土曜日。
午後一時。
店内が少し落ち着き始めた頃だった。
突然、茂田が手を叩いた。
「みんなー!」
「スマイルタイムニダ!」
浜谷は景品補充の手を止める。
「スマイルタイム?」
石村が笑いながら説明した。
「うちの事業部では毎週土曜日と日曜日の午後一時に、スタッフの笑顔の写真を事業部のグループチャットへ投稿する決まりなんだ。」
「笑顔の写真ですか。」
「そう。」
「店の雰囲気も伝わるし、みんなの様子も分かるからな。」
浜谷は初めて聞く取り組みに少し驚いた。
「じゃあ並ぶニダ!」
茂田の一声でスタッフが集まる。
山神は腕を組みながら少し照れくさそうに立つ。
石村は眼鏡を整え、
「笑えばいいんだろ?」
と苦笑い。
高崎は最初から満面の笑み。
藤屋は少し恥ずかしそうに石村の後ろへ。
相馬はいつもの優しい笑顔。
武藤はみんなを見ながら穏やかに微笑んでいる。
そして日村だけは真顔だった。
「ヒム!」
「笑うニダ!」
日村は少しだけ口角を上げる。
「……。」
高崎が吹き出した。
「それ笑ってる?」
石村も笑う。
「日村さなりの満面の笑みだ。」
その一言で全員が笑い出した。
カシャッ。
茂田がガッツポーズをする。
「今のニダ!」
「自然な笑顔が撮れたニダ!」
画面には、笑い合うスタッフ全員が写っていた。
「これを送信っと。」
ピコン。
原町中央店の写真が事業部のグループチャットへ投稿された。
⸻
休憩時間。
浜谷は興味津々で茂田のスマートフォンをのぞき込む。
「他のお店も投稿するんですよね?」
「もちろんニダ。」
ちょうどその時だった。
ピコン。
一枚目の写真が届く。
別の店舗のスタッフたちが、景品コーナーで笑顔を見せていた。
「もう来た。」
高崎が画面をのぞく。
続けて、
ピコン。
ピコン。
次々と写真が届いていく。
ある店舗はスタッフ全員でピース。
ある店舗はメダルコーナーを背景に並んでいる。
ある店舗は店長らしき人物を真ん中にして肩を組んでいた。
浜谷は画面をスクロールしながら言う。
「こんなに店舗があるんですね。」
石村が頷く。
「普段会うことはほとんどないけど、みんな同じ事業部の仲間なんだ。」
武藤も微笑んだ。
「写真だけでも、お店の雰囲気って伝わるよね。」
相馬も頷く。
「笑顔にも、そのお店らしさがあるんだよ。」
浜谷は何枚も写真を眺めた。
どの店舗も笑顔だった。
仕事中なのに、どこか楽しそうだった。
そして最後に、自分たちの写真をもう一度開く。
そこには、いつも一緒に働く仲間たちが自然な笑顔で写っていた。
(この写真も。)
(どこかのお店の人たちが見てるんだ。)
そう思うと、不思議と誇らしい気持ちになった。
⸻
営業終了後。
ロッカーで着替えながら浜谷が言う。
「今日、スマイルタイムが少し好きになりました。」
石村が笑う。
「最初は面倒だと思ってたけどな。」
「今じゃ土日の恒例だ。」
武藤も頷く。
「笑顔って、自分だけじゃなくて周りも元気にするからね。」
茂田はスマートフォンをしまいながら満足そうに笑う。
「来週もいい写真を撮るニダ!」
山神が静かに言う。
「おぅ。」
「笑顔が一番だ。」
浜谷は今日撮った写真をもう一度見返した。
ゲームセンターには、たくさんのゲームがある。
たくさんのお客様が来る。
そして、その裏にはたくさんのスタッフの笑顔がある。
そんな当たり前のことを、今日初めて知った気がした。