原町中央店。
ゲームセンターには。
今日もいろんなお客さんがやってくる。
その日。
最初に浜谷が出会ったのは。
四人家族だった。
父親。
母親。
兄。
妹。
クレーンゲームの前で。
父親が浜谷を呼び止める。
「これ、全然取れないんだけど」
「確認しますね」
浜谷が台を見る。
特に異常はない。
景品の位置を確認して。
少し手直しする。
「こちらでお願いします」
しかし。
母親が不満そうに言った。
「もっと取りやすくできないの?」
「申し訳ありません。こちらで様子を見ていただければ」
「結構お金使ってるんだけど」
父親も続く。
「普通もっとサービスするでしょ」
「…………」
浜谷が説明している横で。
兄と妹は。
なんとも居心地が悪そうだった。
「もういいじゃん……」
兄が小さく言う。
妹も母親の服を引っ張った。
「やめてよ……」
そこへ石村がやってくる。
「どうされました?」
浜谷と交代するように。
落ち着いて対応に入った。
少し離れた場所まで来て。
川原が浜谷を見る。
「大変そうでしたね」
「子どもたちの方が大人でしたよ……」
二組目。
メダルゲームコーナー。
浜谷が巡回していると。
常連の老夫婦がいた。
「あら、浜谷くん!」
「こんにちは!」
「久しぶりじゃない」
「そうですか?」
おばあさんが笑う。
「最近いないから」
「ああ、阿佐野行ってること多いですからね」
「そうそう」
隣のおじいさんも頷く。
「いないと寂しいよ」
「そんなこと言っても何も出ませんよ?」
「メダル出してよ」
「それは無理です!」
三人で笑う。
「でも、また来てね」
浜谷は少しだけ嬉しくなった。
「はい。原町の人間なんで」
三組目。
またメダルゲーム。
浜谷が歩いていると。
見覚えのある男性がいた。
「…………」
以前。
理不尽なことで浜谷に怒鳴ったことのある客。
向こうは。
普通にメダルゲームをしている。
浜谷は思わずいつもの笑顔を忘れて、無言で通過した。
そこへ相馬が来る。
「浜谷くん、どうしたの?」
「いえ」
一度だけ振り返る。
「……何でもないです」
忘れてはいない。
忘れてはやらない。
四組目。
クレーンゲーム。
「すみませーん!」
明るい声に浜谷が振り返る。
若い女性が二人。
一人は日焼けした肌。
もう一人は色白。
二人ともかなり露出の多い服装だった。
「これ、直してもらえます?」
「はい!」
浜谷が向かう。
「どの景品ですか?」
「これー」
「分かりました」
浜谷は景品を直す。
「こちらでどうぞ!」
「ありがとー!」
「ありがとうございます!」
浜谷が離れる。
少し先に。
山神がいた。
「…………」
「山神さん」
「おぅ」
「何も言ってませんよ」
「おぅ」
「……見てました?」
「おぅ」
山神は笑っている。
「僕もです!」
五組目。
男子中学生が三人。
プリっとプリンセスの景品が入った台の前にいた。
「カヲリじゃなくてアツコ欲しいんだけど」
「店員呼べば?」
「いや、無理だろ」
「なんで?」
「恥ずいじゃん」
少し離れたところで。
川原がその会話を聞いていた。
プリっとプリンセス好きとしては。
聞き逃せない。
浜谷がやってくる。
「どうしたんです?」
川原が小声で事情を話す。
浜谷は三人を見る。
なるほど。
浜谷は台へ向かい。
景品を確認するふりをして。
アツコの景品を前に出した。
「こちら、アツコ前に出しておきました。よかったら遊んでみてください」
「あ……ありがとうございます」
浜谷はそのまま離れる。
中学生たちは。
すぐにゲームを始めた。
川原が笑う。
「優しいですね」
「店員として当たり前ですよ!」
「思春期ですからね」
「プリっとプリンセスに年齢制限はないですから」
「というか、川原さん気づいたなら自分で行けばよかったのに」
そして。
十三人目。
「おーい」
聞き覚えのある声。
浜谷が振り返る。
「長北!」
長北長介が立っていた。
「来たぞ」
「お前、原町来るの初めてじゃね?」
「そう」
「阿佐野には来たことあるのに!?」
「順番が逆になったな」
そこへ川原がやってくる。
「浜谷さんの知り合いですか?」
「はい、大学の友達です」
長北が軽く頭を下げる。
「長北です」
「川原です」
「浜谷さんと同い年で、ファンステでは後輩です」
「余計な説明しないでください」
川原が笑う。
「合ってるじゃないですか」
カウンターでは。
茂田がその様子を見ていた。
近くには日村。
少し離れたところには石村。
メダルコーナーには相馬。
山神の。
「おぅ」
という声も聞こえる。
家族で来る人。
いつものように遊びに来る人。
ちょっと苦手な人。
華やかな人。
好きなものを素直に言えない人。
そして。
浜谷を知っている人。
ゲームセンターには。
いろんな人がやってくる。
今日。
原町中央店を訪れた。
十三人のお客さん。
明日になれば。
また違う誰かが。
この場所の扉を開ける。