阿佐野店。
クレーンゲームコーナー。
古坂が、一人の男性客に呼び止められていた。
「これ、本当に取れるの?」
「はい。もちろん取れるようにはなってますよ」
「いや、取れるわけなくない?」
男性客は不満そうに筐体を指差す。
「さっきから全然動かないんだけど」
「こちらの景品でしたら――」
古坂が説明しようとする。
しかし。
「結局、お金使わせるだけでしょ?」
「いえ、そういうわけでは――」
「詐欺じゃん!」
男性客の声が大きくなる。
少し離れたところにいた樋口も、その声に気づいていた。
古坂は落ち着いたまま対応を続ける。
「取り方の説明もさせていただきますよ」
「そういう問題じゃないんだよ!」
男性客がアームを見る。
「アーム弱すぎんだろ!」
古坂は黙って話を聞く。
「こんなの景品がかわいそうだろ!」
その瞬間。
古坂の表情が変わった。
ニヤリ。
「じゃあ」
「は?」
「あなたも、景品の気持ちになればいいんじゃないですか?」
「……何言って――」
突然。
男性客の視界が真っ暗になった。
「え?」
何も見えない。
「おい!」
身体も思うように動かない。
「ここ……どこだ?」
しばらくして。
視界が開けた。
目の前に透明な壁。
その向こうには、見覚えのあるクレーンゲームコーナーが広がっている。
「……え?」
男性客は自分の身体を見る。
いや。
見ることすら、まともにできない。
身体が妙に柔らかい。
手足が短い。
そして。
周囲には大量のぬいぐるみ。
「は?」
男性客は。
景品になっていた。
「なんだこれぇぇぇ!!」
もちろん。
外には声が届かない。
そこへ。
古坂と樋口がやってきた。
「じゃあ麗美ちゃん、設定しよっか」
「はい」
二人が筐体を開ける。
「おい!おい!!助けてくれ!!」
男性客は必死に叫ぶ。
古坂は何事もなかったかのように景品を並べる。
樋口も位置を調整していく。
やがて。
設定完了。
「こんな感じですかね?」
「うん。いいと思う」
古坂がテストプレイを始める。
アームが降りる。
男性客のすぐ隣へ。
「うわっ!来るな!」
アームが景品を掴む。
少し持ち上がり。
落ちる。
「うわぁぁぁぁ!」
古坂がその動きを確認する。
「もうちょっとかな」
樋口が調整する。
「これならどうです?」
再びテスト。
「や、やめてくれぇ!」
今度は少しずつ景品が動き。
最後には。
ゴトン。
獲得口へ落ちた。
樋口が頷く。
「ちゃんと取れますね」
「うん。これなら大丈夫」
男性客は呆然としていた。
本当に。
取れる。
少なくとも。
適切に狙って、何度か動かしていけば。
獲得できるようになっている。
古坂が筐体の中を見る。
「ただ……」
男性客を見る。
ニヤリ。
「あー、人気ない景品だね」
「え?」
樋口も覗き込む。
「ですね」
「えっ?」
「どうしよっか」
樋口も笑った。
「捨てちゃいます?」
「えっ!?」
二人が。
ニヤリ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――次の瞬間。
「ね?」
男性客は目を開けた。
そこは。
阿佐野店。
先ほどと同じクレーンゲームの前。
自分の身体を見る。
人間だ。
手もある。
足もある。
古坂が目の前に立っていた。
「取れたでしょ?」
「…………」
男性客は言葉を失う。
古坂はいつもの笑顔に戻った。
「クレーンゲームは、みんなが楽しめるように設定してます」
そして。
少しだけ間を置く。
「少なくとも、ここファンステではね」
「ひっ……!」
男性客は後ずさる。
そして。
そのまま逃げるように店を出ていった。
古坂は何事もなかったように筐体を見る。
そこへ樋口がやってきた。
「古坂さん」
「ん?」
「何したんですか?」
「何が?」
「いや、あのお客さん。急にめちゃくちゃ怯えてましたけど」
古坂は少し考える。
そして。
ニヤリ。
「うーん」
「……?」
「内緒!」
古坂はそのまま歩いていく。
樋口は一人、筐体を見る。
中には。
いつも通りの景品。
何も変わったところはない。
「……何したんだろ」
その答えは。
古坂だけが知っている。
たぶん。
クレーンゲームの景品たちも。
知っている。