ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

224 / 268
13人のお客!?

原町中央店。

 

ゲームセンターには。

 

今日もいろんなお客さんがやってくる。

 

その日。

 

最初に浜谷が出会ったのは。

 

四人家族だった。

 

父親。

 

母親。

 

兄。

 

妹。

 

クレーンゲームの前で。

 

父親が浜谷を呼び止める。

 

「これ、全然取れないんだけど」

 

「確認しますね」

 

浜谷が台を見る。

 

特に異常はない。

 

景品の位置を確認して。

 

少し手直しする。

 

「こちらでお願いします」

 

しかし。

 

母親が不満そうに言った。

 

「もっと取りやすくできないの?」

 

「申し訳ありません。こちらで様子を見ていただければ」

 

「結構お金使ってるんだけど」

 

父親も続く。

 

「普通もっとサービスするでしょ」

 

「…………」

 

浜谷が説明している横で。

 

兄と妹は。

 

なんとも居心地が悪そうだった。

 

「もういいじゃん……」

 

兄が小さく言う。

 

妹も母親の服を引っ張った。

 

「やめてよ……」

 

そこへ石村がやってくる。

 

「どうされました?」

 

浜谷と交代するように。

 

落ち着いて対応に入った。

 

少し離れた場所まで来て。

 

川原が浜谷を見る。

 

「大変そうでしたね」

 

「子どもたちの方が大人でしたよ……」

 

二組目。

 

メダルゲームコーナー。

 

浜谷が巡回していると。

 

常連の老夫婦がいた。

 

「あら、浜谷くん!」

 

「こんにちは!」

 

「久しぶりじゃない」

 

「そうですか?」

 

おばあさんが笑う。

 

「最近いないから」

 

「ああ、阿佐野行ってること多いですからね」

 

「そうそう」

 

隣のおじいさんも頷く。

 

「いないと寂しいよ」

 

「そんなこと言っても何も出ませんよ?」

 

「メダル出してよ」

 

「それは無理です!」

 

三人で笑う。

 

「でも、また来てね」

 

浜谷は少しだけ嬉しくなった。

 

「はい。原町の人間なんで」

 

三組目。

 

またメダルゲーム。

 

浜谷が歩いていると。

 

見覚えのある男性がいた。

 

「…………」

 

以前。

 

理不尽なことで浜谷に怒鳴ったことのある客。

 

向こうは。

 

普通にメダルゲームをしている。

 

浜谷は思わずいつもの笑顔を忘れて、無言で通過した。

 

そこへ相馬が来る。

 

「浜谷くん、どうしたの?」

 

「いえ」

 

一度だけ振り返る。

 

「……何でもないです」

 

忘れてはいない。

 

忘れてはやらない。

 

四組目。

 

クレーンゲーム。

 

「すみませーん!」

 

明るい声に浜谷が振り返る。

 

若い女性が二人。

 

一人は日焼けした肌。

 

もう一人は色白。

 

二人ともかなり露出の多い服装だった。

 

「これ、直してもらえます?」

 

「はい!」

 

浜谷が向かう。

 

「どの景品ですか?」

 

「これー」

 

「分かりました」

 

浜谷は景品を直す。

 

「こちらでどうぞ!」

 

「ありがとー!」

 

「ありがとうございます!」

 

浜谷が離れる。

 

少し先に。

 

山神がいた。

 

「…………」

 

「山神さん」

 

「おぅ」

 

「何も言ってませんよ」

 

「おぅ」

 

「……見てました?」

 

「おぅ」

 

山神は笑っている。

 

「僕もです!」

 

五組目。

 

男子中学生が三人。

 

プリっとプリンセスの景品が入った台の前にいた。

 

「カヲリじゃなくてアツコ欲しいんだけど」

 

「店員呼べば?」

 

「いや、無理だろ」

 

「なんで?」

 

「恥ずいじゃん」

 

少し離れたところで。

 

川原がその会話を聞いていた。

 

プリっとプリンセス好きとしては。

 

聞き逃せない。

 

浜谷がやってくる。

 

「どうしたんです?」

 

川原が小声で事情を話す。

 

浜谷は三人を見る。

 

なるほど。

 

浜谷は台へ向かい。

 

景品を確認するふりをして。

 

アツコの景品を前に出した。

 

「こちら、アツコ前に出しておきました。よかったら遊んでみてください」

 

「あ……ありがとうございます」

 

浜谷はそのまま離れる。

 

中学生たちは。

 

すぐにゲームを始めた。

 

川原が笑う。

 

「優しいですね」

 

「店員として当たり前ですよ!」

 

「思春期ですからね」

 

「プリっとプリンセスに年齢制限はないですから」

 

「というか、川原さん気づいたなら自分で行けばよかったのに」

 

そして。

 

十三人目。

 

「おーい」

 

聞き覚えのある声。

 

浜谷が振り返る。

 

「長北!」

 

長北長介が立っていた。

 

「来たぞ」

 

「お前、原町来るの初めてじゃね?」

 

「そう」

 

「阿佐野には来たことあるのに!?」

 

「順番が逆になったな」

 

そこへ川原がやってくる。

 

「浜谷さんの知り合いですか?」

 

「はい、大学の友達です」

 

長北が軽く頭を下げる。

 

「長北です」

 

「川原です」

 

「浜谷さんと同い年で、ファンステでは後輩です」

 

「余計な説明しないでください」

 

川原が笑う。

 

「合ってるじゃないですか」

 

カウンターでは。

 

茂田がその様子を見ていた。

 

近くには日村。

 

少し離れたところには石村。

 

メダルコーナーには相馬。

 

山神の。

 

「おぅ」

 

という声も聞こえる。

 

家族で来る人。

 

いつものように遊びに来る人。

 

ちょっと苦手な人。

 

華やかな人。

 

好きなものを素直に言えない人。

 

そして。

 

浜谷を知っている人。

 

ゲームセンターには。

 

いろんな人がやってくる。

 

今日。

 

原町中央店を訪れた。

 

十三人のお客さん。

 

明日になれば。

 

また違う誰かが。

 

この場所の扉を開ける。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。