ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

22 / 225
口癖大捜査線

茂田の「ニダ」と「おつかれさまぁ〜ず」を数えた翌日。

 

休憩時間。

 

浜谷は昨日のメモ帳を眺めながら笑っていた。

 

「店長、結局『ニダ』五十二回でしたね。」

 

その言葉に高崎が笑う。

 

「でもさ。」

 

「店長だけじゃなくて、みんな口ぐせあるよね?」

 

石村もコーヒーを飲みながら頷く。

 

「言われてみればそうかも。」

 

大沼も興味津々だ。

 

「探してみます?」

 

浜谷はメモ帳を開いた。

 

「じゃあ今日は、みんなの口ぐせを調べてみましょう!」

 

こうして、第二回・口ぐせ調査が始まった。

 

⸻

 

最初のターゲットは石村。

 

インカムから声が聞こえる。

 

「石村、向かいまーす。」

 

浜谷はすぐにメモを書く。

 

「一回。」

 

十分後。

 

「石村、向かいまーす。」

 

「二回。」

 

石村は戻ってきて首をかしげる。

 

「何してるの?」

 

事情を聞くと苦笑いした。

 

「えぇ?そんなに言ってるか?」

 

高崎が即答する。

 

「めっちゃ言ってます。」

 

石村は照れくさそうに笑った。

 

「癖なんだろうな。」

 

⸻

 

続いて山神。

 

「山神さん!」

 

浜谷が呼ぶ。

 

「おぅ。」

 

「これお願いします!」

 

「おぅ。」

 

「ありがとうございました!」

 

「おぅ。」

 

浜谷は笑いをこらえながら書く。

 

「『おぅ』三回。」

 

山神は新聞を読みながら一言。

 

「そんなもんだ。」

 

「おぅ。」

 

「四回です。」

 

事務所が笑いに包まれた。

 

⸻

 

日村は少し難しかった。

 

一時間で聞こえた言葉は、

 

「……了解です。」

 

「……アリガトゴザイマス。」

 

それだけ。

 

高崎が笑う。

 

「ヒムは数えやすいね。」

 

すると日村が静かに言う。

 

「……。」

 

「了解です。」

 

浜谷が笑顔で書く。

 

「三回目。」

 

日村は少しだけ照れくさそうに笑った。

 

⸻

 

高崎はすぐに見つかった。

 

「よろしく頼む〜!」

 

景品補充でも、

 

「よろしく頼む〜!」

 

休憩前も、

 

「よろしく頼む〜!」

 

浜谷が数える。

 

「今日だけで七回です。」

 

「そんなに?」

 

高崎は自分でも驚いていた。

 

⸻

 

藤屋は閉店前。

 

「藤屋、お先、失礼します。」

 

石村が笑う。

 

「毎回ちゃんと名字から言うよね。」

 

藤屋はきょとんとした表情。

 

「そうですか?」

 

「無意識でした。」

 

浜谷はメモする。

 

「これも立派な口ぐせですね。」

 

⸻

 

大沼も負けていない。

 

「大沼、大丈夫です!」

 

クレーン対応。

 

「大沼、大丈夫です!」

 

イベント準備。

 

「大沼、大丈夫です!」

 

浜谷は思わず笑った。

 

「自分の名前まで入ってますね。」

 

「癖ですねぇ。」

 

大沼も照れ笑いする。

 

⸻

 

相馬はというと、

 

「そうだねぇ。」

 

相談を受けても、

 

「そうだねぇ。」

 

お客様対応後も、

 

「そうだねぇ。」

 

石村が笑う。

 

「相馬さんらしいな。」

 

相馬も穏やかに笑った。

 

「そんなに言ってた?」

 

⸻

 

閉店後。

 

事務所に全員が集まる。

 

浜谷がメモ帳を開いた。

 

「それでは結果発表です!」

 

拍手が起こる。

 

「まず店長。」

 

「『ニダ』『おつかれさまぁ〜ず』『シーユーアゲイン』!」

 

茂田は笑いながらガッツポーズ。

 

「三冠ニダ!」

 

「はい、一回。」

 

高崎がすぐに指を差す。

 

事務所は笑いに包まれる。

 

「石村さん。」

 

「『石村、向かいまーす。』」

 

石村は苦笑い。

 

「認めるしかないな。」

 

「山神さん。」

 

「『おぅ。』」

 

「おぅ。」

 

「今ので追加です。」

 

「日村さん。」

 

「『了解です。』『アリガトゴザイマス。』」

 

日村は照れたように頭を下げた。

 

「……アリガトゴザイマス。」

 

「また増えました!」

 

「高崎さん。」

 

「『よろしく頼む〜!』」

 

「よろしく頼む〜。」

 

「はい、追加です。」

 

高崎は大笑い。

 

「もうダメだ(笑)」

 

「藤屋さん。」

 

「『藤屋、お先、失礼します。』」

 

藤屋は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「これからも言います。」

 

「大沼さん。」

 

「『大沼、大丈夫です!』」

 

「大沼、大丈夫です!」

 

「追加です。」

 

最後に相馬。

 

「『そうだねぇ。』」

 

相馬は笑いながら頷く。

 

「そうだねぇ。」

 

「追加です!」

 

浜谷はメモ帳を閉じた。

 

「結論。」

 

「ファンステージは、口ぐせの多い職場でした。」

 

全員が笑う。

 

その時、石村が茂田を見て言った。

 

「でもやっぱり、一番印象に残るのは店長だな。」

 

全員が大きく頷く。

 

茂田は照れ笑いしながら肩をすくめた。

 

「そんなことないニダ。」

 

浜谷はすかさずメモ帳を開く。

 

「はい。」

 

「今日五十三回目です。」

 

一瞬静まり返った事務所。

 

次の瞬間――。

 

「ははははは!」

 

今日もファンステージには、いつもの笑い声が響いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。