阿佐野店。
クレーンゲームコーナー。
浜谷は少し離れたところから、一台のクレーンゲームを見ていた。
景品は。
人気漫画、お茶カワのグッズ。
その台をプレイしているのは。
浜谷と同じくらいの年齢に見える女性客だった。
「…………」
浜谷が見る。
女性客がボタンを押す。
アームが動く。
景品を掴む。
少し動く。
落ちる。
「…………」
浜谷が見る。
もう一度。
女性客が挑戦する。
「浜谷くん」
後ろから声がした。
「はい?」
振り返ると。
細井がいた。
「また女性のお客さんに見惚れてない?」
「見惚れてないです!」
浜谷は即答した。
そして。
もう一度、女性客を見る。
「……ちょっと可愛いだけ……」
「見惚れてるじゃん」
「違います!」
「何が違うの?」
「見てるだけです!」
「それを見惚れてるって言うんじゃない?」
「違いますって!」
細井が笑う。
その時だった。
入口から。
一人の男性客が入ってきた。
「…………」
浜谷と細井が。
同時に見る。
スキンヘッド。
サングラス。
首元には。
金のネックレス。
上下、半袖のジャージ。
そして。
強面。
男性客は無言のまま。
クレーンゲームコーナーへ歩いてくる。
細井が小さな声で。
「うわぁ、怖い……」
「細井さん」
「何?」
「大丈夫ですよ!」
浜谷が胸を張る。
「なんかあったら僕がビシッと言いますから!」
細井が浜谷を見る。
「…………」
「なんですか?」
「口だけでは頼りにならない……」
「なんでですか!」
「本当に何かあったら浜谷くん逃げそう」
「逃げませんよ!」
「ほんとに?」
「たぶん!」
「ほら!」
そんなことを話していると。
「あのー、すみません」
先ほどの女性客だった。
「はい!」
浜谷の声が。
少し明るくなった。
細井が見る。
「…………」
「なんですか?」
「別に」
浜谷は女性客のところへ向かう。
「どうされました?」
「これ、どうやったら取れますか?」
「あー、これですね」
浜谷は景品の状態を確認する。
その間。
顔が。
少し。
ニヤついている。
浜谷は思った。
可愛い。
「この辺狙ってもらったら動くと思います」
「分かりました」
「もし難しかったらまた呼んでください!」
浜谷は細井のところへ戻ろうとした。
その時。
別の方向から。
手が上がった。
例の男性客だった。
「…………」
「はい!」
浜谷が向かう。
男性客が指差しているのは。
信濃路モンスターの景品。
人気モンスター。
ココのぬいぐるみだった。
男性客は。
無言で景品を指差す。
「こちらですか?」
頷く。
「アームが届かなくなりました?」
頷く。
「ちょっと見ますね」
「…………」
無言。
浜谷は景品を直す。
視線を感じる。
気がする。
怖い。
浜谷は内心。
めちゃくちゃビクビクしていた。
「一度これでやってみてください」
男性客が。
無言で頷いた。
浜谷は静かに離れる。
そして。
細井のところへ戻った。
「どうだった?」
浜谷は二人の客を交互に見る。
「まるで女神と閻魔大王でした」
「失礼だよ」
「いや、だって!」
「見た目だけで決めちゃダメでしょ」
「細井さんもさっき怖いって言ってたじゃないですか!」
「私は言ってない」
「言いましたよ!」
しばらくして。
また。
「あの、すみません」
女性客に呼ばれた。
「はい!」
浜谷はすぐ向かう。
「ちょっと動かなくなっちゃって」
「確認しますね」
浜谷が景品を見る。
確かに。
アームの届かない位置に入っている。
「じゃあ、少し直しますね」
景品の位置を手直しする。
「これでお願いします」
「ありがとうございます」
女性客がプレイする。
アームが降りる。
景品を掴む。
持ち上がる。
そして。
落とし口へ。
落ちた。
「おお!」
浜谷が思わず声を上げる。
「おめでとうございます!」
女性客は景品を取る。
「…………」
そのまま。
何も言わず。
去っていった。
「…………」
浜谷が固まる。
(え。感じ悪。)
さっきまで。
あれほど可愛いと思っていたのに。
なんとも言えない気持ちになった。
その直後。
また。
男性客が浜谷を見ていた。
「…………」
「はい!」
今度は。
ココのぬいぐるみ。
かなり難しい位置まで動いている。
浜谷は内心ビクビクしながら近づいた。
「ちょっと手直ししますね」
男性客が無言で頷く。
浜谷が位置を直す。
「これで一回お願いします」
男性客が百円を入れる。
ボタンを押す。
アームが動く。
ココを掴む。
持ち上げる。
動く。
そして。
落とし口へ。
ポトン。
「…………!」
男性客が景品を取り出した。
浜谷は少し緊張しながら。
「お、おめでとうございます!」
すると。
男性客が。
満面の笑顔になった。
「ありがとうございます!!」
「え?」
「うわー!嬉しいなあー!」
突然。
声が明るくなった。
「大好きなんですよ、ココ!!」
男性客はココを両手で持つ。
「うわー!可愛い!」
「…………」
浜谷が固まる。
さっきまで。
一言も喋らず。
強面で。
サングラスをかけて。
金のネックレスをしていた男が。
ココのぬいぐるみを抱えて。
満面の笑顔。
「あ、そうなんですね」
浜谷は少し困惑する。
「あ!さっきはすみませんでした!」
男性客が頭を下げた。
「え?」
「無言で……僕ちょっと人見知りで……」
「あ、そうだったんですか!」
浜谷は笑った。
「正直、めっちゃ怖かったですよ」
「よく言われるんです……」
男性客が苦笑する。
そして。
もう一度。
ココを見る。
「でも、お兄さんのおかげでココ取れました!ほんとにありがとうございます!」
「いいえ!こちらこそ、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
男性客はココを抱える。
そして。
出口へ向かって。
スキップして帰っていった。
「…………」
浜谷は。
その後ろ姿を見送る。
スキンヘッド。
サングラス。
金のネックレス。
半袖のジャージ。
その腕には。
可愛らしいココ。
そして。
スキップ。
「…………」
浜谷は細井のところへ戻った。
細井が聞く。
「どうだった?」
浜谷は少し考えた。
さっきとは。
答えが変わっていた。
「まるで鬼女と天使でした」
「極端だね」
「いや、ほんとに!」
浜谷は男性客が去っていった方向を見る。
「めちゃくちゃいい人でした」
「ほら。見た目だけじゃ分からないでしょ?」
「分かんないですね」
細井が笑う。
「百聞は一見にしかず、かもね」
「…………」
浜谷が細井を見る。
「ちょっと意味違うくないですか?」
「細かいことはいいの」
「いや、ことわざの意味変わってきますよ!」
浜谷は。
先ほどまで二人の客がプレイしていた。
二台のクレーンゲームを見る。
見ただけでは。
分からない。
話してみても。
まだ分からない。
実際に接客して。
初めて分かることもある。
浜谷は頷いた。
「百聞は一プレイにしかず、ですね」
「それも意味違うと思うけど」
「いいんですよ!」
今日も。
阿佐野店には。
いろいろな客がやってくる。
見た目だけでは。
その人がどんな人なのか。
分からない。
一度。
接客してみるまでは。