ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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かきあげた髪は夜の匂い

阿佐野店。

 

午後。

 

特に何もない。

 

カウンターでは。

 

高村、古坂、細井の三人が談笑していた。

 

「今日、平和ですね」

 

「平和だね」

 

「こういう日もいいよね」

 

その時。

 

古坂がクレーンゲームコーナーを見た。

 

「あれ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「浜谷くん」

 

三人が見る。

 

浜谷が女性客と話していた。

 

金髪。

 

長い髪。

 

派手な服装。

 

いかにもギャルといった雰囲気の女性。

 

それだけなら。

 

別に珍しくない。

 

「……距離近くない?」

 

高村が言った。

 

女性が笑いながら浜谷の肩に手を置く。

 

浜谷も普通に話している。

 

「近いですね」

 

細井が目を細める。

 

「知り合いかな?」

 

古坂が言った。

 

今度は女性が浜谷の腕を軽く叩いた。

 

「馴れ馴れしいね」

 

「ちょっと聞いてみます?」

 

三人は。

 

さりげなく。

 

クレーンゲームコーナーへ近づいた。

 

もちろん。

 

仕事をしているふりをしながら。

 

女性の声が聞こえる。

 

「はまちゃん!」

 

三人が止まった。

 

(はまちゃん!?)

 

高村と古坂と細井が顔を見合わせる。

 

さらに。

 

「私さぁ……好き……だよ」

 

(好き!?)

 

三人の目が見開く。

 

「今晩……行って……もいい?」

 

(はぁ!?)

 

細井が思わず浜谷を見る。

 

浜谷は。

 

普通に笑っている。

 

そこへ大澤と矢水がやってきた。

 

「何してるの?」

 

「静かに」

 

高村が二人を呼ぶ。

 

「浜谷くん、彼女いるかもしれない」

 

「えっ?」

 

二人も加わった。

 

五人でこそこそと様子を見る。

 

「意外ですね」

 

矢水が呟く。

 

「浜谷さん、ああいう人がタイプなんだ」

 

大澤も女性を見る。

 

「ギャルかぁ」

 

古坂が腕を組む。

 

「分からないものだね」

 

細井は無言。

 

五人は腕を組み、目を閉じた。

 

その時。

 

「……あのー」

 

背後から声がした。

 

五人が振り返る。

 

浜谷。

 

そして。

 

金髪の女性。

 

「さっきからなんですか?」

 

「えっ」

 

高村が固まる。

 

「なんかずっとこそこそとしてましたけど、丸見えでしたよ」

 

女性は楽しそうに五人を見ている。

 

高村が観念した。

 

「その方って……浜谷くんの彼女さん?」

 

「はい?」

 

浜谷が首を傾げる。

 

「誰がですか?」

 

「その隣にいる女性」

 

古坂が指す。

 

「えぇ…と」

 

浜谷が女性を見る。

 

五人が息を呑む。

 

「違いますよ?」

 

「えっ!?」

 

全員の声が揃った。

 

「僕がよく行くバーで働いてる人です」

 

「そうそう」

 

女性が笑う。

 

「今日は遊びに来ただけ」

 

「じゃあ、さっきの会話は?」

 

細井が聞く。

 

「さっき?」

 

「好きとか、今晩行ってもいいとか……」

 

浜谷が考える。

 

「ああ!」

 

女性も笑った。

 

「私、お茶カワ好きなんだよね」

 

「……お茶カワ?」

 

「はい」

 

浜谷が頷く。

 

「それでこの景品見てたんですよ」

 

私さぁ、(お茶カワ)好き(なん)だよ(ね)

 

「じゃあ今晩って?」

 

「今日僕、夜そのバー行くんですよ」

 

女性が続ける。

 

「だから、今晩コンビニ行っておつまみ買ってきてもらってもいい?って頼んでたの」

 

「…………」

 

今晩(コンビニ)行って(おつまみをかってきてもらって)もいい?

 

五人が黙った。

 

聞こえた部分だけ。

 

綺麗に。

 

全部。

 

誤解していた。

 

「あっ」

 

大澤が声を上げる。

 

「でも、はまちゃんは?」

 

細井も気づいた。

 

「確かに!はまちゃんって呼んでましたよね」

 

浜谷の顔が。

 

一気に赤くなった。

 

「それは……!」

 

女性がニヤニヤする。

 

「はまちゃん?」

 

「やめてください!」

 

「はまちゃんは、はまちゃんでしょ?」

 

「それはあだ名ですよ!」

 

「可愛いじゃん」

 

女性が浜谷の腕に絡みついた。

 

「ね、はまちゃん」

 

「ちょっ……!」

 

その瞬間。

 

「やめてください!!」

 

細井の声が響いた。

 

全員が細井を見る。

 

「仕事中です!!」

 

「そこ!?」

 

浜谷が叫んだ。

 

女性は大笑い。

 

高村も。

 

古坂も。

 

大澤も。

 

矢水も。

 

つられて笑った。

 

「もう勘弁してくださいよ……」

 

真っ赤な顔で浜谷が俯く。

 

長い金髪をかきあげながら。

 

女性は楽しそうに笑っている。

 

確かに。

 

夜の店で働くその人からは。

 

ファンステでは嗅ぐことのない、どこか夜の匂いを漂わせていた。

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