんなら何も見なくても注文できるじゃん」
「店員さんにさっきの全部言うんですか!?」
「麻婆茄子は茄子多めでね」
「そこまで再現させるんですか!?」
茂田が笑う。
「じゃあ決まりニダ! 今度四人で中華!」
古坂もスマホを取り出した。
「店探しとくね」
「やった!」
細井が嬉しそうに笑う。
その顔を見て、浜谷も少し笑った。
「まあ……中華は僕も好きですからね」
「じゃあ浜谷くん、何食べたい?」
「そうですね……」
少し考える。
「天津炒飯とか」
「邪道!」
「美味しいんですよ!!」
細井がまた笑う。
茂田も楽しそうに言った。
「みんなで中華かぁ。楽しみニダ!」
「なんちゅうか……」
浜谷が呟く。
三人が見る。
浜谷は細井を見ながら続けた。
「天真爛漫というか、点心爛漫ですね」
沈黙。
細井の笑顔が変わった。
「浜谷くん」
「はい」
「殴るよ?」
「一発だけですよ?」
「安心して。一発で仕留めるから!」
「中華行く前に仕留めないでください!!」