阿佐野店。
休憩室。
浜谷はスマートフォンを眺めていた。
「へえ……」
画面に表示されているのは。
ある島を紹介する特集記事。
通称。
『生まれ変わりの島』
昔。
ある大罪を犯した男が。
島流しにされた。
辿り着いたのは。
本土から遠く離れた小さな島。
無人島だと思われていたその場所には。
わずかながら人が暮らしていた。
しかし。
本土との交流はほとんどない。
電話も。
メールも。
当然ない時代。
島民たちは言葉も十分に話すことができず。
火の起こし方すら知らなかった。
捕った魚を生のまま食べ。
腹を壊す者も後を絶たなかったという。
それを見かねたのが。
島流しにされた男だった。
男は。
火の起こし方を教えた。
魚の調理方法を教えた。
言葉を教えた。
自分が知っていることを。
一つずつ。
島の人々へ伝えていった。
そして。
男は島を離れず、死ぬまで。
島民とともに暮らしたという。
後に。
島の山頂には。
男の記念碑が建てられた。
罪を犯した過去が消えるわけではない。
それでも。
島で生きた男は。
かつてとは違う人生を歩んだ。
いつしかその島は。
『生まれ変わりの島』
そう呼ばれるようになった。
現在では観光地として整備され。
日常に疲れた人。
辛い経験をした人。
もう一度前を向きたい人。
そんな人たちが訪れる。
小さなリゾート地になっているという。
「生まれ変わるなら、なんだろうな……」
浜谷が呟く。
「何見てるの?」
「うわっ」
振り返る。
高村だった。
「高村さん」
「生まれ変わるとか聞こえたけど」
「これですよ」
浜谷がスマートフォンを見せる。
高村が隣から画面を覗く。
「生まれ変わりの島?」
「面白くないですか?」
浜谷が簡単に島の歴史を説明する。
高村は静かに聞いていた。
「大罪人だった人が、最後は島の人たちに慕われて記念碑まで建てられたらしいです」
「へえ……」
「過去だけ見たら、そんな未来になるなんて誰も思わないですよね」
浜谷は画面を眺める。
「僕だったら、生まれ変わるなら何になるんだろうなって」
「別の人になりたいの?」
「いや……」
浜谷が考える。
「そういうわけじゃないですけど」
高村が記事を少し読み進めた。
そして。
「別に、別の人になる必要ないんじゃない?」
「え?」
「この人だって、別人になったわけじゃないでしょ?」
浜谷が黙る。
「罪を犯した人が、島で人にいろんなことを教えた。同じ人なんだよね?」
「そうですね」
「だったら、生まれ変わるって別の何かになることじゃないんじゃない?」
高村はそう言って。
浜谷へスマートフォンを返した。
「同じ自分のままでも、変わることはできるでしょ」
「…………」
浜谷はもう一度。
記事の中にある島の写真を見る。
青い海。
緑に囲まれた山。
その頂上には。
小さな記念碑。
「なんか高村さん、いいこと言いますね」
「なんかって何よ」
「いや、なんか」
「失礼だなぁ」
高村が笑う。
浜谷も笑った。
少しして。
浜谷が聞いた。
「高村さんは、生まれ変わったら何になりたいですか?」
「私?」
高村は少し考えた。
「そうだなぁ……」
しばらくして。
笑った。
「また阿佐野店で働きたいかな」
「え?」
浜谷には。
少し意外な答えだった。
「茂田さんとか、大澤さんとか、矢水さんとか。みんなで」
「またゲームセンターですか?」
「うん」
高村は笑っていた。
「生まれ変わっても、またみんなと働けたらいいな」
浜谷は何も言わず。
高村を見た。
高村には。
自分と同じくらいの年齢の子どもがいる。
それを浜谷は知っている。
自分が生きてきた時間と同じくらいの年月を。
高村は親としても過ごしてきた。
仕事だけではない。
きっと浜谷の知らない出来事も。
楽しかったことも。
大変だったことも。
たくさんあったはずだった。
それでも。
もう一度同じ人生を歩めるのなら。
また。
ここに来たいと言う。
「……いいですね」
浜谷が言った。
「でしょ?」
「じゃあ僕も入れてくださいよ」
「浜谷くんは原町中央店でしょ?」
「応援で来ますよ!」
「生まれ変わっても応援なの?」
「そこはいいんですよ!」
高村が笑った。
浜谷も笑う。
「でも、行ってみたいですね。この島」
「辛いことがあった時?」
「いや」
浜谷がスマートフォンを見る。
「普通に観光で」
「生まれ変わる気ないじゃん」
「リゾートですよ!?楽しんだっていいでしょう!」
また。
二人が笑った。
生まれ変わる。
それは。
別の誰かになることだけではないのかもしれない。
同じ人生を選びたいと思えることも。
また同じ人たちと出会いたいと思えることも。
一つの答えなのかもしれない。