阿佐野店。
朝。
開店前。
バックヤードに、大きな段ボール箱が積まれていた。
浜谷が箱を見る。
「これ全部、今日出すんですか?」
古坂が頷く。
「うん」
「多くないですか?」
「お茶カワだから」
「なるほど」
それだけで浜谷は納得した。
最近。
人気漫画『お茶カワ』が映画化された。
元々は漫画。
そこからアニメ化。
そして。
ついに映画化。
その人気は、さらに大きくなっていた。
当然。
ゲームセンターにも、その波はやってくる。
今日入荷したのは。
お茶カワの新作ぬいぐるみ。
細井が箱を開ける。
「かわいい!」
樋口も覗き込む。
「今回のいいね」
「映画の衣装ですよね?」
「そうそう」
浜谷も一体手に取る。
「映画化すると、こんな変わるんですね」
古坂が言う。
「最近、お茶カワの景品すぐなくなるよ」
「そんな人気なんですか?」
「浜谷くん知らないの?」
細井が驚く。
「名前は知ってますよ」
「漫画は?」
「読んだことないです」
「アニメは?」
「見たことないです」
「映画は?」
「見てないです」
細井が浜谷を見る。
「何なら知ってるの?」
「お茶カワって名前くらいですかね」
「ほぼ知らないじゃん」
そこへ茂田がやってくる。
「準備できてるニダ?」
「もうすぐです」
古坂が答える。
茂田もぬいぐるみを見る。
「かわいいニダ!」
「茂田さんはお茶カワ知ってるんですか?」
浜谷が聞く。
「もちろん知ってるニダ」
「漫画読んでる?」
「読んでるニダ」
「アニメは?」
「見てるニダ」
「映画は?」
「10回見たニダ」
「大ファンじゃないですか!!」
「可愛くてたまらないニダ!」
「イカつい!」
開店。
数分後。
「…………」
浜谷はクレーンゲームコーナーを見た。
お茶カワの台。
もう客がいる。
一人。
二人。
三人。
順番を待っている客までいる。
「早っ」
細井が横に来る。
「人気だねぇ」
「開店してまだ全然経ってないですよ?」
一人の客が景品を獲得する。
ゴトン。
「やった!」
すぐ次の客が入る。
さらに。
別のお茶カワの台にも客。
浜谷が呟く。
「映画ってすげぇな」
昼。
「古坂さん」
「何?」
「補充しないともう背面にないですよ!」
「もう?」
「もうです」
浜谷がバックヤードから景品を持ってくる。
午前中に補充したばかり。
それなのに。
また景品が減っている。
樋口が別の台を確認する。
「こっちも少ないよ」
「マジですか」
細井が笑う。
「浜谷くん、忙しいね」
「僕今日、お茶カワ運搬係になってません?」
「頑張れー」
「細井さんも持ってくださいよ!」
「はーい」
二人で景品を運ぶ。
その横を。
映画帰りらしい親子が通る。
「あ!お茶カワ!」
「さっき映画に出てたやつだ!」
浜谷が反応する。
「映画館からそのまま来るパターンもあるのか……」
細井が言う。
「映画見た後って欲しくなるもんね」
「なるほど」
「浜谷くんも見れば?」
「一人で?」
「いいじゃん」
「大学生男一人でお茶カワですか?」
「誰も気にしないよ」
「じゃあ細井さん一緒に見に行きましょうよ」
「いいよ」
「え?」
細井は笑う。
「何その反応」
「いや、普通に了承されたんで」
「嫌ならいいけど」
「嫌とは言ってないです」
「じゃあ行く?」
「…………行きます」
「私の友達と3人でね」
「………遠慮します」
浜谷が少し考える。
古坂が後ろから言った。
「補充頼んでいい?」
「はい!」
午後。
さらに客が増えた。
樋口が台を見る。
「またなくなりそう」
浜谷が振り返る。
「また!?」
「浜谷くーん」
細井が呼ぶ。
「こっちも」
「嘘でしょ!?」
古坂も呼ぶ。
「浜谷くん」
「古坂さんまで!?」
三方向。
お茶カワ。
お茶カワ。
お茶カワ。
浜谷が頭を抱える。
「どんだけ人気なんですか!!」
茂田が通りかかる。
「映画効果ニダ!」
「映画化恐るべしですよ!」
浜谷はバックヤードへ向かう。
そして。
箱を確認する。
「…………」
固まった。
古坂が来る。
「どうしたの?」
浜谷が指差す。
「これ」
残り。
わずか。
「今日入ってきたんですよね?」
「今日だね」
「朝、あんなに箱ありましたよね?」
「あったね」
「もうこれだけ?」
「うん」
浜谷はしばらく考えた。
そして。
「漫画の景品は……」
「ん?」
「人気でおまんがな」
「…………」
古坂が浜谷を見る。
「何?」
「いや」
「何ですか?」
「急にどうしたの?」
「気にしないでください!」
夕方。
お茶カワの台には、まだ客がいた。
細井が景品の残数を確認する。
「これ、今日でなくなるかも」
樋口も驚く。
「すごいね」
茂田が腕を組む。
「お茶カワ、恐るべしニダ」
古坂が浜谷を見る。
「漫画からアニメになって」
樋口が続ける。
「アニメから映画になって」
細井が続ける。
「映画になったら、もっと人気になって」
浜谷が最後に言った。
「その結果」
全員がお茶カワの台を見る。
ゴトン。
また一つ。
景品が獲得された。
浜谷が言った。
「ゲームセンターの在庫がなくなる」
細井が笑う。
「現実的」
「こっちは仕事ですからね!」
漫画から。
アニメへ。
アニメから。
映画へ。
そして。
映画館から。
ゲームセンターへ。
今日も。
お茶カワを求めて。
たくさんの客がやってくる。
そして浜谷は。
今日何度目か分からない景品補充へ向かった。