原町中央店。
昼。
「おはようございます」
日村が出勤した。
事務所で準備を済ませ、店内へ出る。
いつものようにメダルゲームコーナーへ向かおうとして。
足が止まった。
「……ん?」
一台のメダルゲーム。
その前に。
大沼がいた。
しかも。
右手にはドライバー。
「……」
日村は少し離れた場所から、その様子を見る。
大沼は筐体の扉を開けていた。
中を覗く。
ドライバーを持つ。
何かを確認する。
また中を見る。
「……どれだ?」
明らかに苦戦している。
日村が近づいた。
「大沼さん」
「うわっ!」
大沼が振り返る。
「日村さん!」
「何してるの?」
「これです」
大沼は筐体を指差した。
「さっきからエラー出てて」
「見てたの?」
「はい。私にもできるかなと思って」
日村は筐体の前にしゃがんだ。
「どんなエラー?」
「メダルがうまく通ってないみたいで」
「なるほど」
大沼も隣にしゃがむ。
「ここかなと思ったんですけど」
「うん」
日村は内部を見る。
「惜しい」
「惜しい?」
「見るところは合ってるよ」
「おお!」
大沼の顔が明るくなる。
「じゃあ、ここ?」
「その前に」
日村が指差す。
「こっち確認してみて」
「こっち?」
「そう」
大沼が覗き込む。
「あ」
何かに気づいた。
「これですか?」
「多分」
メダルの通り道。
そこに小さな詰まりがあった。
「これ取ればいいんですか?」
「取ってみようか」
「はい」
大沼が慎重に作業する。
日村は隣で見ている。
少しして。
「取れた!」
「じゃあ動かしてみよう」
筐体を戻す。
確認。
メダルが流れる。
エラーは出ない。
「直った!」
大沼が笑った。
「やった!」
「よかったね」
「私、直しました!」
「ほとんど大沼さんがやったね」
その声を聞いて。
「何が直ったんですか?」
川原がやってきた。
「これ!」
大沼が嬉しそうに筐体を指差す。
「私が直した!」
「えっ、大沼さんが?」
「日村さんに教えてもらったけどね」
日村が笑う。
「見るところは大体合ってたよ」
「すごい!」
川原も筐体の中を覗く。
「何が原因だったんですか?」
「ここに詰まってたの」
「へぇ……」
最近。
川原もメンテナンスに少し興味を持ち始めていた。
「私も覚えたいです」
「じゃあ次やってみる?」
日村が言う。
「はい!」
そこへ。
「何してるの?」
藤屋もやってきた。
さらに。
「集まって何してるの?」
相馬まで。
気づけば五人。
一台のメダルゲームを囲んでいた。
大沼が胸を張る。
「私が直しました!」
「大沼さんが?」
藤屋が驚く。
「すごいじゃん」
相馬も笑う。
「メンテナンスできるようになったの?」
「今日、一個できるようになりました!」
「一個なんだ」
「一個ずつですよ!」
日村が頷く。
「それでいいんじゃない?」
「ですよね!」
大沼は満足そうだった。
川原が日村を見る。
「日村さんって、こういうのどうやって覚えたんですか?」
「やって覚えたのが多いかな」
「最初から分かったわけじゃないんですか?」
「分かるわけないよ」
日村は笑った。
「機械によって違うし、同じエラーでも原因が違うこともあるから」
「難しいですね……」
「だから一個ずつ」
日村はさっき大沼が直した筐体を見る。
「どこがおかしいのか見て、分からなかったら知ってる人に聞く」
大沼が頷く。
「私も最初、全然分かんなかったです」
「さっきまででしょ?」
藤屋が言う。
「そうですけど!」
笑い声が起きる。
相馬がドライバーを見る。
「じゃあ私も覚えようかな」
「相馬さんも?」
川原が振り返る。
「できる人が多い方がいいでしょ?」
「確かに」
藤屋も言う。
「じゃあ私も?」
日村が四人を見る。
「急に増えたね」
「日村先生ですね!」
大沼が言った。
「先生ではないよ」
「メンテナンス教室!」
「そんな大げさなものじゃないって」
日村は苦笑する。
その時。
別のメダルゲームから。
ピピピッ。
エラー音。
五人が一斉に振り返った。
「……」
大沼が日村を見る。
川原も見る。
相馬も。
藤屋も。
「日村先生」
「だから先生じゃないって」
「次の授業です!」
大沼がドライバーを持ち直した。
日村は笑った。
「じゃあ行ってみようか」
「はい!」
大沼と川原がついていく。
相馬と藤屋も、その後ろへ。
少し前まで。
メンテナンスといえば。
詳しい誰かに任せる仕事だった。
けれど。
一つ覚えれば。
次は自分でできるかもしれない。
分からなければ。
また誰かに聞けばいい。
そうやって。
知っている人から。
これから覚える人へ。
今日も原町中央店では。
メンテナンスの知識が。
少しずつ、つつがなく。
受け継がれていくのであった。