阿佐野店。
午後。
浜谷はメダルゲームコーナーを巡回していた。
メダルゲームの状態を確認しながら、通路を歩いていく。
その時だった。
「……ん?」
浜谷の足が止まる。
メダルゲームで遊んでいる親子。
その二人の間に。
袋が置かれていた。
問題は、その中身だった。
「……メダル?」
透明な袋の中に、大量のメダルが入っている。
ファンステージでは、店舗のメダルを店外へ持ち出すことは禁止されている。
当然、外から持ち込むことも禁止。
つまり。
もしあれがファンステージのメダルで、店外から持ち込まれたものなら。
明確なルール違反である。
浜谷はその場では何も言わず、親子の横を通り過ぎた。
そしてカウンターへ。
「樋口さん」
「どうしたの?」
「ちょっと確認してほしいんですけど」
浜谷は声を落とす。
「あそこで遊んでる親子いるじゃないですか」
「うん」
「二人の間に袋が置いてあって。その中にメダルが入ってるんですよ」
樋口の表情が少し変わった。
「袋に?」
「はい。結構入ってます」
樋口も遠目から確認する。
「……ほんとだ、中身は見えないね」
「持ち込みですかね?」
「まだ分かんないね」
樋口は少し考えた。
「一応、高村さんと古坂さんにも共有しておいて」
「わかりました」
浜谷は頷いた。
だが。
まだ証拠はない。
袋に入っている。
それだけだ。
浜谷は再びメダルゲームコーナーへ向かった。
もちろん。
露骨に見に行くわけにはいかない。
あくまで。
巡回。
いつも通り。
何も知らない店員として。
親子の近くを通る。
そして。
横目で確認する。
「…………」
浜谷の目が細くなった。
先ほどまで二人の間に置かれていた袋。
それが。
今度は。
子どものお尻の下に敷かれていた。
「…………」
そのまま通り過ぎる。
少し離れてから。
浜谷は心の中で呟いた。
(これ隠してるやん……確信犯やん……)
再びカウンターへ。
今度は古坂と高村にも共有する。
「さっき見えてた袋、今は子どものお尻の下に隠してます」
「え?」
古坂がメダルコーナーを見る。
樋口も頷く。
「さっきは普通に見えてたんだよ」
高村が親子の方を確認した。
「うーん……」
「どうします?」
浜谷が聞く。
「実際にそのメダルを入れるところを見ないと、声かけられないね」
「ですよね」
袋にメダルが入っている。
隠したようにも見える。
しかし。
それだけで決めつけるわけにはいかない。
ならば。
見るしかない。
ここから。
古坂、樋口、浜谷。
三人による。
静かな張り込みが始まった。
浜谷が巡回する。
親子の横を通る。
チラッ。
何もない。
古坂がメダルコーナーへ向かう。
別の台を確認するふりをしながら。
チラッ。
動きなし。
樋口もクレーンゲームの設定の合間に様子を見る。
チラッ。
まだだ。
「……刑事ドラマみたいになってきましたね」
浜谷が小声で言う。
「遊んでないでちゃんと見て」
古坂が返す。
「めちゃくちゃ真剣ですよ!」
しかし。
ここは警察署ではない。
ゲームセンターである。
「すみませーん!」
クレーンゲームコーナーから呼ばれる。
「はい!」
浜谷が向かう。
しばらくして戻ってくる。
親子を見る。
まだいる。
今度は古坂が別のお客さんに呼ばれた。
樋口もカウンター対応へ。
張り込みだけをしているわけにはいかない。
それぞれに。
本来の仕事がある。
その隙だった。
「あっ」
浜谷がメダルゲームコーナーを見る。
親子が立ち上がっていた。
「帰る?」
樋口も気づく。
親子はそのまま出口へ向かっていく。
浜谷は袋を確認しようとする。
だが。
分からない。
そして。
そのまま。
親子は店を出ていった。
「…………」
三人が沈黙する。
少しして。
浜谷が戻ってきた。
「結局、決定的瞬間は抑えられませんでした」
「悔しいね」
古坂が言う。
樋口は親子が出ていった方向を見ながら答えた。
「でも、顔は覚えたから。次来たらマークしないと」
「ですね」
浜谷は頷く。
そして。
静かに拳を握りしめた。
事件は。
まだ終わっていない。
証拠は掴めなかった。
決定的瞬間も見られなかった。
だが。
三人の脳裏には。
あの親子の顔がしっかりと刻まれていた。
次に来た時こそ。
その瞬間を。
見逃さない。