原町中央店。
午後。
事務所。
浜谷が店のパソコンを見ていた。
仕事中。
決して遊んでいるわけではない。
社内ポータル。
その中にある。
『福利厚生制度について』
浜谷は画面をスクロールする。
「へぇ……」
資格取得補助。
予防接種費用の補助。
冠婚葬祭に関する各種制度。
健康診断。
その他。
いろいろ。
「うちの会社、意外といろいろあるんやな」
浜谷は感心していた。
その時。
「何見てるニダ?」
茂田が後ろから覗き込んだ。
「うわっ!」
「何ニダ?」
「福利厚生です」
「福利厚生?」
「こんなんあるんですね」
「あるニダ」
浜谷は画面を指差す。
「資格取る時、補助出るんですか?」
「対象の資格なら出るニダ」
「へぇー!」
スクロール。
「ワクチン接種も?」
「条件に合えば補助あるニダ」
「へぇー!」
さらに。
「冠婚葬祭費?」
「あるニダ」
「へぇー!」
浜谷の目が輝く。
「めっちゃいいじゃないですか!」
「ちゃんと色々あるニダ」
「全然知らなかったです!」
浜谷は画面を読む。
そして。
止まった。
「…………」
茂田が聞く。
「どうしたニダ?」
浜谷は無言。
「琉くん?」
画面の下。
小さな文字。
そこには。
『※アルバイトは対象外』
「…………」
浜谷が画面を指差した。
「茂田さん」
「何ニダ?」
「これ」
茂田が見る。
「…………」
「アルバイトは対象外」
「…………」
「僕」
「うん」
「アルバイト」
「うん」
「対象外」
「…………そうニダ」
「全部?」
「制度によるニダ」
浜谷はもう一度画面を見る。
「さっきまでのワクワク返してくださいよ!!」
「私が書いたわけじゃないニダ!」
そこへ。
日村が事務所へ入ってきた。
「……何してるの?」
浜谷が振り返る。
「日村さん」
「ん?」
「福利厚生って使ったことあります?」
「……あるよ」
「あるんですか!?」
日村が頷く。
「……健康診断とか」
「おお」
「……予防接種も」
「おお!」
「……資格の時も」
「おおお!」
浜谷の目が輝く。
そして。
画面を見る。
『アルバイトは対象外』
「…………」
目から光が消えた。
日村が聞く。
「……どうした?」
「僕、アルバイトなんです」
「……知ってる」
「対象外なんです」
「……そうだね」
「日村さんとの格差を感じます」
「……社員だから」
「正論が一番刺さる!!」
そこへ川原がやってきた。
「何してるんですか?」
浜谷が手招きする。
「川原さん!」
「はい」
「これ見てください」
「福利厚生?」
「資格補助」
「へえ」
「予防接種費用」
「へえ」
「冠婚葬祭」
「結構ありますね」
浜谷が一番下を指差す。
川原が読む。
「アルバイトは対象外」
「…………」
「…………」
二人は見つめ合った。
「川原さん」
「はい」
「社員ですよね?」
「はい」
「…………」
「…………」
川原が言った。
「閉じましょう」
「早い早い早い!」
「浜谷さんには関係ないページじゃないですか」
「夢くらい見させてくださいよ!」
「対象外って書いてあります」
「現実を突きつけないで!」
茂田が笑う。
「全部が全部、アルバイト対象外じゃないニダ」
浜谷が振り向く。
「え?」
「アルバイトでも使える制度はあるニダ」
「マジですか!?」
「ちゃんと調べれば出てくるニダ」
浜谷は再びパソコンへ向かった。
「それを早く言ってくださいよ!」
検索。
福利厚生。
雇用区分。
アルバイト。
浜谷と川原が画面に顔を近づける。
「これじゃないですか?」
「あった!」
二人の目が輝く。
浜谷が読む。
「従業員割引……」
「いいじゃないですか」
「各種施設の優待……」
「へえ」
「ほかにもある!」
「ちゃんとあるじゃないですか」
浜谷は嬉しそうにスクロールする。
「なんだ!アルバイトにもちゃんと福利厚生あるんだ!」
茂田が頷く。
「あるニダ」
浜谷はさらに読む。
「あ、これいい!」
「何ですか?」
川原が覗く。
浜谷が詳細ページを開く。
「…………」
止まった。
川原も読む。
「…………」
そこには。
『勤続3年以上の従業員が対象』
浜谷。
「…………」
川原。
「…………」
浜谷が笑顔になる。
「よっしゃー!僕3年目〜」
しかし、川原が呟く。
「3年目ってことは3年以上じゃなくないですか?」
日村が言う。
「……頑張って」
「軽いなぁ!!」
浜谷は腰に手を当てた。
「福利厚生って……」
茂田が聞く。
「何ニダ?」
「もっとこう……」
「うん」
「こうせい?」
「何を?」
「僕でも使えるように」
川原が言った。
「浜谷さん基準で制度変えないでください」
「希望くらい言わせてくださいよ!」
「僕だって資格取りたいんです!」
福利厚生。
会社が従業員を支える。
ありがたい制度。
しかし。
その制度には。
対象者というものがある。
社員。
アルバイト。
勤続年数。
その他。
条件。
浜谷は今日。
福利厚生について。
少しだけ詳しくなった。
そして。
一つの願いを持った。
「福利厚生は……こうせい?」
「だから浜谷さん基準で変えられませんって」
「川原さん、冷たいです!」
原町中央店では今日も。
同い年で立場の違う二人は働いている。