原町中央店。
クレーンゲームコーナー。
一台の筐体の前で。
日村と浜谷がしゃがみ込んでいた。
「ここ見て」
「はい」
日村が機械内部を指す。
「この症状だったら、まずここを確認する」
「なるほど」
浜谷が覗き込む。
「じゃあ、この場合の正解はここを見るってことですね」
「まあ……そうだね」
少しして。
別の箇所。
「ここが原因になることもあるから」
「なるほど。じゃあ正解は、こっちの場合もあると」
「うん」
さらに。
「この部品も劣化してくると――」
「じゃあ交換が正解ですね」
「いや、状態による」
「なるほど。じゃあ状態を確認してから判断するのが正解!」
「…………」
日村が浜谷を見る。
「浜谷くん」
「はい?」
「正解、正解ばかり追い求めちゃダメだよ」
浜谷が止まった。
「え?」
日村は機械の中を指した。
「同じエラーでも、原因が同じとは限らないでしょ?」
「はい」
「部品を交換すれば直る時もある。掃除だけで直る時もある。調整だけで済む時もある」
日村が続ける。
「この世に正解があるのは問題集だけ」
「…………」
「メンテナンスに正解はない。ただ、最適解はある」
浜谷は黙って聞いていた。
「今、この機械がどういう状態なのか。どこまで触る必要があるのか。お店としてどうするのが一番いいのか」
「最適解……」
「そう」
日村が笑う。
「学校では正解しか教えてくれないからね」
その言葉が。
浜谷には妙に残った。
浜谷自身。
少し前まで教育実習に行っていた。
学校では。
問題を出す。
答え合わせをする。
正解。
不正解。
けれど。
実際に働いていると。
答えが一つではないことばかりだった。
「……なんか深いですね」
「そう?」
「僕、教育実習行ってたから余計に刺さります」
日村が笑った。
「じゃあ覚えておいて」
「はい!」
そこへ。
川原と高崎がやってきた。
「直りそうですか?」
川原が聞く。
浜谷は立ち上がった。
「川原さん」
「はい?」
「メンテナンスに正解はありません」
「急に何ですか?」
「ただ、最適解はあります」
「日村さんに何か吹き込まれました?」
「教えてもらったんです!」
高崎が笑う。
「影響されるの早いね」
少し離れたところでは。
山神も話を聞いていた。
浜谷が尋ねる。
「山神さんもそう思います?」
「おぅ」
「ですよね!」
「それは正解なんですか?」
川原が聞く。
「……最適解です!」
「便利に使い始めた」
高崎が笑った。
そこへ。
茂田がやってきた。
「何の話ニダ?」
「日村さんに、メンテナンスには正解はなくて最適解があるって教えてもらってたんです」
「ほう」
茂田が頷く。
「深いニダ」
「学校では正解しか教えてくれないって話です」
「なるほど」
茂田は腕を組んだ。
少し考える。
「じゃあ問題ニダ」
「はい」
「私が仕事中にお菓子を食べています」
「はい」
「正解は?」
浜谷は考えた。
「……休憩中なら問題ないです」
「不正解ニダ」
「え?」
「見なかったことにするのが最適解ニダ」
「茂田さん!!」
高崎が吹き出した。
川原も笑う。
日村は首を振る。
「そういう意味じゃないんだけどなぁ」
山神が一言。
「おぅ」
「山神さんまで!」
問題集には。
正解がある。
でも。
ゲームセンターの仕事には。
一つの答えだけでは片づけられないことがある。
それを浜谷は。
機械の前で。
また一つ学んだ。
ただし。
茂田のお菓子を見なかったことにするのが最適解なのかだけは。
まだ分からなかった。