原町中央店。
午後。
カウンターの前で。
男性スタッフ四人が、とあるものを凝視していた。
浜谷、日村、石村、山神。
四人の視線の先にいるのは――。
若い男女のカップルだった。
別に珍しいことではない。
ゲームセンターにはカップルもたくさん来る。
問題は。
その二人が。
カウンターの前で、熱いキスをしていることだった。
「…………」
浜谷はヘラヘラしていた。
日村は顔を赤くしている。
山神はニヤついている。
石村だけが、冷たい視線を送っていた。
「……すごいっすね」
浜谷が言った。
「……うん」
日村の声が、いつも以上に小さい。
「若いなぁ」
山神がニヤニヤしながら言う。
「おぅ」
「いや、ここカウンターの前なんだけど」
石村だけが冷静だった。
四人は黙る。
カップルは離れない。
「長いっすね」
浜谷が言った。
「見るなよ」
石村が言う。
「石村さんも見てるじゃないですか」
「カウンターの前にいるから嫌でも目に入るんだよ」
「確かに」
日村は少し視線を逸らしていた。
「日村さん、顔赤くないですか?」
「……赤くない」
「赤いですよ」
「……暑いだけ」
「今日涼しいですよ」
「…………」
山神が笑う。
「おぅ」
その時だった。
浜谷の表情が変わった。
「……あれ?」
「どうした?」
石村が聞く。
浜谷はカップルをじっと見る。
「いや……」
どこかで見たことがある。
特に男性の方。
浜谷は少し考える。
そして。
思い出した。
「あっ」
「何?」
「あのカップル、うちの大学の学生だ」
三人が浜谷を見る。
「知り合い?」
石村が聞く。
「いや、知り合いではないですけど、キャンパスで見たことあります」
「同じ学年?」
「多分違います。でも何回か見たことありますね」
浜谷は再びカップルを見る。
まだ距離が近い。
「大学では普通に歩いてるのに……」
「そりゃ大学では普通に歩くだろ」
「ゲームセンター来たらこんな感じになるんですね」
「困ったな」
石村の冷静な一言。
そこへ。
「何してるんですか?」
川原がやってきた。
続いて大沼も来る。
「みんなカウンターの前に集まって……」
浜谷は無言でカップルの方を見る。
川原と大沼もつられて見る。
「…………」
「…………」
川原が浜谷を見る。
「何見てんの?」
「僕らが見始めたんじゃないんですよ」
「でも見てるじゃん」
「それは……まあ」
「ヘラヘラしてるし」
「してないです!」
「してたよ」
石村が即答した。
「石村さん!」
大沼が少し困ったように笑う。
「仲良しだね……」
「仲良しの範囲超えてますよ」
浜谷が言う。
「余計なこと言わなくていいの」
石村が止める。
その間も。
二人の世界は続いていた。
川原が呆れたように言う。
「せめてもうちょっと場所選べばいいのに」
「そうなんですよ」
浜谷が頷く。
「しかも同じ大学なんですよ」
「えっ?」
「キャンパスで見たことある」
川原の目が変わった。
「知り合い?」
「いや、顔見たことあるだけ」
「じゃあ他人じゃん」
「多少の縁があるっちゃある」
「大学一緒なだけで?」
「同じ大学で、しかも僕のバイト先に来るって結構な縁じゃないですか?」
川原がカップルを見る。
浜谷を見る。
またカップルを見る。
「……乳繰りあうのも多少の縁ってこと?」
「誰がうまいこと言えと!」
大沼が吹き出した。
山神も笑っている。
「おぅ」
日村はまだ少し顔が赤い。
石村は深いため息をついた。
「とりあえず」
「はい?」
「仕事しよう」
「そうですね」
男性四人は散っていく。
川原と大沼も持ち場へ戻る。
そして浜谷も歩き出した。
その途中。
もう一度だけカップルを見る。
「……大学で会ったら気まずいな」
後ろから石村の声が飛んできた。
「だから見るなって!」